次の日、僕の病院に妻が息子と娘と一緒にお見舞いに来てくれた。
娘は僕の顔を見るなり、「ダディー!」と叫んで抱きついてきた。ぼくはこの一週間、まともに寝られた(とはいっても6時間ぐらいだが)のでうつ感を除けばすっかり元気になっていた。
ぼくは娘とこうして前のようにハグできることをとてもありがたく感謝していた。ごく普通の父親と娘の姿なのだが、その普通のことが普通にできるということがどんなに素晴らしいことか!
一方、息子はといえばもう小学三年生だったせいか、病院においてあった「ブラックジャック」の単行本を読み漁っていた。彼にとってもブラックジャックは何か夢中にさせる物があったようだ。
しばらくのあいだ洗濯物やタオルなどを妻が交換してくれたあと、ぼくたち家族は久しぶりに水入らずの時を過ごした。
「え~、これマイクの娘さん?かわいいじゃん~。」最初の夕飯のときぼくにふりかけをくれた「おねえ」がぼくの娘を見つけてこう言った。娘は照れくさそうにしていたが、彼女といい友達になっていた。
ちょうど昼食が終わってしばらくした時でもあり、結構な人が食堂に出てきていた。僕の部屋は食堂に割と近い部屋だったので、娘はぼくがこの病院で知り合った多くの「戦友」たちとの間で人気者になったようだ。すっかり女性患者たちや高齢の女性患者たちの間で愛嬌を振りまいていた。
ぼくの戦友は以下の通り。
おっちゃん:最初にぼくが知り合った人。酒飲みだが実はこのおっちゃん、ダダの酒飲みのおっさんではない。実はあの新幹線700系の先頭車両のノーズ(かものはしのくちばしのような部分)を叩き出しで作っている日本でも数少ない叩き出し職人なのだ。彼いわく、「あの形は機械では出来ないんだ。」らしい。人は見かけによらないものである。
靴磨きのガンちゃん:彼は暇さえあれば自分の靴を磨いている。なんでも靴ヲタクらしいが、その正体は某化粧品メーカー(S堂 女性ならすぐにわかると思う。)の商品企画の管理職。なんと物の値段を値札を見ずに当ててしまうという特技の持ち主
おねえ:ぼくにふりかけをくれた人。その名の通り面倒見のいいおねえさん。趣味は海外旅行だそうで、退院したらご主人と一緒にヨーロッパに行くと言っていた。
拒食症のしんちゃん:うつによる拒食症で15kg体重が減ってしまったという学生さん。ぼくはそれを聞いたとき、この病院の食事で拒食症が治るのだろうか?と思ったが、徐々に回復しつつ合った。その秘密は次回のこのシリーズで記事にしようと思う。
映画ヲタクのさわちゃん:彼女もうつが原因で学校を休学中。しかし現在は順調な回復を見せている。家内のことを見て「すごい美人!」と褒めてくれた。ぼくはさわちゃんも十分キュートだと思ったが。
あと、患者ではないが、美人看護師のWさん:おっちゃんの担当看護師。彼女も娘のことをとても可愛がってくれた。
家族が来てくれたお陰でぼくは他の患者とも話ができて、とても楽しい時を過ごすことが出来た。このぶんだと僕のうつは回復に向かうのではないだろうか?
ぼくにとって家族は自分の支えであると同時に宝物だ。妻と子どもたちを見るとき、「自分はまだまだ死ねない。」と勇気づけられる。
また、この病院で知り合った同じような病と闘っている言わば「戦友」たちによって僕は自分は一人ではない、ということを知った。