医療情報サイト「WELQ」に、信頼できない医療情報が掲載されていた件が大炎上しています。
クラウドワークス批評「労働組合つくったろか」というサイトでは、「WELQ」の恐ろしい内情が告発されています。
http://cwhihyou.exblog.jp/24972121/
サイトの記事は多数の素人により執筆され、編集者によるチェックは皆無に近く、サイトが重視していたのはキーワードを入れることによる検索サイトでのランキングのアップとページビューの増加だというのです。
=== 引用 ===
しかし10本以上書いたあたりで、あることに気が付いた。
welqで記事をチェックしている人たちは医療のことも病気のことも知らない、ということである。
強烈なダメ出しは「キイワードが入っていない」とか「構成が指示通りではない」とか、医療や病気の本質とは全く関係のないことについてなのである。
そして大量のライターの存在である。
有象無象、玉石混交、多勢に無勢、とにかく素人集団に少し医療のことが分かっている人が混ざっている、といった状況である。
ただ最近は、ライター一覧の中に医師の名前も出ている。
しかし高給取りの医師が、1字1円にも満たない原稿料のwelqで執筆しているとは思えないのだが
=== 引用終わり ===
このサイトは検索サイトでやたらと出てくるので、私も気になっていたのですが、医療情報をいいつつ、不倫情報とかオカルト情報まで出てきてしまうので、なんだこれはと思っていました。検索サイトに病名を入れると、このサイトの記事が上位に来てしまうので、医師個人や研究機関、大学が発信する情報が埋もれてしまい、大迷惑していました。私の身内は色々な病気で困っていますが、英語が読めないので、日本語での情報が欲しかったのです。
医療情報は、鵜呑みにしてしまって、治療が遅れたり、変な薬剤で自己治療して下手したら死んでしまう人もいるわけで、「WELQ」を今すぐ閉鎖しないDeNAとっては、そういう人が死のうが生きようがどうでもいいということなのでしょうが、そういう倫理観を欠いた態度は、日本の恥といって差し支えないと思います。
「国技」である野球チームのオーナーであり、「国を代表するIT企業」なのですから、日本国のイメージに泥を塗っていると行って差し支えないでしょう。
(ところで、我が国の「IT企業」とは、IoTや自動運転技術を開発する会社ではなく、こういう会社なのです。日本が沈んでいく理由がよくわかりますね)
日本はまじめな人が多い国だと「一般的」に言われていますが、私個人は、海外に住んだ経験や、様々な国の人と働いた経験を元に考えると、消費者の生命や健康を守るということに関しては、それはどうなのかなという気がしています。
「WELQ」だけではなく、ネットにはニセ科学情報や似非健康情報が溢れ、テレビや雑誌では、平気で怪しい健康情報を紹介しています。
昼間のテレビでは、どうみても企業にお金をもらっているとしか思えないような、情報番組の形を取り繕った番組が溢れ、そこではインチキな健康情報やウソの美容情報が紹介されています。
ドラッグストアや雑貨屋には「骨盤矯正」「ゲルマ温浴」「冷えを改善」などの宣伝をコレでもかと細かく書きまくり、チラシや宣伝を張りまくった化粧品や健康商品を並べたコーナーが溢れかえっています。でも骨盤の強制など物理的に不可能なので、一体どの筋肉とどの骨を押せば形が変わるのか聞いても、店の人も販売企業も答えられません。
私が住んだイタリアやイギリス、時々訪問するスペインやオーストリア、スイス、フランスなど欧州の国には、そういう情報番組の形を取り繕った、偽健康情報を売るテレビ番組はありません。少なくとも地上波では放送されていない。
昼間、老人や主婦向けに放送するのは、アンティークのオークション、トークショー、家の改築ショー、料理番組、ドラマや映画の再放送で、健康情報を放送する場合は、医師や看護師が登場して解説するのみで、そこで商品を売りつけようとはしません。
なぜないかというと、医学的、科学的根拠がないものを放送したり販売するには、大変なリスクが伴うからです。そういう国のドラッグストアは、日本に比べたら製品の品揃えが本当にシンプルで、ちょっと寂しい感じがします。
しかし、なぜ日本では、倫理を欠いた医療ニュースサイトがやりたい放題で、インチキ健康情報がテレビや雑誌で垂れ流されるのでしょうか?
その理由の一つには、日本の人々が健康に熱心だというのもあると思うのですが、「一体何をみたら良いかわからない」というのが最大の理由のように思います。
ページビューや広告費関係なく、専門家が何度もチェックした正しい情報を、不特定多数の国民に届けるチャネルが充実していない、ということです。
非営利の最大の機関は政府でありますが、政府が国民に届ける医療情報が不十分であり、発信の方法もうまくない、ということです。
納税者はサービスを受けるために税金を払っています。正しい医療情報は、重要な公衆衛生の手段であり、国民にとっては「権利」でもあります。なぜなら、憲法で保証された安全かつ健康な生活の維持には、正しい医療情報が欠かせないからです。
しかし、肛門からの大出血が何を意味するのかを調べるのに、厚生労働省のサイトに行く人が日本人のうち何人にいるのでしょうか?多分皆無に近いでしょう。
あんなサイトは読みにくくて、トップに出て来るのは「一億総活躍社会に向けて」なんていう政策スローガンです。でも肛門から大出血している人は活躍したいんじゃなくて、それが自分は今すぐ死ぬのかどうか知りたいのです。
その上、中学生や高校生、もしくは同等レベルの読解力の大人には理解不能な文章が並んでいます。
健康情報にたどり着くのだって一苦労です。ネットがうまく使えない人にはまず不可能に近い。事実うちの60代親には無理でした。自分が悩んでいる難病情報を探したかったけども、難しくて検索できなかった。
医師だって困るでしょう。だってしょっちゅうやってくる患者に「困ったときはここを見てください」と言えばすむサイトがないのですから。
餅を喉に詰まらせた94歳の対応で毎日忙しいのに、「WELQ」みたいなバカげたサイトの情報を鵜呑みにした患者が難題をふっかけてくるのです。それは医療リソースの浪費です。
結果、医療従事者の時間は浪費され、患者はウソ情報で悪化し、税金が浪費されます。「WELQ」みたいなサイトは、納税者全員怒った方がいい。
単なる儲け主義企業の「やらかしたこと」ではありません。
イギリスの場合、大手の新聞や雑誌やテレビだけではなく、その他民間企業も、健康情報の発信にはかなり慎重です。
訴訟社会なので、一体どこに訴訟のネタが落ちているかわからないので、コストはかかっても専門家に支持を仰ぐか、コストが見合わない場合は、医療分野には手を出しません。集団訴訟なんか起こされたら会社が潰れてしまいます。
税金が高いので、納税者は政府に対するサービス要求も高いです。National Insuranceという国民健康保険と国民年金が合わさったものに、収入に応じたお金を払っていれば、国立病院機構(NHS)が運営する国営の医療サービスで無料で治療を受けることができます。この制度は、無料なのであまりにも大勢の人が治療を受けに来ると破綻してしまうので、予防医学にも力を入れており、情報発信にも熱心です。
正しい情報が提供されれば、変な薬を飲んだり、ニセ治療情報に騙されて状態が悪化する人も減りますし、治療が必要ないのに来院する人も減ります。
患者も助かりますし、病院側も助かる。しかも営利を求めなくて良いので、ページビューも何も気にすることもありません。
NHSの医療情報は以下のサイトから提供されています。13歳程度の読解力でも理解できるような「シンプルイングリッシュ」で書かれており、サイトの構成も単純です。問い合わせの多い症状がアルファベット順で表示されるようになっており、検索も可能です。
私が妊娠時に妊娠糖尿病にかかった時は、印刷されたリーフレットの他に、このサイトの情報を見るように指導を受けました。
NHS Choices www.nhs.uk
NHSの他に重要なのが、非営利団体による情報提供です。イギリス政府は認定された非営利団体に補助金を出していますが、こういう団体は、病気や患者別の団体で、啓蒙活動や情報発信に大変な力を入れています。
感心するのが、情報発信のチャネルの多用さで、テレビCM、雑誌への記事だけではなく、マラソン大会の実施、運営資金集めのお茶会キャンペーンをやってその場で情報提供、休日に繁華街にトラックを出して対面で情報提供する等です。広報には民間企業や公的機関で経験を積んだプロの広報担当者を雇っているので、民間企業の製品プロモーションと同等か、それ以上の面白い広報をやっています。
Cancer Research UK www.cancerresearchuk.org
ガンに関する非営利団体で、患者への情報提供だけではなくガンの研究も行っています。様々なイベントのスポンサーをやっています。テレビCMもお馴染みです。今年の11月はThe Big Quizというクイズ大会イベントを開催しています。この団体にクイズ大会をやりたいですと申請すると、「クイズパック」が送られてきて家族や友達を招いて、募金集めのためのクイズ大会を開催することができます。
British Heart Foundation www.bhf.org.uk
この団体は心臓や心疾患に関する団体で、心疾患に関する情報提供だけではなく研究も行っています。様々なキャンペーンをやってますが、会社にこの団体の担当者が来てくれて、心疾患に関するイベントをやってくれるサービスもあります。
Age Concern and Help the Aged www.ageuk.org.uk
高齢者に特化した団体で、高齢者の健康や認知症の情報提供やキャンペーンに力を入れていますが、高齢者向けのプロバイダサービス、保険販売、防犯ブザー、個人宅用エスカレーターの販売なども行っています。
BootsWebMD.com www.webmd.boots.com
民間企業でも信頼できる医療情報を発信しているところがあります。イギリスの大手ドラッグストアのBootsはWebMDと共同で、かなり詳しい健康情報を配信しています。サイトの情報はすべてイギリスの医師により監修されているので心配がありません。
私が厚生労働省に提案したいのは、国民を助けたいのであれば、高齢者や13歳の子供でも読解可能なレベルの、シンプルな医療情報ポータルを作り、国民に公開すべきだということです。
しかし一から作ると、どうせ随意契約で変な会社が沢山入ってお金がかかりますので、NHSやWebMDの情報を翻訳して日本式に直したものを掲載する様なサイトのほうが良いかもしれませんね。