労働組合の全国組織「連合」が先週、来年の春闘の方針を決めた。2%程度のベースアップ、定期昇給を含めて4%の賃上げを求めている。

 今春までの3年間、日本の主要企業は円安などによる収益改善を背景に、ベアを含む賃上げに応じてきた。しかし、今年に入って為替が円高方向に転じ、業績見通しにも陰りが生じている。来年の春闘は厳しくなりそうだとの見方もある。

 だが、少し長い目で見れば、全体として企業側には賃上げの余力があるはずだ。

 2015年度の企業の経常利益は12年度と比べ、4割近く増えている。大企業の伸びはさらに大きい。今年度は減益に転じても、水準としてはなお高い。

 一方で、賃金も3年連続で上がり、雇用も改善してきた。だが、企業が生み出した付加価値と比べた労働者の取り分の割合(労働分配率)は低下が続く。

 景気が良くて企業の利益が増えるとき、労働分配率が下がること自体は珍しくない。だが、法人企業統計でみると、15年度は、リーマン・ショック前で企業業績が好調だった07年度とほぼ同じ水準まで下がっている。

 設備などの投資におカネがかかるので賃金に回す余裕がない、というわけでもなさそうだ。企業が手元に持つ現預金は着実に増えている。

 企業が将来を見て投資を考えるように、家計も所得が安定して伸びていくと見込めなければ支出を増やしにくい。消費が頭打ちになれば、企業の成長も制約される。経済を縮小均衡に陥らせないために、賃上げに前向きな判断をすべきときだ。

 経団連の榊原定征会長は、来春闘でのベアについて「出せるところは出してもらった方がいい」と語っている。今後の姿勢を注視したい。

 一方、政府と日本銀行は、今回も賃上げに期待をかける。安倍首相は経済界に(1)少なくとも今年並みの賃上げと4年連続のベア(2)将来の物価上昇も勘案(3)下請けの中小企業の取引条件の改善、といった要請をした。

 「経済の好循環」のカギが賃上げだというメッセージは分かる。だが、時の政権が、交渉の具体的な内容にまで踏み込んで介入したり、「官製春闘」とみられるような状況が常態化したりしては本末転倒だ。

 毎年、賃上げ要請が必要な状況があるとすれば、それは労使の力の差が広がっているからではないか。その場その場の口出しより、根本的な原因に目を向け、状況そのものの改善を考えるべきだろう。