岐阜県美濃加茂市の浄水プラント導入を巡り、受託収賄罪や事前収賄罪などに問われた同市長、藤井浩人(ひろと)被告(32)の控訴審判決で、名古屋高裁(村山浩昭裁判長)は28日、無罪とした1審・名古屋地裁判決を破棄し、懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金30万円の逆転有罪判決を言い渡した。
藤井市長は、美濃加茂市議だった2013年4月、災害時の給水設備「自然循環型雨水浄水プラント」を同市の中学校に設置するよう便宜を図る見返りに、経営コンサルタント会社社長、中林正善受刑者(46)から2回にわたり現金計30万円を受け取ったとして起訴された。
中林受刑者は「藤井市長に現金を渡した」と供述し贈賄罪などで懲役4年が確定した。藤井市長の1審公判でも同様に証言したが、地裁判決は中林受刑者の供述が捜査段階で変遷しているなどとして「信用性に疑問がある」と判断した。検察側は「信用性に疑いをいれる余地はなく重大な事実誤認がある」と控訴した。
控訴審でも現金授受の有無が争われ、1審と同様に「中林供述・証言」の信用性が最大の焦点になった。中林受刑者を取り調べた警察官や中林受刑者の証人尋問が実施された。
検察側は、藤井市長が浄水プラントの導入に積極的だったこと、市長との面会日に中林受刑者が預金を引き出していることなどの「間接事実」を列挙し、「現金授受の存在を推認させるとともに、中林証言を裏付けている。1審判決は『間接事実』を適切に評価していない」と訴えた。
さらに、中林受刑者が控訴審でも改めて現金授受を証言し、警察官の証言やその取り調べメモの内容ともつじつまが合うことから、中林受刑者の証言は信用性が高いと主張した。
これに対し弁護側は、検察側が主張する個別の事実は現金授受の間接事実になり得ないとして「多くの『ごまかし』『すり替え』を行うなど、証拠や事実の評価が不当」と反論した。中林受刑者の供述・証言は虚偽だと改めて主張し、中林受刑者は「1審同様に証言しなければ偽証による制裁の可能性が高まる」と恐れ、外部から1審の判決書を入手して控訴審の証言内容を準備したなどと訴えた。【金寿英】
美濃加茂市長を巡る経緯
藤井市長は2013年6月、28歳で全国最年少市長として当選したが、14年6月に愛知、岐阜両県警に逮捕された。浄水プラントの導入を検討するよう市議会で発言したり市職員に促したりした見返りとして13年4月2日に中林受刑者から現金10万円を受け取り、市長選に立候補しようとしていた同25日には市長就任後も便宜を図る見返りとして20万円を受け取ったとして起訴された。14年9月に裁判が始まり、検察側は懲役1年6月、追徴金30万円を求刑したが、名古屋地裁は15年3月に無罪を言い渡した。藤井市長は一貫して無罪を主張している。