木村太郎(ジャーナリスト)
あれほど女性問題を暴露され、女性蔑視的な発言をしたトランプが、なぜヒラリーに勝利したのかを考えると、トランプはヒラリーに勝ったというより、アメリカの大手メディアに勝ったということなんです。逆に言えば最大の敗者は大手メディアだったんですね。
ジャーナリストの一人として、大統領選を報道するアメリカ大手メディアの姿勢にとても驚かされました。一番のいい例は、30年前に飛行機の中でトランプに体を触られたと公表した女性がいましたけど、これをニューヨーク・タイムズが1面トップ級の扱いで報じたことでしょう。
このニュースを見てやっぱりトランプは女に手がはやいんだなと思ったけど、翌日にはイギリスで「その飛行機におれは乗っていた」という人が名乗り出ていたんです。その男性はむしろ言い寄っていたのは女性の方だったと証言し、その内容がイギリスのタブロイド紙「デイリー・メール」に掲載されたんです。
デイリー・メールは記事にしたけど、このニュースはアメリカのネットメディアなんかにはもうその日に出まくっていた。これをアメリカの大手新聞は一切報じない。この女性問題についてはもう一人証言者がいて、女性はトランプが飛行機の座席のひじ掛けを上げて迫ってきたって言っていたけど、ひじ掛けは上がらないタイプだったと。
要は、ニューヨーク・タイムズは何も裏を取ることもなく、単なる反トランプ側の言う真偽不明なことを平気で1面トップ級で掲載したんです。そして誤報になっているにもかかわらず、訂正のような記事も出さなかったということです。これはもうクオリティペーパーとしてありえない。
メディアに支持する政党や候補がいて、社論があるのは当然です。大手メディアの大半はヒラリー支持を明確にしていました。ただ、これは日本のメディアも同じですけど、論評はそれでいい、でも一般記事まで傾いてウソをつくようになった。ニューヨーク・タイムズの例はほんの一例で、本当にここまでやるのかという記事がやたら多かった。
ワシントン・ポストについてはアマゾンのオーナー、ジェフ・ベゾスが買収したんですけど、アマゾンはいろんな意味でグローバリゼーションの旗頭なんです。トランプの主張はそれを否定しているんです。それで、ベゾスがトランプを潰せと号令をかけて、20人の取材チームつくってトランプのスキャンダル探しをずっとやらせていた。
もうアメリカの大手新聞はジャーナリズムというより、資本の論理が入ってきているんです。ジャーナリズムの信念というより、資本の論理が思いっきりはたらいて、これはテレビもそうですよ、とても危なくなってきていると感じましたね。