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【社説】

ドイツの政治 反トランプ的な価値観

 ドイツのガウク大統領(76)が来日した。差別的発言を繰り返したトランプ氏の米大統領選当選で、自由や民主主義、人権への脅威が広がる。歴史から学んだ価値観を共有する日独が結束する時だ。

 ガウク氏は旧東ドイツの牧師だった。反体制運動に参加し、ドイツ統一後は旧東独秘密警察文書解明の中心となった。人権や自由への思いは強い。

 早稲田大での講演では「人権が侵害され、大量殺りくや人道に対する犯罪に至る時、我々の歴史が行動しない理由に使われてはならない」と訴えた。

 北大西洋条約機構(NATO)の枠組みにいるドイツは、「議会の同意でNATO域外への派兵は可能」との憲法裁判所の判断に基づき、軍事力行使を拡大した。しかし、アフガニスタンへの派兵では兵士に犠牲が出た上、誤爆で地元住民をも巻き込んだ。派兵拡大への批判は根強い。二年前から主張しているガウク大統領の持論には、与党内にも異論がある。

 一方で大統領は、トランプ氏が主張する移民排斥に対し、「ドイツ人の三分の二が、移民による多様化をよしとしている。移民受け入れで少子高齢化の影響も緩和される」と多文化社会の利点を挙げて反論し、難民へのメルケル首相の寛容政策を支持した。

 現状を「我々は自由主義対反自由主義、民主主義対独裁体制という、理念の優劣が問われる競争を目の当たりにしている」ととらえる。人権など欧州が重視してきた価値観と相反するトランプ発言を意識してのことだろう。

 日本とドイツは自由と民主主義を守る側に立つ。ともに戦後、「民主主義国として発展、国際法順守を標榜(ひょうぼう)」し「何があろうとも平和的で国際法に基づく紛争解決を求めていくことは、戦争とホロコーストから導き出された歴史的な責務」だと大統領は訴える。

 ドイツの大統領は政治的実権はないが言葉で範を示す。次期大統領就任が確実なシュタインマイヤー外相について独メディアは、民主主義を心から信じ、政治的意見対立が先鋭化するこれからの時代に最もふさわしいと評価。英国の欧州連合(EU)離脱決定やポピュリスト政党躍進などの逆風に直面するメルケル首相はトランプ氏当選後間もなく、来秋総選挙での首相四期目挑戦を表明した。危機感は大きい。トランプ氏との関係作りの中で、これまで共有してきた価値観の大切さを訴えたい。

 

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