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【社説】

カストロ氏死去 平等社会求めた精神

 理想を追い求めた革命家の一方で、独裁者の顔も併せ持っていた。二十五日に死去したキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長。戦後世界の左翼運動に大きな影響を与えたカリスマだった。

 「もしよかったら、ぼくに十ドル札をください。十ドル札をまだ見たことがないのです」

 カストロ氏が少年だった一九四〇年、ルーズベルト米大統領に書き送った手紙が米国立公文書館に残されている。

 貧しいキューバの人々にとって、豊かな隣国は今でもまぶしい存在だ。カストロ氏も米国にあこがれを持っていたのだろう。

 成人したその少年が腐敗と搾取に怒り、親米の独裁政権を倒す一九五九年のキューバ革命を主導した。以来、約半世紀にわたり米国と対立した。米国は経済封鎖を続け、政権転覆やカストロ氏の暗殺も企てた。

 東西冷戦の真っただ中にあって、カストロ氏は反米の旗手になった。ソ連に傾斜し社会主義路線を選び、平等な社会を目指して医療、教育の無料化を図った。

 キューバは日本の本州の半分ほどの小国だ。海を隔てて百五十キロしか離れていない巨人の圧力に屈せず、独立を守るのは並大抵ではない。カストロ氏は反体制派を容赦なく弾圧し、言論を封殺した。

 弾圧と困窮を逃れて米国に亡命する人々が相次いだ。中にはカストロ氏の家族もいた。後ろ盾だったソ連が崩壊すると苦境は一層深まった。

 ただ、カストロ氏は自身の偶像化を嫌って像の建立は許さず、生活も質素だった。単なる独裁者でないところに、多くの国民がついていったのだろう。

 公正で平等な社会という高い理想と現実の落差。カストロ氏は「私は地獄に落ちるだろう。地獄の熱さなど、実現しない理想を持ち続けた苦痛に比べれば何でもない」と語ったことがある。

 広がる経済格差によって先進諸国の民主社会がむしばまれ、米国はトランプ現象という「鬼子」も生んだ。カストロ氏の革命は未完に終わったものの、その精神を受け継ぐ動きがいつか出てくるだろう。

 キューバは昨年、米国と国交を回復し和解した。オバマ政権は関与することでキューバ社会の変革を促そうとした。

 トランプ次期政権には流れを逆戻りさせないよう求めたい。敵対関係に再び陥ることは米国にも世界にもプラスにはならない。

 

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