中国はトランプ次期米大統領の米国に否定された貿易のグローバル化を救うことができるのか。台頭する中国の脅威や米産業界からの圧力はトランプ氏の貿易協定への見方を変えるだろうか。
最初の質問の答えは「ある程度まで」だ。中国は望んでも米国の代わりにはなれない。トランプ氏は環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退を明言したが、これはTPPの代わりとなる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を中国が前進させる道を開く。TPPの12カ国のうち7カ国がRCEPの潜在的メンバーだ。
しかし、世界貿易で中国が米国にとって代わるには限界がある。世界の国内総生産(GDP)シェアを見ると、中国は2016年に15%まで伸びたが、日本も含むアジアは31%、米国と欧州連合(EU)の合計は47%だ。
こうした数字も、世界貿易における高所得国の役割を十分に説明しきれていない。まず世界の最終的な需要の大部分は、高所得国によるものだ。さらに重要なのは、現代の貿易を支配するノウハウは高所得国の企業が発展させた。中国企業は匹敵するノウハウをまだ持ち合わせていない。
ジュネーブ国際高等問題研究所のリチャード・ボールドウィン教授は、現代の貿易について産業革命以来の「第2のグローバリゼーション」と指摘した。19世紀終わりの最初のグローバリゼーションでは、輸送コストが下落、貿易が発展し工業製品と資源や農産物の交換を可能にした。
当時は工業製品の工程を細かく分けることはできず、一国ですべての技術を得る必要があった。結果的に生産や富は高所得国に集中し、労働者は所得と政治的影響力を手にし豊かになった。
四半世紀前までは、この富の循環に入るためには競争力ある産業を自国で発展させる必要があったが、多くの国ができなかった。しかし第2のグローバリゼーションの時代、通信費は大幅に下がり、工程を世界中に分散できるようになった。国家資本主義はグローバルになった。多くの新興国がこの機会をつかみ損ねたが、いくつかの国は成功した。特に中国は。
政治の戦いの争点は今、先進国の企業が発展させたノウハウから誰が利益を得るかという点になり、重要な疑問を投げかけている。誰が勝つべきなのか。トランプ氏は米企業の経営者より労働者を優遇するのか。
それとも彼は、TPPを否定し、北米自由貿易協定(NAFTA)を再交渉し、中国に高関税を課すと脅すことで、労働者を優遇するふりをするだけなのか。トランプ氏は中国に世界貿易の主導権を渡すことが米国に不利だと考えないのか。米国の役割を限定することで、米企業がビジネス環境の良い地域に移ってしまうとは思わないのか。
幸運にも、グローバルな貿易を支持する勢力はかなり根強い。たとえトランプ氏がこうした勢力をくじくだけの能力や意思を持ち合わせていないとしても。
By Martin Wolf
(2016年11月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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