ツイッター+αのつぶやき企業戦略
【第10回】 2010年3月25日 本荘修二 [新事業コンサルタント]

特別対談!津田大介vs本荘修二(下)
ツイッターで伸びる会社、沈む会社
「企業ツイッターは宴会部長に任せろ!」

企業によるツイッターの戦略的活用というと、ついつい身構えてしまいそうだが、『Twitter社会論』著者の津田大介氏の主張はいたって明快だ。本コラム執筆者の本荘修二氏との特別対談の後編は、題して、宴会部長に任せろ!

本荘:ところで、ツイッターはよく荒れにくいと言われますが、その理由は何ですかね?

津田大介
津田大介(つだ だいすけ)@tsuda
メディアジャーナリスト。著作権やコンテンツビジネスに詳しい。ツイッターでイベント等を実況中継する手法は「tsudaる」と呼ばれ一般用語になった。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)『だれが「音楽」を殺すのか?』(翔泳社)『仕事で差がつくすごいグーグル術』(青春出版社)等がある。
Photo by Kiyoshi Takimoto

津田:理由は割と単純だと考えています。ブログの炎上は、コメント欄がずっと固定化されていることが大きい。だが、ツイッターの場合は違う。たとえば、本荘さんのページに行ったら、基本的に本荘さんの発言が載っているだけですから、本荘さんが失言してもそれが炎上しているかはパッと見には分からない。ブログの場合は、失言に対するコメントが同じページに表示されているから、見たときに「これは燃えている」と分かってしまう。

 もちろんツイッターでも、返信リストを見たり、検索機能を使えば、批判のコメントが出ているのは分かりますが、1クリックなり操作が必要です。しかも、ツイッターはどんどんタイムラインが流れていってしまう。1週間も経てば、過去のツイートを話題にする人はほとんどいない。面倒な人はブロックも出来る。機構として炎上しにくい。少なくとも炎上が固定化されていない点が、巨大なフローメディアであるツイッターの良さではないでしょうか。

本荘修二
本荘修二(ほんじょう しゅうじ)@shonjo
ボストン・コンサルティング・グループ、米CSC、CSK会長付、ジェネラルアトランティック日本代表を経て、現在は本荘事務所代表。多摩大学客員教授、経済産業省・産業構造審議会情報サービス・ソフトウェア小委員会委員でもある。
Photo by Kiyoshi Takimoto

本荘:なるほど。

津田:それから、何といっても140字という字数制限がいい。送り手側は何かを強い調子で言いたいとき、「言葉が足りないけれど、140字だから仕方ない」と思いながら書くし、受け手側も「ん、なんだこの発言?短絡的すぎるよ」と思っても、「140字だから仕方ないか」と忖度できる部分があると思うんです。

本荘:つまり、適度なあきらめがあると?

津田:そうです。良し悪しは別として、あきらめて、別にいいよっていうコミュニケーションなんだと思います。もっと深い議論をしたい人は、別の場所でやればいいし、実際にツイッターでそう伝えることもできる。

よく「ツイッターの最大の魅力ってなんですか?」という質問を受けるのですが、僕は「話が早くて、飲み会を5倍楽しくしてくれるツール」と答えています。

津田:ツイッターで何度かやりとりをすると、「この人ってこういう人なんだな」ということが自然と分かりますよね。たぶん昔だったら3~4回飲んだり、食事することでようやく「ここまでだったら踏み込んでいいかな」と距離を測りながらコミュニケーションを取っていたのが、ツイッターである程度その人の人間性を見ることができているので、初対面でも踏み込んだ話ができる。その意味で、リアルで会ったときの密度の濃さを高めてくれる。これは人間関係だけじゃなくて、企業と顧客のコミュニケーションにも言えるのではないでしょうか。

本荘:そう言われると確かに不思議なもので、140字の短いやりとりのほうが、相手に対して親近感を持ちやすいところはありますね。

津田:今までのインターネットはどこか特殊だったんだなと、『Twitter社会論』を書いたときにも思いました。もちろん、インターネットも社会とつながっていた。しかし、どこか「インターネット村」という社会から微妙に浮いたコミュニティだった気がしてるんです。それがツイッターによって少なくとも僕の感覚としては大きく変わった。「これはもうネットじゃない、社会なんだ」って。ツイッターは社会とものすごく結節しているように思いますね。

企業ツイッターは
宴会部長に任せろ!

本荘:さて、今までは良い話ばかりでしたが、アンチ・ツイッターというか、ツイッターをディスる(軽蔑する)ような人たちも世の中にたくさんいますよね。

津田:はい。

本荘:企業ユースに関する否定論としては、具体的にどんな声を聞きますか?

津田:ツイッターの批判者は、往々にしてツイッターだけで考えていますね。つまり、「140字では、まともに議論もできない」「あれは暇人のためのメディアだ」といった紋切り型の批判です。でも、さっきの話に戻りますけど、ツイッターのヘビーユーザーですら、ツイッターでまじめな議論をしようなんて思っていません。言葉尻を取られて大変だし。

 しかし、ツイッターで、エッセンスの話はできるわけです。そして、この先はブログで議論しようよとか、リアルで会って話そうとか、イベントをやろうといった展開がある。ブレストには間違いなく使える。140字という制限があるからこそ、外部につながろうとするわけです。

津田:つまり、ツイッターって常に足りないのに、目の前の世界とのリアルタイム性が高いから、現実社会と結びつく。だからこそ、ツイッターは、アテンションを得たり、告知を広めたりする能力が優れているんだと思います。

 ツイッターを批判する人は、「あんな他愛もないものを」と考えがちですが、ツイッターは「他愛ないもの」だからいいんですよ。それは日常との結びつきが強いということだし、日常とつながっているからこそ、話題になったときにガッとみんなに広まっていき、だからこそ祭が起きる。祭の近くに企業がいて、それがうまくはまればめちゃめちゃプロモーションやブランディングになりますよね。

本荘:ただ、その祭をコントロールしようと思っても、できないですよね。

津田:それは、確かにそうです。自分から祭りのシナリオを書いて「起こしてやろう」と意気込むと、たいてい失敗すると思います。企業は、ツイッターというものをアンコントローラブルな、ある種のカオスとして受け入れる必要がある。しかし、ソーシャルメディア上のコミュニケーションの作法が分かってさえすれば、何かで火が付いてぱっと盛り上がったときに、そこにスウ~とうまく入って、盛り上げていくことはできるはずです。

 だから、大枠だけを作り、その一方で「こんなふうに盛り上がればいいなあ」という気持ちだけは持ち続けて、いろいろな人の声をきちんとフォローして、その間にこっちのほうが盛り上がりそうだと気づいたら、思い切って舵を切れるかということでしょう。そういうフレキシビリティが、ソーシャルメディアの世界では重要です。『Twitter社会論』でも取り上げた「ドロリッチなう」(「グリコ乳業の菓子、ドロリッチを今食べています」という意味の投稿「ドロリッチなう」がツイッター上で大流行した)は、その典型的な例です。

本荘:ただ、企業にとって、ツイッターを能動的に展開するということは、相手にするのが世間の評判なだけに、うまくはまらずマイナスのレバレッジが働いたときが怖いですね。

津田:それは言えます。だからこそ、最初の話(前編)に戻りますが、担当者を誰にするかが一番重要な問題です。

では、誰にすればいいのか。私は基本的には、ツイッターやミクシィを使いこなし、そこでの泳ぎ方っていうのを分かっている社員だと思います。

本荘:その人に、ああしろこうしろと言わずにそれなりの権限を与えるだけの度量が企業側にあるか、ですね。

津田:そうです。言い換えれば、「ここが盛り上がっています」「ここはきつそうです」というその人の声に、企業がどこまで耳を傾けるかということだと思います。たぶん、ツイッターを1年もやっていれば2つや3つ面白くなりそうな種は見つかります。それは日常的にコミュニケーションをして、フォロワーが増えているという前提ですけど。

それから、これは理想論ですが、そうした人が会社の「宴会部長」みたいな人だとさらに適任ですよね。いるじゃないですか、ある程度大きな会社だったら、運動会とか忘年会で活躍する宴会部長みたいな人が。オフ会をやろうみたいな話とか飲み会を主催するのが好きな人は、人を巻き込んだりできる。そういう人をソーシャルメディアの担当にして自由にやらせることが、たぶん一番いい。ITスキルよりも、コミュニケーション能力や調整能力に優れ、イベントを企画運営するのが好きな人。そういう人がソーシャルメディア上では存在感がどんどん高まっていくんだと思います。そもそも日本の会社にはそういう機能があるし、そうした人材がいるわけですから、配置すればいい。単に「広報部だからツイッターやれ」とか「おまえはネット詳しいからツイッター担当な」みたいな話ではうまくいかない。それより宴会部長にツイッターの使い方を教えた方が絶対いい。

本荘:宴会って、日本の会社のお家芸みたいなものですね。

津田:そう、そうしたことを社内に対してきめ細やかにできる人は、社外に対してもできますよ。今の本荘さんの話でいえば、実は企業ツイッターは日本のほうが成功するかもしれない。

本荘:直感的にはそんな気がしますね

津田:小見出しに使ってください、宴会部長を使う(笑)。そうした分かりやすい考え方が、案外、企業ツイッターの答えなのかもしれませんよ。

(構成/ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司、撮影/瀧本清)

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