昔話。
我が家にはクリスマスがなかった。
いや、小さい頃はあった。
ツリーやケーキやプレゼントなど普通にクリスマスがあった。
けど私が7歳の時に突然なくなった。
理由はお察し。
親は「もうそろそろいいだろう」なんて思ったんだろう。
でも子どもにとってのクリスマスがもういいかどうかなんて親が決めることじゃない。
私は「クリスマスなんてもういいや」なんて一度も思ったことなかったんだから。
「じゃあ私より兄の方がプレゼントを多くもらってる。ずるい」
なんてことを子どもながらに考えて悔しかった。
そして我が家からクリスマスが消えた。
きらびやかなツリーもケーキもチキンもプレゼントも全部なくなった。
でも毎年やってくるクリスマスシーズン。
テレビも街も全部クリスマス一色にそまる。
クリスマスイブの夜、親とスーパーに行った帰りにケーキ屋の前を通った。
たくさんの人がケーキを買いに来ていてお店は大繁盛だった。
大きな箱を持って帰る人たちみんな幸せそうに見えた。
私はそれを遠くから見ていてただただうらやましかった。
自分だけ世間から取り残されたような気分。
クリスマスのあさ、目が覚めるとすぐに枕もとを確認する。
もしかしたらプレゼントがあるかもしれない、と。
でもやっぱりない。
サンタの存在はわかっていた。
だけど目が覚めてそばにプレゼントがあったあの喜びを私は忘れることができなかった。諦めることができなかった。
私はツリーもケーキもチキンもプレゼントもお菓子の入ったサンタブーツも全部全部がまんして育った。
高校を卒業して家を出た私は自由になった。
今まで抑えていたクリスマス欲を爆発させた。
ツリーを買って部屋にかざり、いろんなイルミネーションも見に行った。
イブの夜はサンタの帽子をかぶりチキンとケーキを食べて眠る。
憧れのケンタッキーも食べることができた。
ただそれだけで大きな幸せを感じた。
(そのあと外国人はクリスマスにケンタッキーを食べないことを知って愕然とする)
一年の中でクリスマスシーズンが一番好きになった。
街中が幸せであふれるようなあの雰囲気が大好きだ。
そして私は結婚して子どもが生まれた。
娘は2歳。
今回初めて娘と一緒にツリーの飾りつけをした。
ツリーの下の部分だけやけに飾りが多いけど、立派なツリーが出来上がった。
ライトをつけるとピカピカ光り、それを見た娘はとてもうれしそう。
プレゼントはままごとキッチンに決めてある。
今年はクリスマスのあさ、ツリーの下にプレゼントを置くことにした。
娘はどんな反応をするのか楽しみ。
私はただこんなふうにささやかな幸せを感じたかったんだ。
食事もプレゼントも立派なものじゃなくていいから、家族みんなで楽しく過ごしたかった。
親には親の事情があるんだろうけど、それを突然奪われた悲しみはいつまでたっても納得することはできなかった。
でも今こうして大切な家族とクリスマスを過ごすことができるようになって本当にしあわせ。
過去の寂しい気持ちをうめていくように今年もクリスマスをお祝いする。