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【北条 かやさん】文章で何かを伝えたい。そんなマグマのようなものがあった。~輝き人 第10回~

ライター 北条 かや さん

プロフィール

1986年、石川県生まれ。2009年に同志社大学社会学部、2011年に京都大学大学院文学研究科修士課程修了。ブログ「コスプレで女やってますけど」や、ツイッター「@kaya_hojo」が注目される。民間企業に入社後、1年半ほどで退社。塾講師などのかたわら、「BLOGOS」「Yahoo!ニュース」などに記事を提供する。2014年2月に『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)を刊行。それを機に、「J−CASTニュース」をはじめ、複数のメディアに、社会学やジェンダー論、経済系などの記事を寄稿するようになり、現在に至る。他の著書に『整形した女は幸せになっているのか』(同)がある。NHK「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。

 

フリーランスで生きるしかないと背中を押したのは、「会社員失格」という挫折感。

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●キャバクラや美容整形など気になるフィールドに自ら切り込み、得た体験から考察を重ねる書籍を出版。そのかたわら、Webメディアを中心に、新世代ならではの視点で記事を発信し続けていらっしゃいます。修士課程修了のご経歴からいって、大学に残って研究を続ける道もあったと思うのですが……?

はい、研究者になることも考えました。ただ、私が大学院に進んだころには、ポスドクの問題が表面化してきていたこともあり、院の先輩や同級生にも就職組が目立ち始めていたんです。先輩方がやりがいを持っていきいきと「会社員」をしている姿に影響された部分はありましたね。学生時代はずっと親がかりだったので、「会社員として、自分のお給料で自分の身を立てる」とはどういう感覚だろうと思いましたし、とにかく一度社会に出てみないとわからないこともあるのではないかと。博士課程には頑張ればまた戻れるかもしれない……という打算もあり(笑)、まずは就活するほうへ傾きました。

●選んだのは、わりとお堅い民間企業ですね。

就活サイトに登録してふつうに就職面接を受けていたんです。一方で、公務員のほうがいいんじゃないかとか、親孝行したいから地元の金沢の企業を受けようかとか、いろいろ迷って。どんな仕事に就きたいかについては漠然としていました。最終的には、学生時代に統計学をかじりましたので、それを生かせそうな東京の会社に就職しました。東京の大きな会社で働くことが、将来的に役に立ちそうだと思ったんですね。

●そこから、なぜライターを志すようになったのですか?

一足飛びにライターを目指したわけではなかったんですが、やはり、何かを発信することに執着があったんだと思います。ブログやツイッターは、修士課程にいた2010年ごろ、ちょうどアルファブロガーやアルファツイッタラーが話題になりつつあるころから始めていました。当時のフォロワーは2000人くらいでしたが、無名の学生にしてはまあまあ多いほうだったと思います。

私自身の体験とも関わるんですが、高校時代から、「女性についての違和感」をずっと感じていました。それで女性問題にまつわる発言などをネット上に書き込むようになり、いろいろ手応えがあったんです。それと知らずに、どこかの大学教授とバトったりも。ところが、学生時代はそういう状況でよかったんですが、社会人になってみると、私がネットで活動していることが案外ウワサになりまして……。

●そうなると、ちょっと居づらくなりますよね。

そうですね。ちょうどそのタイミングといいますか、2012年に初めてWebライターとして指名でお仕事をいただく機会があったんです。「AM(アム)」というサイトですが、ここで「ブスとは何か」を定義しろというお題でした。そこで色んな人にアドバイスを求めて、熟考したんです。ブログなどで一方的に発言しているのとは違い、ライターとして原稿料をいただく立場になれば責任が生まれます。副業との二足のわらじというのは、会社に迷惑をかけてしまうかもしれませんし、私自身も両方をまっとうする自信がありませんでした。それなら思い切ってライターの道でいこうと決断しました。

●フリーランスになることに対して、不安はなかったんですか?

不安しかなかったです(笑)。同級生はみんな新卒で入った会社でがんばっているころなのに、まだライターとしてやっていけるかどうかもわからないまま辞めたわけですから。会社員としてとにかく1年以上はがんばろうと思っていましたが、実際に1年やってみても達成感がなかったというか、むしろ、どんどん自信がなくなっていきました。自分には組織への適合性がまったくないことを思い知らされて。仕事ができないと思うと、自尊感情が徐々にすり減るんですよね。満員電車に揺られていると「私がこうしていることも、会社にとってはコストなんだな」と思って苦しかった。

今思えば、就職しようと思ったのは、社会に適応しなくてはいけないという思いが強かったからなんですよ。「社会人たるもの、経済的に自立しなくては……」「会社組織に自分を合わせていかなくては……」と形だけ合わせようとしていたんですね。私が就活していたのは、2009年頃で、リーマン・ショックからそれほど回復していなかった。就職率もそんなによくない時期だったのに、私は内定をいくつかもらえ、わりとうまくいったんです。我ながら「これなら社会に順応できるぞ」とほくそ笑んでいましたが、現実は全く違いました。辞めてからも、ライターとして順風満帆だったわけではありません。単価も今と比べて本当に低いところからスタートしています。お金がないので実家に帰り、塾講師のアルバイトをしながらでした。

自分から動いて得た細いつながりを握りしめ、「本にするんだ」と必死でした。

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●では、なにがきっかけで、フリーとしてやっていけるという自信がついたんですか?

本を出してから、KDDIさんが運営するサイトで、「新世代エイジョカレッジ(エイカレ)」というプロジェクトが始まり、キャリア女性たちを取材する記事を担当したんです。ここで、KDDIさんや、リクルートホールディングスさん、サントリーホールディングさんなど大企業で働く女性たちの肉声を聞き、取材記事にしました。その時、華々しい経歴の女性たちでさえこれからのキャリア形成に迷っていることを知り、誰もが悩んでいるんだとすごく気がラクになったんですね。ライターの仕事としても大きかったので、こうして仕事を頂くことができれば、やっていけそうだと感じました。大きな転機になったと思います。

1冊目の『キャバ嬢の社会学』が出たのは、ある編集者さんとつながることができたのが大きかったです。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』(山田真哉著)『99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』(竹内薫著)などの新書を手がけ、ヒットを飛ばしていた編集者さんが私のツイッターアカウントをフォローしていると伝え聞き、DMをお送りして。「キャバ嬢の社会学という内容で、本を出したいのです」と相談したら、原稿を見ていただけることに。初稿は論文だったのですが、それを大幅にリライトするアイデアをいただいて、星海社の今井雄紀さんに見ていただきながら2013年に完成させました。当時は金沢に住んでいたので、打ち合わせのため、塾終わりに夜行バスで行き来したりしましたね。

●本はメディアでも広く取り上げられていたことを覚えています。出版したことで、身辺は変わりましたか?

書くだけではなく、テレビなど、ライターとして発言する場が増えました。おかげさまで、やっと生計を立てられるようになりました。フリーのライターになったことを、しばらくは知人にも内緒にしていたのですが、だんだん知られるようになってきて。「やっぱりそっちのほうにいったんだね」と言われることが多いです。もしかすると、学生時代から、社会学に限らず、何か表現したいという邪念を抱えた人と思われていたのかも……と、今ごろになって感じたりします。短歌や俳句の創作も好きでしたし。

●ご自身の経験を踏まえつつ、20代へ伝えたいメッセージをお聞かせください。

おこがましいですが、自分の失敗を踏まえて言いたいのは、「社会に適応しようとすることは、がむしゃらに頑張ることとは全然違う」ということです。私は、会社に自分を合わせよう、社会人らしくやろうと、「どうなりたい」というビジョンもなしに、ただ自分を押し込めていました。会社に適応するためには、自己主張してはいけない、言われたことを聞いて、密かに結果に出すのがいいことだと思い込んでいました。結果、上司や先輩からは、「かやさんは何か芯のようなものがあるのを感じるけれど、自己主張をしないから、何を考えているのかわからない」と指摘されたこともあります。たとえまだよちよちだと思っても、あくまで謙虚にですが、「自分はこれができます」「これがやってみたいです」というふうに、自分を出したほうがいい、はっきり意志を伝えたほうがいい、とは思いますね。自戒を込めてですが、頑張ることと、なにかに無理に適応しようとすることは、分けて考えたほうがいいと感じています。

●今後ご予定されている活動について、教えてください。

大学のころから社会人1、2年生のころは、「生きづらそうだね」と言われることが多くて、実際、社会に適応しようと無理していた自分と、書いて表現したいというマグマを抱えた自分、2人の自分がいるような気持ちでした。ですから、私が社会学に傾倒していったのは自然なことだと思うようになりました。社会学は、どうやって社会的な規範が成り立っているのかを研究する学問なので、自分が縛られている規範の出所を明らかにすることができる。現実との違和感を救ってくれる学問でもあるんです。どんな学問にもそうした側面はあるでしょうが、社会学は特に、先人たちはこんなふうに解釈しているんだなと、目の前の霧が晴れていくような思いを味わえる。お叱りも多く頂きますが、そこで培った自分なりの軸を大事に、書いてきたいと思います。

今、3作目の準備に取りかかっていて、テーマは結婚です。自分の周りを見ていても、結婚するかどうかが、女性たちのすごく重要なテーマとして人生にのしかかっています。結婚していない女性にスポットを当てて取材や資料の読み込みをしているのですが、来年1月くらいに出せたらいいなと思っています。

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著者情報

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三浦 天紗子
ライター・ブックカウンセラー
東京都生まれ。女性誌、文芸誌を中心に、インタビュー、文芸、医療、ビジネスコンテンツ関連の執筆、編集を務める。
『anan』『CREA』『Domani』などでBOOKやCOMICのページを担当。
著書に、『そろそろ産まなきゃ 出産タイムリミット直前調査』(CCCメディアハウス)『震災離婚』(イースト・プレス)などがある。