特別対談!津田大介vs本荘修二(上)
ツイッターで伸びる会社、沈む会社
個人のみならず企業にとっても有力な戦略ツールとなりうるツイッター。しかし、世間とリアルタイムで結びつき、企業の評判を左右するツールだけに、リスクとも背中合わせである。実際、成功例が出始めている反面、失敗例も存在する。ツイッターで伸びる企業と伸びない企業の差はどこにあるのか。『Twitter社会論』著者の津田大介氏と本コラム執筆者の本荘修二氏が、企業にとってのツイッターの魅力と注意点を大いに語り合った。
本荘:津田さんは、企業によるツイッター活用の現状をどう見ていますか?
津田大介(つだ だいすけ)@tsuda メディアジャーナリスト。著作権やコンテンツビジネスに詳しい。ツイッターでイベント等を実況中継する手法は「tsudaる」と呼ばれ一般用語になった。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)『だれが「音楽」を殺すのか?』(翔泳社)『仕事で差がつくすごいグーグル術』(青春出版社)等がある。 Photo by Kiyoshi Takimoto |
津田:具体的な事例は後で述べますが、面白い試みが日本でもたくさん始まっていると思います。
一般論で言えば、日本企業もツイッターはやったほうがいい。まず圧倒的にコストが安いからです。無料でアカウントを開設できて、担当を一人置けばなんとか対応できる。ROIは相当高い。
ただ、もちろん漫然と作ればいいというわけではなく、やり方を間違えると、ブランドイメージを損ねる可能性は確かにあります。それは、注意しなければならない。最近で言えば、UCC上島珈琲の事例が目立ちました。
本荘修二(ほんじょう しゅうじ)@shonjo ボストン・コンサルティング・グループ、米CSC、CSK会長付、ジェネラルアトランティック日本代表を経て、現在は本荘事務所代表。多摩大学客員教授、経済産業省・産業構造審議会情報サービス・ソフトウェア小委員会委員でもある。 Photo by Kiyoshi Takimoto |
本荘:キャンペーン告知のために、自動でつぶやくプログラム(ボット)を利用して大量投稿してしまったケースですね。あれは、日本ではスパム行為とみなされる、悲しい現実がある。
津田:確かに、ああいう特定の言葉に反応するボットでリプライを返してくる手法はアメリカでは実際に行われていたものらしいですね。「スパムすれすれだけど面白いからいいや」みたいな感じで、米国のユーザーには好意的に受け入れられていたケースもあると聞きます。そこらへんは文化やネットユーザーの感覚の違いもあるのでしょう。
ただ、あの事例から見えてくる大事なことは、やはりユーザー、中でも日本のユーザーが企業のツイッターに求めているものは、ボットのような機械的な反応じゃなくて、人の“ぬくもり”みたいなものだということなんでしょうね。日本では、担当者が人間味を前面に出して顧客とうまく会話している企業のツイッターアカウントに人気が集まっているのが、そのことを証明していると思います。
本荘:確かに、私が連載で取り上げた米国の大会社の担当者たちも異口同音に「人間性」って、言っています。
津田:つまり、担当者の“人間力”が試される。
その意味で、加ト吉のツイッターを担当している末広さん(末広栄二コーポレートコミュニケーション部部長)から、他社が学べる点は多いのではないでしょうか。彼は自分の個性を前面に出して人気を集めている。
振り返れば、『生協の白石さん』はその先駆けかもしれません(編集部注:東京農工大の生協に勤務する白石昌則さんのこと。生協にある「ひとことカード」に書かれた質問に対して、人間味あふれる回答をして話題を呼び、『生協の白石さん』という自著がベストセラーになった)。企業にとっても、ツイッターって、ああいう風に担当者その人がブランディングされることが大きな成果を生み出すはずです。
本荘:同感です。私が連載で取りあげたザッポスのトニー・シェ―CEOもそうです。ジェットブルーのマネージャーもそう。フォロワーが100万を超す企業のツイッターは、名物親父みたいな人物が担当チームのリーダーをやっていることが多い。
ところで、津田さんは、社員のツイッター利用に関して企業には何らかのガイドラインは必要だと思われますか?というのも、今や多くの会社で何人もの社員がアカウントを取って、ツイッターを使い始めているじゃないですか。ちなみは、私は、シンプルでもいいから、やはりある程度のガイドラインは必要だと思います。ミクシィに航空会社の整備士たちがコミュニティを作って、「何番っていう飛行機は故障でどうのこうの」とか話しちゃうようなことはおそらくツイッターでも起きてしまう可能性はあるわけだし。
津田:確かに、ガイドラインは大事です。実際、ツイッターを活用したことで、どんなトラブルに巻き込まれるかは分からないし、企業のブランディングに打撃を与える事態に発展することも十分にあり得る。企業は、ツイッター上のアカウントを自分たちの“アバター”だと思ったほうがいい。実際にそうなってきています。企業は、そうしたことを認識したうえで、どれだけの裁量を現場担当者に任せられるか、組織論とかリスクマネジメントに結びつけて、きちんと考える必要はあると私も考えます。
ただ、だからといって企業は萎縮してはいけない。そもそもツイッターは、社員をアクティブにするツールなんです。縛りすぎれば、社員の活力を奪ってしまう。それならば、むしろ使用を奨励して、会社の業務にポジティブなフィードバックをもらったほうが得策なはずです。実際に所属や実名を明らかにした個人がツイッター上でコミュニケーションしている中から仕事の受注が決まるというケースも出てきてますから。一部の大企業のように、ツイッターへのアクセスを禁じるような対応は、スタート地点から間違っています。そういう頭の固い企業には、こんな例に目を向けてほしい。「すき家」(ゼンショーグループ)はなんと、会社のツイッターをアルバイトに任せているんですよ。
本荘:え!ア、アルバイトにやらせている?
津田:そうなんです。「一番現場を分かっているのはアルバイトだから」という企業理念に基づくものらしいですね。
本荘:なるほど。それは日本独特かもしれませんね。アメリカもかなり現場に権限を委譲しているけれど、さすがにアルバイトには会社の代表としてツイッターはさせていないでしょうから。日本のアルバイトのクオリティは高いからできることかもしれないですね。
津田:もちろん、どの会社もそうすべきだと言っているわけではないですよ。誰に任せるかの判断は各社各様であってしかるべきだし。ただ、情報収集という意味でも、ツイッターの書き込みを読めないのはおかしい。まずはアクセスできるようにするのが不可欠です。それから先、実名と所属をどう明かすかですね。
本荘:津田さんはその点、どう思われますか?
津田:実名と所属を明かす人がどんどん発信していってほしい。しかし実際に今までのネットサービスに比べれば、実名の比率はかなり高いと思います。
本荘:確かに。ほかならぬ私もそうです。なぜ高くなったのかな?
津田:ひとつ仮説としてあるのは、他のネットサービスに比べて、ツイッターは実名や所属先を明らかにするメリットがデメリットに勝ると思っている人が増えているということなんじゃないかと。要するに、オープンで全部やりとりされていて、話が進んでいく様が、うねりとして見えやすい性質をツイッターは持っている。
本荘:それと、「あのツイッターをやっている人がおもしろい」という評判が上がると、その人が所属している企業の評判も上がるということもありますね。
そういえば昔、大手通信グループの上場会社をお手伝いしていたことがあるのですが、驚いたことにその当時、同社では社員の情報発信は一切だめみたいな雰囲気でした。現実には、隠れてやっている人たちはいたのですが・・。もったいないと思い、これだけの人材がいるのだから情報発信させたほうがいいと説得したら、その後、同社も180度方針を転換した。そうしたら、3年くらいでかなり効果が出ました。
津田:どういう効果が出たのですか?
本荘:明らかに、情報発信量が上がった。そしてメディアをはじめ露出が増えた。それから、関連性は証明できませんが、就職人気ランキングなどでも数値が上向きになった。
津田:企業は、認知されてなんぼのもの。企業CMも、会社名を覚えてもらうためにわざわざ打ったりするわけだし、頷ける結果ですね。
それと、先ほどの本荘さんの話に戻れば、担当者の評判が上がると、企業のブランドイメージも上がるというのは確かにそうだと思います。どんな会社にも、埋もれている面白い人材はいるはずです。そういう人材に積極的に情報発信させることによって、企業全体のブランドイメージ向上を図ることは可能です。ツイッターが急速に広がり始めた今は、そのチャンスだと思います。
本荘:私も、コンサルタントという立場上、そうしたアドバイスをすることが増えています。「あなたの会社にはこれだけの社員がいるわけで、隠れている人材がいっぱいいるに違いない。彼らにブログやらせればいいじゃない」って。でも、ブログだと「う~ん」ってなってしまうことが多い。
一方、ツイッターのほうが140字という文字制約がある分、適宜やっていけばいいのでハードルは確かに低い気がします。そこで議論しようとする人がいない分、翌日「ごめんなさい」って書きなおすことも容易だし。
津田:僕は、ツイッターの良いところは、リアルタイム性とオープン性だと考えています。たとえば、メールとか電話を介してクレーム対応をしていたお客様相談室みたいな部署の機能の一部を、ツイッターを活用してソーシャルメディア化し、もっとオープンにポジティブにすることができると思う。
特にB to C系の企業は、それをやるだけでぜんぜん違うと思います。あそこの企業のツイッターは面白いぞ、あのツイッター担当者は面白いぞということが判断材料になって、取引を持ちかけるみたいな事例もこれからは増えてくるかもしれない。いや、実際にもうあるはずです。企業は、そうした可能性をも視野に入れて、社内にソーシャルメディア担当を置くべきだと真剣に思います。
ホワイトハウスにはソーシャルメディア担当がいるからオバマ大統領のツイッター活用はあれだけ先進的なんです。翻って鳩山由紀夫首相のツイッターの使い方は最低です。「世論を拾い上げる」と謳っておきながら、まったくそれが実際のツイッターからは見えてこない。官邸に、ソーシャルメディア担当の広報官みたいのを置いて、戦略的にやらなきゃ逆効果じゃないですか。
本荘:逆にあれだと、やらないほうがいいかもしれない。
津田:そのとおり。それこそ首相の執務室のどでかいモニターにリプライを全部がーっと流し、急ぎの仕事がないときは夜の9~10時に必ず見ますみたいにやったほうがいい。それを例えばユーストリームを使って動画公開する。そうすれば、「あ、首相は本当にオレのツイートを読んでいるんだ」と説得力が高まる。僕だったらそういうことを提案します。
本荘:なるほど。確かに、ツイッターって、対話のきっかけというか頭出しに向いていますよね。他のソーシャルメディアと組み合わせることで、可能性が広がる。
津田:そうなんです。ツイッターだけで考える必要はない。企業に話を戻せば、要するに、ツイッターだけでなく、ミクシィなど他のソーシャルメディアも使いこなす担当者をこれからどれだけ重視できるかということだと思います。
今度、僕が解説を担当した『ツイッターノミクス TwitterNomics』(文藝春秋)で著者のタラ・ハントはまさにそうしたことを言っています。市場経済とは違う「評判(「ウッフィー」という仮想通貨で表現される)」というソーシャルキャピタルがどんどん普及していて、アメリカではここ2、3年で急速に両者が収斂してきている、と。そういうときに、リアルの世界だけにこだわって、ネット対応をぞんざいにしている企業は近い将来けっこう痛い目みるはずです。
お客の会話だけでなく、その会話に対する企業側の応対もオープン化されている時代なんですから。どんな企業も舞台に上げられ、対応を試されている。
本荘:今までは閉じられた世界でのお客様対応だったけど、もはや違う。
津田:その通りです。ネットのマーケティングが重要だという話は10年くらい前からあったが、ツイッターでさらにオープンになったことで、本当にそういうフェイズに入った。ビジネスのルールは確実に変わったんです。(後編に続く)
◆後編は、3月25日に掲載の予定です。
構成/ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司、撮影/瀧本清 *ダイヤモンド・オンライン(DOL)編集部のツイッターはこちらです。