環境の汚染物質を測定するには、現在ではサンプルを採取し、研究所に持ち帰り、高価な機器を使い、分析を行います。もしそれが安価で、簡便に、そして即座に分析できるようになったら、環境測定がより身近に、そして常時モニタリングして、様々な危険を察知できるようになるかもしれません。
ほうれん草をセンサーとして利用する?!
マサチューセッツ工科大学の研究チームが、ほうれん草にカーボンナノチューブを埋め込みセンサーとして利用することを考案した。
このセンサーを用いると、爆発物などをスマートフォンなどを用いて、離れた場所から測定できるようになるという。
この動画では、ニトロ芳香族という地雷や爆発物に使用される物質を感知できるほうれん草を紹介している。
植物は土壌中から化学物質を取り込むが、その植物にカーボンナノチューブを埋め込んでおくことで、赤外線カメラでカーボンナノチューブの蛍光を読み取ることで、土壌中に爆発物が存在するかを検知することができるという。
またスマートフォンなどの小さなコンピュータと繋いでおくことで、Eメールを通じて、ユーザーに知らせることも可能だという。
植物を用いたセンシング
2年前にこの研究チームは、カーボンナノチューブではなく、ナノ粒子を植物に埋め込むことで、光合成能力が向上し、さらに窒素酸化物をセンシングできるようになったと報告している。
植物は土壌中に広く根のネットワークを自動で形成し、物質を取り込み、葉に蓄える性質があるため、このように環境のモニタリングには適しているという。
またこれまでに研究チームはカーボンナノチューブが過酸化水素、爆発物であるTNT、神経ガスであるサリンなど様々な物質を検出できることを明らかにしている。
その機構は、これらの物質がカーボンナノチューブに吸着し、取り囲むことで、カーボンナノチューブの蛍光が変化するというものだ。
この植物とカーボンナノチューブの性質を組み合わせることで、植物センサーを作り出したというわけだ。
今回の爆発物センサー植物では、水中に爆発物の成分が溶け込んでいる場合、即座に植物が取り込み、葉まで輸送するため、10分程度で検出できるという。
価格は安い?!
蛍光シグナルを読み取るためには、葉にレーザー光を当て、近赤外の蛍光シグナルを読み取る。
研究チームが用いたのは、Raspberry Piというクレジットカードサイズの5,000円程度で購入出来る小さなコンピュータだ。
もちろんスマートフォンでもカメラに付けられている赤外光フィルターを取り除くことで検出できるようになる。
現在のところ、1 mほど離れたところからでも検出できるとのことだが、今後さらに距離を伸ばしていくとのことである。
環境汚染は社会的にも大きな課題となっているため、植物を使い、安価で簡単に測定できるとなれば、多くのところで常時モニタリングが可能になることだろう。
カーボンナノチューブは様々な可能性を秘めていて、現在研究が進んでいる物質の一つです。もちろんアルコールやアルデヒド、ガスなどの検知に関する研究もその一つです。カーボンナノチューブはその合成法が難しいため、まだまだ高価なのも事実ですが、様々な利用法が考案され、大量合成されるようになれば、価格も下がってくることでしょう。
しかし植物と組み合わせるというアイデアは秀逸ですね。カーボンナノチューブ単体で用いることは多いですが、その最終的な利用法まで考え、植物にたどり着くというのはなかなかびっくりするアイデアです。今後もこういった思いもよらない組み合わせにより、新しい技術が生まれてくることを楽しみにしていきたいものですね!