わたしの苗字はとても珍しい。
小学生でも読める比較的簡単な漢字一文字の苗字なのだが、読み方がとても珍しいのである。そのため大抵の場合読み方を間違えられる。
面と向かって間違えられた場合、その相手は間違いに気付くとあわてて訂正し謝罪してくるのだが、大抵は笑ってその場をやり過ごす。
相手を責めるつもりはない、だって読めないんだもの。
繰り返し言うが、小学生でも読める普通の漢字なのである。しかし
その普通の漢字が全く予想もしない読み方をするのだ。例えるなら「山田」さんという苗字が実は「クリントン」さんと読むといった感じである。
あなたの苗字が仮に「クリントン」さんだとして、初対面の相手が「やまだ」さんと読んだとしても、きっとあなたはその相手を責めたりしないだろう。それどころかなんとなく申し訳なく思うはずだ、だって読めないんだもの。
本当に読めない、読めない上に日本語離れした読み方なのだ。そのせいで銀行で口座を開こうとした際に外国人登録カードの提示を求められたことさえある。こういった場合、わたしが日本人だと気づくと取り繕うかのように「珍しいお苗字ですね」と言われるのだ。このやり取りにも飽きた。
つい先日のことだ。
クリスマスディナーの予約をするために、初めて行くレストランに電話をした。オーナーらしき男性が電話口でとても愛想よくディナーの説明をしてくれたため、席を確保をお願いすると「名前」と「連絡先」を尋ねられた。
「クリントンと申します。」と伝えたとしよう。
大体この後1~2秒の沈黙が返ってくるのが普通だ。
「くりとう様ですね?」
「いえ、クリントンです。」
「くりきんとん様?ですね?」
日本語離れした読み方であるために、相手が聞き覚えのある和名を無理矢理当てはめようとする現象が起きてしまうのだ。こうなってくると、ある程度の時点で諦めるのが得策だ。「くりとう」でも「くりきんとん」でも妥協できる方で「はい」と答えればそれで良い。どちらにしろ席は予約できるのだ。席さえ取れればディナーは食べられる。
このやり取りをスピーカー通話で聞いていた相方さんは横でゲラゲラ笑っていたが、しばらくしてピタリと笑うのをやめた。どうしたのか聞いてみると、このわたしとレストランとのやり取りが、そう遠くない自分の未来の姿であると気付いた時恐ろしくなったと言うのだ。
とうとう気づいてしまったか。
相方さんとわたしは未だ交際中のため籍を入れてはいない。つまり相方さんはわたしと結婚し籍を入れると、その瞬間からこの珍しくややこしい苗字を名乗らなくてはいけなくなるのだ。
夢の国へようこそ。
もう亡くなったそうだが、一昔前に同じ苗字の有名な役者さんがいたらしい。
そのせいかごく稀に、お年寄りの方に初見で正しく読んでもらえることがある。
間違われる事に慣れているわたしは、自分の苗字を正しく読まれると逆にびっくりしてしまう。なんともおかしな話だ。
こちらのサイトで調べてみたところ、わたしと同じ苗字の人は日本全国に約3000人ほどいるらしい。3000人という数字が多いのか少ないのか判断しづらいところだが、わたしと同じ苦しみを抱えて生きている人たちが3000人もいるかと思うと心強い反面気の毒でもある。
ちなみに相方さんと同じ苗字の方は約25万人いるそうだ。
つまり相方さんはわたしと結婚すると、約24万7千人の同胞を失うことになる。
夢の国へようこそ。
ちなみに日本一有名な苗字の佐藤さんは約180万人いるそうだ。
ケタが違うよ。
ごはん一合