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しぼむ爆買い目立つ失踪 歪み増すインバウンド 不法入国、新たな問題に 福岡

産経新聞 11/21(月) 7:55配信

 中国人を中心とした訪日旅行(インバウンド)客の「爆買い」がしぼんでいる。爆買いは、九州・山口でも免税店をはじめ、地域経済を潤してきただけに、急ブレーキの影響が心配される。一方、インバウンド客の失踪が相次いでおり、クルーズ旅行が新たな密入国ルートになると懸念される。(九州総局 中村雅和)

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 福岡空港(福岡市博多区)国際線ターミナル内の免税店は、大勢のインバウンド客でにぎわう。だが、今年度に入り、毎月の売上高は、対前年同月比でマイナスが続く。

 理由は、高額品の売れ行きが鈍化し、客単価が2割減少したことだ。

 店を運営する福岡空港ビルディングの有吉信夫氏は「日用品など比較的安い商品の回転率を上げて、売り上げを確保している。熊本地震の影響もあったが、それ以上に、中国の関税引き上げの影響が大きい」と打ち明けた。

 中国政府は今年4月、海外で購入した商品に課す関税を引き上げた。高級腕時計は30%から60%に、酒や化粧品も50%から60%になった。

 爆買いにブレーキをかけ、中国国内の消費を促す狙いだ。日本で人気商品を仕入れ、中国で高値転売するブローカーが大きな問題となっていたこともある。

 関税引き上げで、転売のうまみが薄れた。「爆買い」は減速した。

 菅義偉官房長官は10月31日の記者会見で「爆買いは終わっていることは確かだと思う」と述べた。

 影響はすぐに現れた。全国で免税店を展開するラオックスの平成28年1~9月期の連結業績は、売上高が前年同期比31・9%減、最終利益も同97・4%減の1億円だった。

 九州にとっても、ひとごとではない。

 ラオックスは九州で8店を運営する。日銀福岡支店の推計によると、27年の九州・沖縄のインバウンド客消費額は約4800億円だった。

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 爆買い消費が失速する半面、クルーズ船旅行者の不法入国が、新たな問題として浮上する。

 福岡県では今年10月だけで船客9人が上陸後に姿を消した。4~10月の行方不明者は計16人に達した。

 福岡県警筑紫野署は今年5月、博多港から入国した中国人の男を入管難民法違反容疑で現行犯逮捕した。ただ、その他の行方不明者は見つかっていない。

 長崎県でも、昨年から約20人が姿をくらました。27年10月に起きた事件の場合、中国・青島から長崎港に入港したクルーズ船から、40代の中国人の男3人がいなくなった。

 客室からは、長崎-大阪の経路が記された地図が見つかった。捜査当局によると、中国では閲覧が制限されているネットから入手したとみられる。不法入国を手引きするブローカーの存在を、指摘する声もある。

 こうした失踪者は東京や大阪など県外で見つかるケースが多い。入国だけでなく、不法就労で摘発された例もある。

 背景には、政府が27年1月に新設した「船舶観光上陸制度」がある。

 大勢の入国審査をスムーズにさばくため、手続きを簡略化した。一定の条件を満たし、法相から指定を受けたクルーズ船の乗客が入国する際、ビザ(査証)取得を不要とし、顔写真撮影も取りやめた。

 クルーズ船の旅行客は、出国手続きなどを考慮し、おおむね船の出港2時間前に“門限”が設定される。ただ、乗客がそろわなくても、その時点では不法入国と断定できないので、定刻になれば船は出港する。

 法務省入国管理局の担当者は「不法残留者を出さない取り組みがずさんであれば、船舶観光上陸制度の申請を却下することもあり得る」とした。

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 福岡市の博多港は27年、クルーズ船寄港数が245回で、日本一だった。同市クルーズ課の小柳芳隆課長は「失踪者が相次ぐことで、インバウンドに対する市民感情が悪化することを懸念している。入管や県警との協力はもちろん、市として船会社へ文書で注意喚起するといった対応も考える」と語った。

 中国では、クルーズ旅行の費用は安い。中国から日本への料金は、安い業者では2千元(約3万円)を下回るという。安価な旅費に加え、査証取得手数料(3千円程度)も不要とあって、クルーズ旅行は一気に普及した。

 捜査関係者は「不法滞在し、就労しようとする外国人は後を絶たない。クルーズ船は、新たな不法入国ルートとなりかねない」と警鐘を鳴らす。

 平成28年1~10月に日本を訪れた外国人旅行者数は2千万人を突破した。政府は東京五輪のある32年までに、この数を4千万人に引き上げようと、目標を掲げる。入国者が増えれば、爆買いがなくても、何らかの経済的恩恵は膨らむ。

 半面、失踪・不法入国を図る者も増加する。対策強化が欠かせない。

最終更新:11/21(月) 7:55

産経新聞