農家のための組織なのに、不満をもらす農家が少なくない。早急に改めるべき点があることの、何よりの証拠だろう。

 政府・与党が農業改革案で対象にした全農(全国農業協同組合連合会)の話だ。

 全農は、農協グループのなかで全国的な商社の役割を担う。肥料や農薬、機械などの購買事業や、農作物の販売事業を手がける。売り上げにあたる取扱高は年5兆円に迫り、世界の農協の中でも最大規模を誇る。

 その半面、事業が効率的でなく、組合員への貢献が不十分ではないか、と長年にわたって指摘されてきた。

 2003年に農林水産省の有識者会議がまとめた「農協改革の基本方向」は、全農の購買事業について、「組合員・会員は農協系統から購入するはずだ」という安易な姿勢があると指摘。競争の意識や、流通改革による値下げ努力が不十分で、割高な品目が多いと批判した。

 今回の改革案は、農業に使う資材の価格引き下げに向けて、事業のスリム化などを迫った。方向性は十数年前と同じだ。全農も自主改革案を示し、取り組みを始めているものの、これまでの経緯を見ればスピードに欠けるのは明らかだろう。

 自らリスクをとって販路を開拓するといった試みを含め、組合員にもっと貢献するための転換を加速させるべきだ。生産・流通の効率化は、安くて品質の良い農産物を求める消費者の利益にもつながりうる。

 今回の議論では、政府の規制改革推進会議のワーキング・グループがまとめた意見が波紋を広げた。全農の組織転換に「1年以内」といった期限を切り、選挙による会長選出や、改革が進まない場合の「第二全農」の設立推進など、急進的ともいえる内容を盛り込んだからだ。

 ワーキング・グループの意見が突然打ち出されたこともあって、農協側は過剰な介入だとして激しく反発した。緊急集会を開いて与党にはたらきかけ、与党が期限などの「トゲ」を抜くかたちで決着した。

 農協は民間団体であり、業務の細部まで政府が左右すれば、自己責任に基づく経営が失われかねない。ただ、農協側がそう反論する以上、組織運営に組合員の声が十分に反映されているか、他の企業・団体と競争したうえで組合員に選ばれて利用されているか、改めて厳しく問われることになる。

 与党への影響力に安住するのではなく、山積する日本農業の課題に自ら向き合うことが必要だ。