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Yesterday - 2016.11.23

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エネルギーフリーの世界を実現したい! 自然エネルギー業界の新星「株式会社Looop(ループ)」中村創一郎社長インタビュー

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2013年にフィリピンを襲った台風被災地の電源復旧や独立電源の支援などを実施

わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクト。経済産業省資源エネルギー庁GREEN POWER プロジェクトの一環で進めています。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

全国をめぐって自然エネルギーの取り組みを伝えるノンフィクションライターの高橋真樹です。

今年の4月に電力小売自由化が始まって、すでに半年がたちました。みなさんの家庭では電力会社の切り替えを行いましたか?

実際に切り替えたのは、制度の開始から5ヶ月後の8月末の時点で、全国で170万世帯程度。これはポテンシャルからいえば全体の約3%ほどにあたります。東京電力管内では4%を越えているのですが、それでもまだ切り替えをしていない家が圧倒的に多い現状です。

そんな中、電力小売事業で躍進している自然エネルギー系ベンチャー企業があります。ソーラーパネルの製造から電力小売事業まで幅広く手がける「株式会社Looop(ループ)」です。Looopは、東日本大震災の時にたった3人の若者が立ち上げましたが、今では従業員数160名にまで成長しています。何より驚くのは、電力小売事業での健闘です。

一般家庭などを対象とする低圧分野では、5年前にできたこのベンチャー企業が、東京ガスやENEOSといった大企業に混じって大健闘しているのです。Looopの電力販売は、2016年4月、東京電力、関西電力、中部電力の3つのエリアでスタートしましたが、その後、東北、九州、北海道が加わり、中国でも順次営業を始めていく予定です。

Looopとはどんな会社で、これから先、どのようにエネルギーを手がけようとしているのでしょうか? 社長の中村創一郎さんにインタビューしてきました。
 
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中村創一郎社長

原点は、避難所でソーラーパネルを設置した体験

高橋真樹(以下、高橋) 2011年の東日本大震災がきっかけで「Looop」を創業されたとのことですが、自然エネルギーをビジネスにしようと考えた経緯を教えてください。

中村創一郎さん(以下、中村) 当時、私は日本から使用済みシリコンを中国に輸出する事業をしていました。それが中国でソーラーパネルの材料になっていたのです。震災が起きたとき、お付き合いのあった会社の社長さんからソーラーパネルを渡されて、「これで被災者を助けてほしい」と言われました。

当時はまだ自然エネルギーについて詳しくありませんでしたが、何かできることがあればと、いただいた140ワットのパネル50枚を抱えて、東北に乗り込みました。

訪れたのは宮城県石巻市と気仙沼市の4ヶ所の避難所でした。3月の終わりでしたが、まだ寒かったですね。そこにパネルを設置して、照明を付けたり、携帯電話の充電や冷蔵庫を動かせるようにしました。そんな中で、避難している人たちにとても感謝されたことから、「こういう仕事っていいな」と感じるようになっていきました。

現場で作業したり自分で調べて工夫して設置していくというスタイルも、私の性格に合っていたんでしょうね。このようなことを仕事にすることにとても興味を持ちました。

高橋 その体験を通じて自然エネルギーの可能性を感じたということでしょうか?

中村さん 単純に可能性を感じた、というだけではありません。独立型のソーラーパネルは非常時に役に立つ一方で、発電するのは日中だけで夜は使えなくなるという課題も感じました。ただそれは蓄電するなり、送電網と連系すれば簡単に解決できることでもありました。

ソーラーパネルの国内外の価格差が大きいこともあって、これはまだまだ発展するし、ビジネスチャンスになるぞと感じたのです。
 
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小売事業のための「Looopでんき」のロゴマーク

中村さん その年の5月くらいに「Looop」という会社を立ち上げました。ループ、「循環」という言葉は単にエネルギーをつくって貯めるのではなく、循環させようという思いを込めました。でも「Loop」のままだと一般名詞だし、面白くない。そこで、創業メンバーが3人だったこともあってOを3つにしようと思ったんです。

太陽と月と地球の3つがあって、風が吹き、波が生まれ、それが自然エネルギーの動力になっている。それもOを3つにした理由です。私たちは何も太陽光発電だけを増やしたいと考えているわけではありません。その土地に適した自然エネルギーを活かしていければ良いと思っています。

DIYでつくる「MY発電所キット」

高橋 事業を始めてまず手掛けたのが、「自分でつくれるMY発電所キット」ですね。これは一般の人でもDIYで地面に置く太陽光発電所がつくれてしまうというものですが、被災地にボランティアで行ったときの経験が活きているのでしょうか?

中村さん その通りです。石巻の避難所で設置したものをベースにして、それをもっとわかりやすくしたいというところから始まりました。DIYで素人が手軽につくれるという斬新さが受けたのだと思います。

高橋 これはLooopの担当者と一緒につくる、というのではなく個人でつくれるのですか?

中村さん はい。完全に自分ひとりでつくれるというのが話題になり、色々なメディアでも取り上げていただきました。もちろん、自分ではつくれないという方は、施工会社を紹介させて頂きます。

自分でつくるから、価格も抑えられる。私たちが会社を立ち上げた当初は、施行業者が過剰な工事を行っていたことも多く、価格は会社によってバラバラで、一般の方からすると不明瞭でした。私たちのキットは、誰にでもわかる透明性があったのだと思います。
 
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「MY発電所キット」をつくる中村社長

高橋 いま、太陽光発電にはさまざまな批判が出ています。これは発電方法そのものというよりも、ずさんな開発の仕方に多くの課題があるのだと思いますが、「Looop」の事業でも発電所を建設した地域でトラブルになるようなことはあるのでしょうか?

中村さん 「こんなところにつくられちゃ困る」と言われたこともあります。そのようなときは、きちんと説明したり、周囲への影響ができるだけ小さくなるよう工夫したりして、ご納得いただけるように最大限努力しています。

うちは太陽光パネルを設置して終わりの会社ではありません。メンテナンスもきちんとして、地域に溶け込み、認めてもらうよう努力していきます。あとは町の盆踊り大会に参加するとか地域とのつながりも大切にしています。 

発電所をつくった地域に貢献しようということは、必ずしもその地域の人たちだけに利益をもたらせばよいわけではないと思います。初めはその地域だけ優先して安くするといったことはあるかもしれませんが、大きな視点で見ると、「エネルギーをフリーにしていくこと」が、本当の地域貢献になるのではないかと考えています。

エネルギーフリーをめざす

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「Looop」社が設置した茨城県水戸市のメガソーラー(春の木ソーラー発電所)。出力は約5.6メガワット

高橋 「エネルギーをフリーにしたい」とおっしゃいましたが、その点について詳しく伺えますか?

中村さん 私はエネルギーをフリーにすることで、世の中のいろいろな分野が良い方向に変わっていくと信じているんです。だって高いじゃないですか、普通に生活する上でエネルギーとインフラに対する支払い額が。

たとえば携帯電話、電気、ガス、ガソリン、水道、鉄道、それから少し視点を変えて、教育や食料、こういったものの負担が結構大きくなっています。これらがフリーになったり、半分以下になったら幸せな生活が送れますよ。

社会がこれだけ進歩しているようにみえるのに、ちっとも生活が楽にならないのはおかしいですよね? 何か不当に搾取されている部分があるんじゃないかと思うほどです。

特にエネルギーはすべての分野に関わってきます。エネルギーがフリーになれば、教育や食料、鉄道料金、携帯料金も安くすることができるはずです。でもガスや石油に頼っていたら絶対に実現しません。

海外から高い価格で買ってきて、船で運んで大きな発電所で燃やしてとかやっていたら、コストがかかるから無理ですよね? それだと循環しないんです。でも太陽や地熱のエネルギーは、もともとあるもので循環することができる。

もちろん設備に初期費用はかかりますが、たとえば太陽光発電所を設置して、11年目からフリーになるというのは不可能なことではありません。
 
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電力小売事業のエリア拡大を発表する記者会見で説明する中村社長

高橋 エネルギーがフリーになる社会は実現できるでしょうか?

中村さん 世の中では、志のあるなしで歴史が変わってきました。エネルギーがフリーになるかどうかということも、志次第です。もちろんビジネスも大事ですが、一方で世の中を良い方向に変えるということもすごく重要だと思うんです。エネルギーがフリーの世界が何年後に来るかわかりませんが、誰かが言い続ける必要がある。

従業員には、「そうなったらうちはどうやって稼ぐんですか?」と聞かれるんですが(笑)、そんなことは後から考えればいい。

エネルギーがフリーになった社会を想像すると、とにかくわくわくするんです。そんなに遠い未来の話じゃありません。個人の家庭の単位なら、今でもそんなに難しいことではないと思います。次に工場やマンション、ビルをどうフリーにしていくかが悩みではありますが。

それをもっと大きな範囲で地域レベルでやりたいと思っているんです。私は、2050年に自然エネルギー90%の電気を販売するという目標を持っています。それが実現できれば、エネルギーフリーの社会に近づいているということでしょうね。

高橋 従来のものより長期間使えるソーラーパネルを開発されたようですが、それもエネルギーフリー社会というビジョンがあるからということなのでしょうか?

中村さん その通りです。すでにラボ内での耐久性を示す試験では60年相当をクリアしたものを商品化しています。それを70年相当にすることも近い将来できるでしょう。

本当は100年保つソーラーパネルをつくりたいんです。そうすると、耐用年数が20年くらいを前提にしている今の常識もまるっきり変わるでしょうね。50年先、100年先の未来を見据えて取り組むことが大切だと思ってやっています。
 
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従来のソーラーパネルより大幅に長持ちするNEXTOUGH(ネクスタフ)はすでに商品化されている

小売ビジネスで十分闘える

高橋 そういう社会をめざす一つの方法が、電力小売の基本料金ゼロ円という斬新なプランですね。ただ、家庭向けの低圧電力の供給では託送料金(送電網使用料)が高額で、利益が出にくいと言われています。

中村さん 一般的には低圧供給のビジネスは厳しいと言われますが、私はそうは感じていません。うちは大きな広告費をかけていないのに、低圧分野ではトップ20に入るくらい、多くの方が契約してくださっています。今後もできるだけコストを下げて、低圧でも利益を出せる仕組みをつくっていきたいと思います。

もちろん、託送料金はもっと安くしてもらいたいです。現状は、残念ながらアンフェアで不透明な制度になっています。たとえば地域で発電所をつくって、その地域の人に地元の電気を販売したいと思っても、高額な託送料金がかかってしまうことになる。電力会社も悪気があるわけではないと思いますが、時間がかかってもいいので是正してほしいですね。

高橋 電力自由化が始まっておよそ半年がたちました。ここまでの動きをどう見ているでしょうか?

中村さん 皆さん自由化については、「まだ切り替えた家庭が3%じゃないか」と悲観的なことばかり言われるんです。でも私はこの数字を「すごい」と思っています。だって一度切り替えた人は、おそらく元の大手電力会社には戻らないと思うんです。

3%は今の数字ですが、不可逆的に戻ることがない流れだと考えれば、大きく見方が変わってきます。2年後とか3年後にどうなるのか、注目してください。20%とか30%になっていくとしたら大きな影響力を持ってくるように思います。将来的には50%くらいになるのではないかと思っています。
 
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電力小売事業を統括する「Looop」社の小嶋雄輔さん(16年8月4日の記者会見にて)

中村さん そうなったとき、多くの人が「Looop」を選んでくれたら、もしかすると3人で立ち上げたベンチャー企業が、世界一の電力会社になるかもしれません。その世界一の電力会社が、「エネルギーフリーにする」なんて言っていたら面白いじゃないですか(笑)

高橋 確かに、さきほどおっしゃっていた理想に近づきますね。当面の目標を教えてください。

中村さん 今現在、Looopと契約されている家庭は2万6千世帯を超えました。これがある一定世帯を超えるごとに、お客様に還元できるよう、段階的に価格を下げたいと思っています。でも単に安売りをしたいわけではありません。「Looop」には、本当にエネルギーフリーの社会をめざそうという理念がある。そのための第一歩として真剣に取り組んでいるのです。

適正な利益を出しつつも、コストを下げるための開発を続けていきます。今はまだ託送料金が高いのでこれ以上下げることは難しいのですが、その理念をいかに実現していくか、最近はこのことしか考えていないですね。
 
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ケニアでは農地の上で太陽光発電を行うソーラーシェアリングも実施

インタビューを終えて

電力自由化が始まって半年、「興味はあるけれどどうしたらいいかわからない」「なんだかめんどうくさそう」ということでまだ切り替えていない方が多いと思います。

でも、電力会社の切り替えは驚くほど簡単です。ぜひ気になる電力会社のサイトでシミュレーションをして、気軽に切り替えてみてほしいと思います。そして1年後くらいに、もう一度見直して、切り替えるということでも良いのではないかと思います。

Looopは自然エネルギーを広めようと頑張っている会社ではありますが、電源比率で言えば、今はまだ社会的、制度的な制約もあって、自然エネルギーの割合は26%程度と決して大きくはありません。それでも、こういう会社を応援する人が増えることで、この比率を高めていくことができる可能性はあります。

もちろん、中村社長の語るエネルギーがフリーな未来も近づくのかもしれません。現時点で100点満点の新電力がなかったとしても、より良い未来を見据えて一票を投じる、その候補先としてはLooopという会社はとても魅力的な存在のひとつではないかと思うのです。

今回はこんなところで! 高橋真樹でした。
 
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高橋真樹(たかはし・まさき)
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70カ国をめぐり、持続可能な社会をめざして取材を続けている。このごろは地域で取り組む自然エネルギーをテーマに全国各地を取材。雑誌やWEBサイトのほか、全国ご当地電力リポート(主催・エネ経会議)でも執筆を続けている。著書に『観光コースでないハワイ〜楽園のもうひとつの姿』(高文研)、『自然エネルギー革命をはじめよう〜地域でつくるみんなの電力』、『親子でつくる自然エネルギー工作(4巻シリーズ)』(以上、大月書店)、『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など多数。2016年7月25日に新刊『そこが知りたい電力自由化・自然エネルギーを選べるの?』(大月書店)が発売された。

Looop ってどんな電力会社なの?
株式会社Looopウェブサイト
ご当地電力についてもっと知ろう!
高橋真樹がゆく全国ご当地エネルギーリポート

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わたしたちエネルギーは、エネルギーを、じぶんごとにして楽しむプロジェクトです。エネルギーを減らしたり、つくることを楽しむ。つくったエネルギーで得られる楽しさ、幸せをみんなで共有する。エネルギーで地域が自立する。今、そんな試みが全国に広がっています。わたしたちは、greenz.jpの記事をつくること、グリーンズの学校で共に学ぶことなどを通してそんな動きをサポートし、そして共に歩みたいと思っています。 このプロジェクトは、経済産業省資源エネルギー庁GREEN POWER プロジェクトの一環で進めています。 ⇒ 特集「わたしたちエネルギー」FacebookページGREEN POWER プロジェクト WEBサイト

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