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刑務所にも不況「回す仕事ない」 刑務官ら飛び込み営業

2009年5月24日12時28分

写真ミシンを使って子ども服などの縫製作業をする受刑者=東京・府中刑務所、小林裕幸撮影

 3月、大阪刑務所(堺市堺区)を訪れたリサイクル業者が申し訳なさそうに言った。

 「そちらに回す仕事が無くなりました」

 担当の刑務官は「そんなこと言わず、うちの事情もわかってください。なんとかもう少し……」と懇願した。だが、リサイクル業者は不況で負債を抱えて業務の縮小を迫られており、それ以上頼むことはできなかった。

 懲役刑を受けた受刑者には刑法で定められた刑務作業が科され、法務省によると、刑務所内で着る衣服の製造や農作業などを除き、作業の約9割を民間から受注している。

 大阪刑務所の受刑者約2300人は、自動車部品の組み立てや鉄骨部材の加工、縫製などの作業をしている。昨夏までは金属など原材料価格の高騰で、家電製品やパソコンの分解・仕分けなどの作業など断るほどの仕事があった。

 今年に入って事態は一変。業者からの発注量が減り、3月には、金属加工の仕事を回してくれていた建築資材会社が倒産。昨年4月に78社あった発注元は、3月末までに6社減った。4月には140人分の仕事が足りず、発注業者に仕事を増やしてもらうよう頼み込んだ。

 同刑務所によると、バブル景気崩壊後の93年ごろでも、業者に声をかければ仕事はあった。いまは10社回っても仕事が取れないことが多い。作業内容も変わり、小物の袋詰めや、紙を折って作る紙袋の生産など単純作業が増え、現在は作業全体の半分近くを占める。

 「いまは無理して仕事をもらっている状態。これもいつまで続くのか……」(同刑務所)と、不安を隠せない。

 約2800人が作業をする府中刑務所(東京都府中市)でも、3月末に40人分の作業が無くなり、単純作業で穴埋めしているという。

 名古屋刑務所(愛知県三好町)では、昨年秋から刑務官らが新たな仕事を求めて会社を回る「アポなし営業」を始めた。トヨタの業績悪化とともに受注が減ってきているからだ。約30人の刑務官らが、ハローワークの求人情報や新聞広告などを頼りに会社を回り、「何かあればよろしくお願いします」と名刺を置いていく。担当の刑務官は「これまで体験したことがない事態。ぎりぎりの努力です」と言う。

 法務省矯正局の担当者は「木工や加工など職業知識として役立つ仕事が減れば、出所後の就職活動などにも影響しかねない」と心配する。刑務所の仕事が無くなったら別の意味で困ることがある、と打ち明けるある刑務所の担当者もいる。「暇になれば、どうしても受刑者の私語や勝手な行動が増えてくる。けんかなどの問題が起きないように、仕事はちゃんとあった方がいいんです」(池尻和生)

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