NHKの次期会長選びが本格化している。来年1月に任期満了となる籾井(もみい)勝人会長の仕事をどう評価し、公共放送の将来を誰に託すのか。任免権をもつ経営委員会の判断が問われる。

 そのさなか、NHK執行部は受信料を来秋から50円程度引き下げる方針を経営委に示した。だが慎重意見が多く出て、2回の審議で見送りが決まった。

 経営に余裕があるので視聴者に還元するという籾井氏の説明は筋が通っている。だが、値下げの幅や時期など生煮えの感が強かった。人びとのくらしにも直接影響する重要な判断が退けられた意味は小さくない。

 籾井氏は自らの続投と値下げとの関係を否定するが、氏の強い意向で進められた提案に、局内外から「実績づくりを意識したのでは」との声も出ていた。

 経営委の全12委員でつくる会長指名部会は、NHKトップにふさわしい人材の要件として、経営能力だけでなく、▽公共放送としての使命を十分に理解している▽政治的に中立である▽人格高潔であり、説明力に優れ、広く国民から信頼を得られる――をあげている。

 どれももっともな内容だ。そして、これを物差しに籾井氏の3年間をふり返ると、あらためて疑問がわいてくる。

 14年の就任会見で「政府が右ということを左というわけにはいかない」と語った。翌年には戦後70年で慰安婦問題を扱うかは「政府の方針がポイント」と述べ、今年4月の局内会議で熊本地震の原発報道に関し、「公式発表をベースに」と求めた。私用のハイヤー代をNHKに立て替えさせたこともあった。

 こうしたふるまいは国会でも追及され、予算は3年度続けて全会一致の承認を得られなかった。退任する経営委員や理事からは「異常事態が続き、職場に不安が広がっている」などと憂慮する発言が相次いだ。

 籾井氏も最近は自重しているようだが、NHKは予算や人事をめぐって政治権力の影響を受けやすいといわれる。その疑念や不信を深めた責任は重い。

 次期会長を待ち受ける課題は山積している。

 総務省で検討が始まったネット同時配信には放送法の改正が必要で、受信料制度の見直しにも直結する。4K・8Kの次世代放送への取り組みもある。

 国民の理解が欠かせないが、そのためにはNHKが信頼される存在でなければならない。組織の独立を守り、現場の自由な取材や番組づくりを支える。そんな見識と覚悟、手腕をもつ人物こそ、会長にふさわしい。