オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
2015年6月の読書メーター
17冊4411ページでした。
ペースダウンが著しいのですが……先日触れた英語の大著『Plato's Ghost』を読了したのが収穫でしょうか。
以下は抜粋です。
【漫画】
(このシリーズについての記事)
頑固な依頼人・ウベルティーノ氏との交渉に挑むアルテ。その後は同業組合からの依頼で、フレスコ壁画の制作に参加することになる。そこでの活躍が画家修業を続ける条件でもあるとのことで…。相変わらずハードな仕事にも偏見にも折れずに挑むアルテの姿がカッコ良く痛快。恋愛面ではレオ親方の代わりにアンジェロとの絡みが増えた気もするが…まあこちらは今のところアルテが意識していなさそうだけど。ただ下絵の穿孔転写法に関しては、(物の本にはそうあるものの)穴を開けてから顔料をすり込む必要があったのかやや疑問あり。専門的な話だが。
今巻の最後にはヴェネツィアの名士、ユーリ・ファリエルが登場。画家工房の「女の徒弟」アルテに興味を示し……と新たな動き。今後も楽しみです。
(大久保圭『アルテ 3』、徳間書店、2015、p. 180)
各話の間には脇役キャラの様子を描いた1ページ漫画が入って、これまた登場人物の人柄を感じさせてくれます。
今回いい味を出していたのはこの修道士。
「女の徒弟なんて」と問題視する連中が描かれる中で、「それがどうした」と言い放ってくれる気持ちの良さ。
(同書、p. 107)
また「男装をしているというわけでもあるまい」は、この時代の性規範において女が男装することh厳しく禁じられていたことを示しています。アルテが動きにくそうなドレス姿で仕事を続けているのはこのためですね。
なお、読書メーターの感想で触れた穿孔転写法の描写とは以下の箇所。
(同書、pp. 129-130)
この後に言葉での説明もありますが、下絵の線に沿って針で穴を空け、それを絵の支持体(この場合は壁面)に重ねて、上から顔料をすり込んでいます。
確かに物の本にはそう書いてあるのを見ます。
しかし――これは私ではなく専門家の指摘していたことですが、たとえば天上画でこれをやろうとしても、逆さなのですり込みにくいでしょう。
実のところ、直接下絵を支持体に重ねて穴を開けることで、支持体に直接穴を開けて転写すれば十分なのではないか、と。実際、よく調べると(顔料の点ではなく)輪郭に沿って物理的に穴が開いているのを確認できる作品もあるのです。
(このシリーズについての記事)
東京の街の中でトルコを描く漫画完結。ただ今回は、エルトゥールル号に始まる日本とトルコの交流、また時勢を踏まえたイスラム教関連の話題でイスラム国への言及等があるものの、トルコ文化紹介の要素はどちらかというと少なめ。将来の道が見えず不安に駆られていた若者達が異文化との出会いで新たな視野を得て道を選ぶ物語としても綺麗な締めかな。ただ恋愛要素は不器用さのゆえか立ち消えか…? ざくろの出身が名古屋なにを示唆するモチーフが嬉しい。
(このシリーズ既巻について触れている記事)
七つの大罪の地獄を巡る少年、アレキサンダーの狂気の遠征、ノアの阿呆舟……異なる層で展開されてきた多重レイヤー構造の物語が重なり、そして全てが現実に起こった何の象徴だったのかも明らかになる。危機にあって、「生きること」の追究のその先は……「人間」という一形態も些事となる。危機と不安の時代、生物保護の傲慢と多くを引き受けた巨編が完結。加筆訂正も相当量で、連載時には必ずしも整合していなかった部分も上手く(象徴や幻想において、だが)回収され、絶望的なようで希望のある終わり。凄まじかった。
大筋は原作を辿りながらも細部の展開や前後関係に結構組み替えありのコミカライズ。デスゲーム開始後から始まるので全体に急ぎ足な印象が強い。展開もさることながら、アクションも詰めすぎを感じる面あり。あとがきを見るに編集の意向かな。episodesからスイムとねむりんの件を取り込んでいるのは良かった反面、クラムベリーvsウィンタープリズンのカットが惜しい…。まあしかし、キャラの雰囲気と可愛さエロさに関しては変身前のイメージも含め及第点か。ルーラの人物像を示唆する気遣いが見所。
ライトノベルのコミカライズ作品です。(原作についての記事)
コミカライズの雰囲気については連載開始時にも若干触れました(その時の記事)。
作品としてそれなりの質を達成していると思う反面、原作を読んでいない読者に十分に伝わるのかどうかという懸念も、ないではありませんが……はてさて。
【人文学】
だいぶ以前に翻訳者より戴いたもの。14世紀のゴシック美術から18世紀のカナレット(景観画)やカノーヴァ(新古典主義彫刻)まで、52人の美術家を豊富で大きな図版と共に紹介。一人の作家に割かれる頁数は限られており、代表作が載っていないこともあるものの、一通りの伝記的情報も押さえており、イタリア美術への浩瀚な手引きとなっている。図版は全体図より部分のアップを大きく見開きで載せていることが多いのが特徴。
【自然科学】
高温・低温・高圧等あらゆる極限環境に対し強い耐性を持つことで知られるクマムシ。しかしその研究は未だ少なく、生活の多くも謎に包まれていた。そんなクマムシを研究した著者の記録。研究の始まり、飼育の苦労、対象とする(飼育しやすい)クマムシの発見、国際学会での成功とNASA行き……。クマムシの耐性そのものに関する研究成果の話は意外と少ないのだが、その過程を見るだけでも実験にあたりどれだけ細部への注意が必要かよく分かる。研究ポストを得る困難等世知辛い話も多いが、貴重なクマムシ研究入門でもあり興味深い一冊。
読んだ本の詳細は追記にて。
2015年6月の読書メーター
読んだ本の数:17冊
読んだページ数:4411ページ
ナイス数:411ナイス
今回は呪いの動画を観たという双子の女子高生、男性アレルギーだという女性、そして密室で溺死した男性の3本。今回はどちらかというと人間の行為の恐ろしさを描いたものは少なく「病気だった」というオチ主体で、個々のネタは読みやすいものもあったが、病気と人為を組み合わせた二段オチはやはり巧み。やはり見所は全体の半分を占める3話目、事件解決しないと小鳥遊は鷹央の許を去ることになる……二人の絆を改めて見せ付けられて良かった。院内政治という定番ネタも……次巻も楽しみ。
読了日:6月5日 著者:知念実希人
カンナが学校に入り、ファフニールさんが人間界に移住、といった件もあったが、サブキャラの介入にあまり頼らずあくまでトールと小林さんの関係を軸に展開しているのは好印象。緩い日常を描きつつ、本来の生き方も寿命も全く異なるドラゴンと人間が共存することとその困難を巡るシリアスな面もそこかしこに覗かせ、最後にトールの父親登場によりそれを一気に明言する形で盛り上げる。今回もなかなか良かった。
読了日:6月7日 著者:クール教信者
大量殺人鬼の紅守黒湖は、警察に命じられて凶悪犯罪者を殺す殺し屋として活躍している。(年齢的にたぶん無免許の)ドライバー・ひな子とバディを組んで、いわば犯罪者と警察の間の「コウモリ」として…。クマの浮かんだ悪相で自堕落なレズビアンの黒湖とふわふわしたひな子のコンビが楽しく、車でビルからビルへと飛び移りレーザーを弾く破天荒なアクションも読みやすく爽快。罠だらけの館に他の犯罪者達と共に閉じ込められた黒湖だが…というところで続く。ひとまず引き続き読んでみよう。
読了日:6月8日 著者:よしむらかな
犯罪者を集めて罠にかける悟兵衛の館編、終幕。今回館で一緒になったメンバーでは格闘家の桃山だけ退場か……ちょっと惜しい。ひな子が学校で下着泥棒捕縛に奮闘するエピソードを経て、大企業の社長を相手取るためその娘を拉致するという新たなミッションに。ひな子は中学生で確定、そしてその過去と黒湖の相棒をやっている理由も示唆される。こちらも一筋縄ではいかなさそうだ。後は、兵衛老人とミユキの件も未回収だがはてさて……?
読了日:6月10日 著者:よしむらかな
被害者の顔の皮を剥ぐ連続殺人鬼は今や会社社長の地位に収まっていた。その娘を保護しつつ、本人に接触する黒湖だが…。ひな子がその真の怖さを見せた巻。スナイパーの朽葉を初めとして過去に登場した面々も独自に動きながら関わり、さらに今巻で新たな(犯罪者)仲間も加入か? どこまでも自分の欲望に正直だからこその犯罪者で、それゆえ揺るぎない主人公が何だか爽快。凶悪犯罪増加の裏にいる連中(黒湖のことを知っている)の存在や警察の意向も示唆され、今後もますます楽しみ。
読了日:6月10日 著者:よしむらかな
千代の友達の妹を助けるため新興宗教「純潔の薔薇」に潜入した黒湖だが…放埒なようでも仕事では揺るぎない安心感を見せていた彼女だが、直接的な殺し合い以外では意外な弱点があったか…。彼女を救出するため千代が活躍。極道の娘らしい感じで良かった。今回も黒幕の存在を匂わせ、そしてアリアンナのことなど今後の種のなりそうな要素も残す。最後では凜子も仲間入り(黒湖の毒牙にかかり)……次も楽しみ。
読了日:6月14日 著者:よしむらかな
だいぶ以前に翻訳者より戴いたもの。14世紀のゴシック美術から18世紀のカナレット(景観画)やカノーヴァ(新古典主義彫刻)まで、52人の美術家を豊富で大きな図版と共に紹介。一人の作家に割かれる頁数は限られており、代表作が載っていないこともあるものの、一通りの伝記的情報も押さえており、イタリア美術への浩瀚な手引きとなっている。図版は全体図より部分のアップを大きく見開きで載せていることが多いのが特徴。
読了日:6月14日 著者:エレーナカプレッティ
Web版は少し目にしたがまるで別物になっていて驚いた。黒河透子は生前嵌っていた乙女ゲーの世界に転生する。いずれのルートでも悲劇的結末を迎えるライバルキャラ・アルティリアとして…。悲劇を回避するべく、固有スキルの人形魔法を磨く彼女は国家や世界の命運に関わる諸々に巻き込まれ…ゲームのストーリーを辿りながら要所を外すのではなく、完全に別方向に突っ走って大活躍、そしてモテる主人公が爽快。肉体年齢10歳なのに。バトルに関しては布石不足も感じられたが。新たな転生者も登場するようで次巻も楽しみ。
読了日:6月17日 著者:遠野九重
19世紀から20世紀前半にかけての数学と、その基礎付けに関する思想の動向を辿り、哲学や心理学にも言及、数学を形式的・自律的に捉える「数学的モダニズム」を浮き彫りにしつつ、そこに生きている「数学的プラトニズム」の実態の示す。モダニズムを規定する複数の項目全てが登場する主要な思想家に当て嵌まる訳ではもちろんなく、そこに問う余地のあることも多いし、芸術等他分野との関係については最初に軽く触れただけの感。しかしこの時代の数学に関わる主要な思想家をコンパクトに紹介しており、非常に優れた手引きとなる。力作。
読了日:6月17日 著者:JeremyGray
龍宮の誘いで随分と大規模になったまほら武道会に参加することになった刀太。そこにはネギが出場エントリーしているという…。だがネギの残したメッセージを見た雪姫は刀太を蚊帳の外に…悩む刀太。そんな彼を敵視する新たな敵が登場、そして彼の正体を突き付ける。過去の映像も含め、懐かしの『ネギま!』メンバーが多数登場。年齢のこと等含め刀太の正体に関してはすんなり。ネギの現状はかつてのナギと同じで歴史は繰り返していたのか……いやフェイトはそう思っていたが実態はその限りではない、という話なのか。
読了日:6月18日 著者:赤松健
頑固な依頼人・ウベルティーノ氏との交渉に挑むアルテ。その後は同業組合からの依頼で、フレスコ壁画の制作に参加することになる。そこでの活躍が画家修業を続ける条件でもあるとのことで…。相変わらずハードな仕事にも偏見にも折れずに挑むアルテの姿がカッコ良く痛快。恋愛面ではレオ親方の代わりにアンジェロとの絡みが増えた気もするが…まあこちらは今のところアルテが意識していなさそうだけど。ただ下絵の穿孔転写法に関しては、(物の本にはそうあるものの)穴を開けてから顔料をすり込む必要があったのかやや疑問あり。専門的な話だが。
読了日:6月22日 著者:大久保圭
空き巣の入った近藤宅で発見された謎の(呪いの)面。それは面の歴史を書き換えるような代物なのか。その頃益田は盗難の嫌疑をかけられていた。背後にあるのは、榎木津を陥れようとする羽田隆三の企み……これにて百器徒然袋シリーズ完結。謎解きよりも「悪い奴をやっつける」ことを軸にしたシリーズの色が今回はとりわけ強く出ていて、仕掛けと扮装も殊の外バカバカしい。テーマは面(文字通りの物から比喩的な意味まで)で、榎木津の不器用な面も垣間見えて心温まる締め。漫画としても今回は解決編がラスト2話で密度的にもちょうど良かった。
読了日:6月24日 著者:志水アキ
高温・低温・高圧等あらゆる極限環境に対し強い耐性を持つことで知られるクマムシ。しかしその研究は未だ少なく、生活の多くも謎に包まれていた。そんなクマムシを研究した著者の記録。研究の始まり、飼育の苦労、対象とする(飼育しやすい)クマムシの発見、国際学会での成功とNASA行き……。クマムシの耐性そのものに関する研究成果の話は意外と少ないのだが、その過程を見るだけでも実験にあたりどれだけ細部への注意が必要かよく分かる。研究ポストを得る困難等世知辛い話も多いが、貴重なクマムシ研究入門でもあり興味深い一冊。
読了日:6月27日 著者:堀川大樹
七つの大罪の地獄を巡る少年、アレキサンダーの狂気の遠征、ノアの阿呆舟……異なる層で展開されてきた多重レイヤー構造の物語が重なり、そして全てが現実に起こった何の象徴だったのかも明らかになる。危機にあって、「生きること」の追究のその先は……「人間」という一形態も些事となる。危機と不安の時代、生物保護の傲慢と多くを引き受けた巨編が完結。加筆訂正も相当量で、連載時には必ずしも整合していなかった部分も上手く(象徴や幻想において、だが)回収され、絶望的なようで希望のある終わり。凄まじかった。
読了日:6月27日 著者:しりあがり寿
東京の街の中でトルコを描く漫画完結。ただ今回は、エルトゥールル号に始まる日本とトルコの交流、また時勢を踏まえたイスラム教関連の話題でイスラム国への言及等があるものの、トルコ文化紹介の要素はどちらかというと少なめ。将来の道が見えず不安に駆られていた若者達が異文化との出会いで新たな視野を得て道を選ぶ物語としても綺麗な締めかな。ただ恋愛要素は不器用さのゆえか立ち消えか…? ざくろの出身が名古屋なにを示唆するモチーフが嬉しい。
読了日:6月27日 著者:市川ラク
大筋は原作を辿りながらも細部の展開や前後関係に結構組み替えありのコミカライズ。デスゲーム開始後から始まるので全体に急ぎ足な印象が強い。展開もさることながら、アクションも詰めすぎを感じる面あり。あとがきを見るに編集の意向かな。episodesからスイムとねむりんの件を取り込んでいるのは良かった反面、クラムベリーvsウィンタープリズンのカットが惜しい…。まあしかし、キャラの雰囲気と可愛さエロさに関しては変身前のイメージも含め及第点か。ルーラの人物像を示唆する気遣いが見所。
読了日:6月27日 著者:江戸屋ぽち
硬派な文体の中に野球史のパロディ満載で目眩…浄鏡殿上﨟所に移籍した香燻達三人。上位リーグとの実力差を見せ付けられ、出番すら中々得られない三人だが、そんな中突如としてトップである鏡の君が交代する。1巻に比べ、壁にぶつりかり悩み努力するスポ根物らしさが強く出て熱い。同時に、成り上がるために自分の活躍を求めねばならぬ選手の立場とチームの勝利というジレンマも。主人公は選手として脇役だが、確かにリーダーの資質があって、それは勝手に優秀な人材を育てたと自称する皇帝の無能と対比されて、政変の予感に反響するのだった。
読了日:6月27日 著者:石川博品
読書メーター
テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育
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