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打ち上がるか 格安民間ロケット

欧米で進む、“宇宙ビジネス”の拡大。その一方で、日本は、宇宙開発の技術力が世界でも高いレベルに達しながらも、宇宙ビジネスへの参入は出遅れています。こうした中、民間企業の宇宙分野への参入を後押しする新たな法律「宇宙活動法」が、今月、成立しました。この新しい法律を後ろ盾に、今、北海道の2つの中小企業が、独自のロケットの開発に挑んでいます。来年には、日本の民間企業では初めて、高度100キロを超えて宇宙空間に届く可能性も出てきています。日本で初めての民間ロケットは生まれるのか、開発の最前線を取材しました。(科学文化部・鈴木有記者)

年明けにも宇宙空間へ

宇宙ビジネスへの参入を目指して、3年前に設立された、北海道大樹町のベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」社。今月中旬、ロケットエンジンの試作品を燃焼させる重要な実験が行われました。「3、2、1、0」。「ブォーッ」というごう音とともに、すさまじい勢いで炎が噴射されました。狙いどおりの性能を達成し、実験は成功しました。

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この会社では、これまでに、高度6キロ付近までロケットを打ち上げる実験に成功しています。今回、実験を行ったのは、高度100キロを超える「宇宙空間」まで打ち上げるためのエンジンです。燃焼実験の成功を受け、この会社では、年明けにも、日本の民間企業で初めて高度100キロ以上の宇宙空間にロケットを打ち上げる実験を行うことになりました。

超小型市場を狙え

このベンチャー企業の社長を務めるのは、稲川貴大さん、29歳です。社員は20代を中心に14人。実業家の堀江貴文氏が出資しています。
稲川さんは、「ロケットは、宇宙にモノを運ぶための、これからの時代に欠かせないインフラで、このインフラの分野を革新するイノベーションを起こしたい」と意気込みを語ります。

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稲川さんが狙っているのが、大きさが数十センチ程度の「超小型衛星」を打ち上げるビジネスです。そのため、稲川さんたちは、「超小型衛星」を搭載する全長10メートル程度のミニロケットの開発に取り組んでいます。

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打ち上げ費用を今の数十分の1の数億円にまで抑えることができれば、通信や観測などのために衛星を打ち上げたい企業を顧客にできると考えているのです。将来的に年間100機の受注を目指しています。

コストを抑えるために、ロケットの開発に使う部品は、すべて民生品です。例えば、電源用のICを、東京・秋葉原の電気街で「10個280円」で調達したり、エンジンの部品に使う金属板を、ネット通販で取り寄せたりしています。

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さらに、発射台からエンジンまで、すべてが自社工場での手作りです。
稲川さんは、「ミニロケットの技術開発も順調に進んでいる。そこに、今回、宇宙活動法ができたことで、われわれが本格的に宇宙ビジネスに参入する環境がいよいよ整ってきた」と話しています。

欧米で拡大する宇宙ビジネス

欧米ではすでに民間企業が相次いでロケット開発に参入しています。アメリカでは、人工衛星の打ち上げだけでなく、国際宇宙ステーションに物資を運ぶ宇宙輸送船の開発や打ち上げも民間企業が行っています。

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さらに、IT企業の「グーグル」が出資して商業衛星およそ4000機を打ち上げる計画が発表されるなど、宇宙ビジネスが急速に拡大しようとしています。

一方、日本の宇宙開発は、国の主導で進み、技術では世界でも高いレベルに達しているものの商業利用はほとんど進んでいません。宇宙関連機器の市場規模は、アメリカが5兆円なのに対し、日本はその16分の1にとどまっています。

「宇宙活動法」が成立

こうした状況を変えようと今月9日、参議院本会議で、宇宙分野に参入する民間企業を後押ししようという、「宇宙活動法」が可決・成立しました。

日本では、これまで、JAXA=宇宙航空研究開発機構が関わる形でしか、ロケットの打ち上げはできませんでしたが、今後は、国の許可があれば、民間企業でもできるようになりました。
さらに、この法律では、民間企業の宇宙分野への進出を後押ししようと、打ち上げに失敗して保険で払いきれないほどの損害が発生した場合、残りの損害を国が補償する仕組みも盛り込まれています。
日本の民間企業が宇宙ビジネスに参入するハードルが一気に下がったのです。

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「宇宙開発は誰でもできる」

「これからの時代は、誰でも宇宙開発に参入できる」と、全くの異業種から宇宙ビジネスへの参入を目指す中小企業もあります。
リサイクルの作業場で使われる装置を製造している北海道赤平市の「植松電機」は、従業員20人の会社ですが、社長の植松努さんは、12年前から副業として、北海道大学とともにロケット開発を進めています。

植松さんが開発するロケットは、燃料に大きな特徴があります。開発中の燃料は、直径およそ30センチ、高さおよそ15センチの円筒形で、色は真っ白です。スーパーのレジ袋やペットボトルのキャップに使われているポリエチレンが素材です。
身近な素材で作られ、保管も簡単なため、打ち上げコストを下げられるメリットがあります。

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点火が難しいため、当初、エンジンの実験は失敗の連続でしたが、徐々に技術力が上がってきているといいます。ことし4月には、技術的に難しい2段式のロケット実験に成功。将来的には「宇宙活動法」を活用して衛星を打ち上げることを目指しています。

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植松さんは、若い世代向けのロケットの体験教室も開いています。人材が育つことで日本の宇宙ビジネスがもっと活性化してほしいという願いからです。
植松さんは、「宇宙開発は、国家だけが取り組むものではなく、一般のわれわれも取り組めるものになってきた。宇宙ビジネスを目指すことはもちろん、宇宙開発に挑むことを通して、私たち自身の可能性を広げることにもつながる」と話しています。

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宇宙ビジネスに地域も期待

宇宙活動法の成立で、日本でも“民間ロケット”の実現へ道が開かれたことに、大きな期待を寄せている自治体もあります。
北海道大樹町は、広大に広がる平原と、ロケットが進む南東側に海があることから、ロケットの打ち上げに適しています。町では、宇宙ビジネスの本格化に合わせて、多くの宇宙関連企業を誘致したいと、今、ロケットの打ち上げ実験に取り組む中小企業を、安全確保の面などで最大限、支援しています。

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大樹町の布目幹雄副町長は、「宇宙ビジネスへの参入を目指すベンチャー企業の皆さんに、『大樹町はロケットの打ち上げに適した場所だ』と思ってもらうことができれば、町の注目度は大きく上がると期待している」と話しています。

日本の新たな産業になるか

法律づくりに関わった内閣府宇宙政策委員会の青木節子委員は、「日本の宇宙技術は相当程度高いが、宇宙の商業利用については出遅れている。今回の法整備をきっかけに一気に挽回できるように国を挙げて取り組んでいく必要がある」と宇宙ビジネスを日本の産業の柱として育てていく重要性を強調しています。

実は、アメリカでは、今回、日本で成立した「宇宙活動法」と同じような法律が、30年以上も前に作られ、それが、今の活発な宇宙ビジネスにつながっていると言われています。それに比べると、日本はようやくスタートラインにたったばかりです。 「官」主導から、民間が主役の宇宙開発に転換し、世界の競争に追いつくことができるのか、ものづくりの現場を含めた日本の力が試されています。

★★名前★★
科学文化部
鈴木有 記者