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植物工場に3つの「安」 富士通など海外で挑む

2016/11/28 18:07
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 建物内で野菜などを育てる「植物工場」が広がり始めている。富士通は28日、フィンランドで植物工場を運営する新会社を設立すると発表した。パナソニックもシンガポールで事業の立ち上げを急ぐ。発光ダイオード(LED)などを使って効率よく野菜を栽培する植物工場。人口増大で深刻化する食糧問題の解決策の1つにもなり得るが、普及に向けては、3つの「安」がキーワードになりそうだ。

初期投資、4年で回収

 富士通が設立する新会社では、フィンランドの首都ヘルシンキから100kmほどの郊外で2017年からLED光でリーフレタスやベビーリーフなどの葉物野菜を自動生産する計画だ。得意のIT(情報技術)を駆使して効率生産を図る。約3億円の初期投資を「約4年で回収する」(同社)という。自ら植物工場を運営することで効率的な栽培ノウハウを取得し、生産設備やITシステムを現地の農業生産者にも販売していく構えだ。

 それにしてもなぜ、フィンランドなのか。その答えが、一つ目の「安」、すなわち野菜の安定供給だ。

 北極圏に近いフィンランドでは夏場には日が沈まない「白夜」が訪れる一方、冬場の日照時間は極端に短い。例えば南部に位置する首都ヘルシンキの1月の平均的な日照時間は6時間。北部では1日中、日が昇らない場所もある。

 そうした地理的な制約から、同国では野菜の輸入量も多い。だからこそ、太陽光に頼らずに生産できる植物工場の強みが生きる。

 食の「安全」面でも植物工場は有利だ。植物工場では温度や湿度などの管理を徹底すれば、農薬を使わなくても栽培できるからだ。実際、農業先進国であるオランダでは植物工場で無農薬で生産した野菜を有機野菜として世界各地に売り込んでいる。パナソニックも中国などからの輸入野菜の増加で残留農薬に不安を抱く消費者が増えるシンガポールで植物工場事業に力を入れている。

日照不足の国などにマト

 今後の普及のカギを握るのは価格だろう。パナソニックがシンガポールで売る植物工場産のサラダは、マレーシア産の輸入サラダの約2倍。投資負担が重いだけに、どうしても価格は高くなる。

 比較的きれいな環境下で栽培できる日本ならば、わざわざ工場を立ち上げて野菜を育てる必要性も乏しい。1990年代にはオムロンが温度や肥料、水などの栽培条件を自動制御するトマト栽培に参入したが、栽培が軌道に乗らないまま撤退した。当時と比べると、栽培技術が高度化しているとは言え、日本で植物工場で収益を上げるのは簡単なことではない。

 それでも、各社が植物工場に目を向けるのは「安さ」を実感できる地域が世界に広がっているためだ。それが日照不足という農業には不向きなフィンランドであり、食の安全に消費者の関心が向かうシンガポールなどのアジア諸国だ。アジアの植物工場の生産品の市場規模は2025年に2兆円規模になるとの試算もある。

 3つの「安」を軸に植物工場はどこまで農業市場で存在感を高めるか。新たな商機を探る企業の動きが加速すれば、未来の食卓の姿は大きく変わるかもしれない。

(富田美緒)

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