英国人で48歳だったら、そういうのをど真ん中で経験しているはずなのだが(英国の場合は「日本の不況でジャパン・マネーが撤退」、「欧州統一市場」、「英国企業の生産拠点が中国や東南アジアに移り、英国内の産業は空洞化」というのもある)、ジョゼフ・コーレ氏の場合はどうなんだろうね。マルコム・マクラーレンのロンドン・パンクってのは、根はシチュアショニストだし、そういう点についてのメッセージが出るかな、と思っていたのだが……(苦笑)
私、「(苦笑)」ってめったに使わないんですよ。でも使わざるを得ない。そのくらい「苦笑」してる。「爆苦笑」とか「激苦笑」と書きたいくらい。
機関誌『アンテルナシオナル・シチュアシオニスト』には冒頭部「『アンテルナシオナル・シチュアシオニスト』に発表されたすべてのテクストは、出典を明記しなくても、自由に転載、翻訳、翻案することができる」という表記があるが、これは旧来のブルジョワ的な私的所有を批判し、新しい価値を生み出そうと試みる、転用の思想を端的に表わしている。
シチュアシオニスト・インターナショナル/アンテルナシオナル・シチュアシオニスト | Artwords | Artscape
私的所有に対するアンチテーゼとしての財産の焼却というのなら、賛同する・しないは別として、まあそれなりの形式っすよね。でも今回のはそうじゃない。
コーレは、英国映画協会(BFI)や大英図書館、ロンドン博物館のようなメインストリームの団体が後援するロンドン・パンク40周年を祝うイヤー・イベント<Punk London>を不快に思い、その抗議のために自身のパンク・コレクションの数々を燃やすと今年3月に発表。
このイベント<Punk London>には、エリザベス女王が公式の祝福のコメントを出しており、コーレはこれを「今までに聞いたことがある中で最もおぞましいこと」と批判。……
今回の「Anarchy in the UK」のアセテート盤は、燃やされる前にチャリティのためにeBayに出品されており、入札は62,500ポンド(約880万円)に達していましたが、コーレが希望する100万ポンド(約1億4000万円)には到達しなかったため、今回焼却されています。
http://amass.jp/81378/
たかがレコード盤一枚に100万ポンドっていう設定が……。これは、イスイス団の要求する身代金のパロディですかね。パロディだとしても不快極まりない。(ただしパロディについて「不快だ」ということは感想でしかなく、「批判」にはならない。)
いや、パンクの象徴的なあれこれが、王室公認、政府公認みたいな扱いを受けて「ブリテンはグレートだ (Britain is Great)」というキャッチフレーズ(かつての「クール・ブリテン」に代わる2010年代の英国政府の売り込みのコピー)に巻き込まれて、"There's no future in England's dreaming" 的なものが展示され、ブランド価値を持ち、売られていくということに対する否定的な感情というのはわかりますよ。わかりますが、その感情の行き着く先が「eBayで100万ポンド出す人がいなかったから焼却」とか、ほんと、どんだけ怠惰なのかと。パンクの時代の言葉でいえば "Boring!"
王室が勝手にお墨付きを与えることが不快なら、逆に王室に100万ポンドで売りこめばいいじゃんね。それをドキュメンタリーにすれば「メインストリームに支配された状況のすべてが、ポイズン」とかいう薄っぺらい主張であっても、みんな見たがるよ。"Anarchy in the UK" のアセテート盤を持って真顔で立ってる女王夫妻とか、想像するだけで最高におもしろいじゃないですか。女王夫妻が無理なら、貼りついたようなアイドル・スマイルのケンブリッジ公夫妻で(ハリー王子だとなぜかパンクのレコードは当たり前すぎておもしろくない。チャールズ皇太子夫妻だとビジネスライクすぎておもしろくない。芸能人が広告塔になってる健康食品的というか)。最後はこのために再集結したワン・ダイレクションによるカバーで〆。うわー、私の適当な思いつきだけど、これ最高すぎない?
そのくらいのことはやってくれるのではないかとほんのちょっぴり期待してたんですが……(苦笑)
Punk protest: Sex Pistols manager's son sets fire to collection https://t.co/nIRrdpIPHw 予告通り、でーすとろーい。安吾的でよろしいのだが、発案者は創造には関わってない相続人っていう皮肉。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 26, 2016
正直、何もpunkな要素はなく、「ポストモダ〜ンなブルジョワジーのお遊び」にしか見えないんだよね。現在、本当にpunkな姿勢で創造に携わってる人たちには何の利益もインスピレーションも与えない。遺物が博物館入りすることの意味を「ノスタルジー」としか思えない精神は、極めてポモ的だが。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 26, 2016
やったのは48歳か。ポストモダ〜ンど真ん中世代。その世代で英国人なら、「私有財産」と「公共財」について一度くらい突き詰めて考えたことがありそうなものだが、たぶんないんだろう。そういうメッセージが出るかと期待していたが「体制をぎゃふんといわせてやったwww」しか出てきてないっぽい。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 26, 2016
グレン・マトロックのコメントにあるけど、punkってよりモンティ・パイソンが描く「バカ idiot」の類型に近い。頭にかぶってる四隅を結んだハンカチはピストルズのコピーだが、モンティ・パイソンのガンビーにしか見えない。My brain hurts!
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 26, 2016
というわけで、本人は「おぼっちゃま」であることを認めていないのかもしれないけれど、結局は、おぼっちゃまが自分が親から相続した私有財産を燃やした、というだけの話。そしてそれは、バブル期に叩かれた「私が死んだら(購入したゴッホとルノワールの)2枚の絵とともに焼いて欲しい」と述べた日本人実業家の件(本人の意図としては「そのくらい大好きだ」という冗談めかした意思表示だったというが)と、本質の部分では同じ。「所有主が誰であろうと、広く社会にとって意味・価値のあるもの」が、「誰かの私有財産」として勝手に焼却されてよいのかどうか、という話。「焼却」計画が公表されたとき、そういうのを問いかけるものとなる可能性もないわけではないから……くらいに見てたんだけど、結局何もなかったらしい。
それから、自分では何もせずに単に相続したものについて、それに価値を認める外部の人々のことを「ノスタルジアに駆られているだけ」と断罪しているということの皮肉。何という閉鎖性。大英博物館がものを溜め込んで分類して展示しているのは「ノスタルジア」のためではない。古いものは誰かにとって常に新しく、常に誰かにインスピレーションを与えるものであり続ける。博物館・美術館は基本、入場無料という信じられないほど恵まれた環境の中で生まれ育ち、文物の持つそういう「価値」について考える機会もなく48歳のビジネスマンになってしまった彼を、私は哀れに思うべきだろうか。
そして、何より、がっくりきたのは、その焼却の儀式にヴィヴィアン・ウエストウッドがいて、何かスピーチしてたという点。もうどうでもよすぎてスピーチの内容も知ろうと思わない。「王室に中指立ててやる」とかいうことなら、あんたの「デイム」の称号を何とかしてからどうぞ。
ほんと、茶番劇にもならない。
で、オチは……セックス・ピストルズのアイコニックなグラフィック・デザインをやったアーティストのジェイミー・リードは、現在自サイトでアーカイヴを構築中だそうだ。
(大爆笑)
※ジェイミー・リードは、ここらへんのデザインをやったアーティストです。その多くが今は「みやげ物」の域で店頭に並んでる。
※これ、ユニオンフラッグがなんか微妙なように見えるんですが、トリミングのせいですかね。
1997年のMTVのインタビューで、リードは「ピストルズで私の作品を代表させないでほしい」ということを言っている。このインタビューがすごいおもしろい。
http://www.mtv.com/news/1366/dont-talk-to-artist-jamie-reid-about-the-sex-pistols/
Themes of anarchy, anti-corporation and anti-establishment have always pervaded Reid's artwork in some form. That his talents would be reduced to a few flashes of highly commercialized creativity is unthinkable to him. That matter so disturbs him, that he considers those who know him as the artist for the Sex Pistols, or simply under the label of a Situationist, not among his true fans. "I mean, really, who are the Situationists?" asked Reid, obviously amused by the term. "It is more of a myth than a reality. Most of the work I was doing that got labeled Situationist was, in fact, taking the piss out of Situationism, because it got so highbrow!"
"It was the attitude that was far more important. And that attitude is far more interesting to me; the influence it's had outside [of] pop and fashion."
What of the Brit-pop explosion?
"Well, everything is about nostalgia now," said Reid, sounding a bit annoyed. "The whole British indie thing is pure nostalgia... Cover versions of those middle of the road '60s and '70s groups."
With the term "nostalgia" Reid appears to have nailed it. Across the street, his mammoth silk-screened Sex Pistols artwork is about to be put up on walls for curious New Yorkers to reflect upon, remembering and perhaps considering what it meant at the time, and perhaps, what it means again today.
Nostalgia, as every artist knows, is always revered.
1997年のこのインタビュー自体に、ものすごいノスタルジアを感じますが(爆笑)。
※この記事は
2016年11月27日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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