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ぐるりみち。

日々日々、めぐって、遠まわり。

この先生きのこるためアイドルがサヴァイブするラブライブなSF『最後にして最初のアイドル』

読書 読書-小説

 ひとたび読んでしまえば、キーボードに向かう手を止められなかった。SFは普段あまり読まないだとか、元ネタのガチなファンではないだとか、そういった躊躇はすべて蹴っ飛ばした。たとえ門外漢だろうが何だろうが、この本の感想を書くのは、読者の使命である。

 そう、期せずして本書の読者となってしまった以上、僕には、彼女・古月みかの〈アイドル〉としての活動記に対する所感を述べておく義務がある。小学校の読書感想文についてまわる義務感などといったチャチなもんじゃあ決してない。これは使命だ。“意識”ある一人の読者として――いや、〈アイドル〉として、僕はこの小説をブログで紹介しなければならない。

 俺が、いや俺たちが、〈アイドル〉だった。

 

「クソワロタ」と呟くのすらおこがましいアイドル譚

 

 さて、本作『最後にして最初のアイドル』は、第4回ハヤカワSFコンテストで特別賞を受賞した、“話題作”にして“問題作”である。ここ2ヶ月ほど、一部ネット上でたびたび話題に挙がっていたため、なんとなく目にした覚えがある人もいるのではないかしら。以下のような記事だ。

 そうなのだ。本書は、アニメ『ラブライブ!』*1の二次創作を下地にした小説なのだ。うむ、にこまきはいいぞ。わかるわ。ちなみに、原題は『最後にして最初の矢澤』だそうな。ナニソレイミワカンナイ!

 先日、このハヤカワSFコンテストの結果を眺めていたところ、たまたま本作の存在が目に留まり、気にかかった。そのときは『ラブライブ!』が原案にあることは知らなかったのだけれど、ページ中に記されている「あらすじ」からして、どことなく歪さが漂っていたので。

 

時はアイドル戦国時代。生後6か月でアイドルオタクになった古月みかは、高校のアイドル部で出会った新園眞織とともに宇宙一のアイドルになることを目指す。しかし非情な現実が彼女の望みを打ち砕くのだった。それから数年後、謎の巨大太陽フレアが発生。地球人類は滅亡の危機に陥る。地獄のような世界をサヴァイヴする彼女たちが目にした、〈アイドル〉の最終局面とは? 著者自らが「実存主義的ワイドスクリーン百合バロックプロレタリアートアイドルハードSF」と名付ける、最終選考会に嵐を巻き起こしたSFコンテスト史上最大の問題作。

  

 ――なるほど、さっぱりわからん。試しに感想ツイートを検索してみても、「やべえ」「ぱねえ」「百合百合しい」「尊い」「アカン」「スピリチュアルやね」などと、ただならぬ空気が漂っていることしかわからない。ハードSFで百合でグ口くてスクールアイドルって、どういうことなの……。

 気になってKindleストアを見れば、価格は130円ポッキリ。レビューも好評。即断でポチった。そして電車移動ついでに読みはじめ、乗り過ごすほどに読みふけり、2時間ほどで読了した。

 ページを開く前こそ、「感想記事のタイトルは『イミワカンナイ!』か『クソワロタ』のどっちにしよっかにゃー」などと鼻歌交じりに考えていた己の思考回路は、読了後はもうショート寸前。今すぐ吐きたいよ……などと呟く余裕すらなく、とにかくただ圧倒されていた。やべえよ……アイドルぱねえよ……そうか、宇宙の心は彼女だったんですね! 窓の外はSnow halationなのに、僕の心は夏色えがおで1,2,Jump! だよ! サマーウィー

 

〈アイドル〉とは何なのか、最後に示されるひとつのカタチ

 そうして読み終え、並々ならぬ衝撃を受けた本作。

 「ほれほれ、アイドルもの好きやろ?」と差し出されたフィギュアに対して、わぁい! と喜び鑑賞しようとしたら、突如として謎の化学反応を起こし目の前で造形が融解しはじめ、慌てて手を差し出し受け止めようとしたところ、前触れもなく背後から膝カックンを受けた上に流れるような多段コンボを決められ、最後にマジカルステッキ(物理)で粉微塵にされたような読後感だった。哀れ読者は爆発四散。サヨナラ! ……いやあ、穏やかじゃないですね。

 けれど、ショート寸前どころか木っ端微塵になった思考回路をつないで言語化してみると、読後感は悪くない――というか、端的に言って最高だ。そうでもなきゃ、こうしてキーボードに向かっていないし、耐性のない自分にとってはハード過ぎたグ口部分も許容できていない。

 終わりよければ、何とやら。純粋に「おもしろかった!」と興奮して語れるだけの熱量は受け取りつつ、いち読者として、もとい〈アイドル〉として、布教活動に勤しみたい所存でござる。よっしゃ、デレスt……じゃなかった、スクフェスやんべ。凛ちゃんかわいいにゃー。

 

凛ちゃん……じゃなくて、“元ネタ”の2人、にこまき。

 具体的な内容については、「とにかく読んで!」としか言えないのがもどかしいところ。他方で、本書がどういった読者層に勧められる作品か――と言われると、少し考え込む面もある。

 もちろん、天下の早川書房・SFコンテストの特別賞受賞作。広い意味での「SFファン」を想定した1冊であることは間違いないでしょうが、それ以外はどうだろう。まず、グ口が苦手な自分でも大丈夫だったことから、そのあたりは問題なさそうだ(場面も短いし)。そして、最後にどデカい伏線が回収される物語構造は、好きな人も多いはず。

 一方で、そもそもの“元ネタ”となっている『ラブライブ!』を知っているかどうかも、大きな問題にはならないように思う。知らなければ知らないで普通に楽しめるだろうし、知っていたからといってハマるとも限らない。ちょっとした元ネタ要素にフフッと笑える人は良いけれど、逆に強く意識しすぎると、忌避感を覚えてしまうこともありそうだ。

 何はともあれ、さくっと読めてお値段も安い、個人的にはおすすめの1冊でございました、草野原々さんの『最後にして最初のアイドル』。筆者さんのインタビュー記事がこれまたおもしろく、ぜひ次回作も読んでみたいと思ったので、気になる方はぜひに。

 

まとめると、とにかくメチャクチャで読む人の頭をおかしくして読後に踊りだしてしまうようなSFを書きたい。具体的な計画としては、現在、シンギュラリティとジャイナ教を組み合わせた長篇小説を書いている。また、知性を持つ巨大昆虫が存在する異世界を舞台に手話を第一言語とする魔術師が活躍するファンタジーや、アイドルと軍艦のカップルが魔法少女と戦うバトルものなどを考案中である。

 

 

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*1:学校で結成された架空のアイドルグループの奮闘と成長を描く日本のメディアミックス作品群(by Wikipedia)/公式サイト:ラブライブ!Official Web Site

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