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「隠れトランプ」はどこに潜んでいたのか
「世紀の番狂わせ」と言われた米大統領選をめぐり、米大手メディアによる事前の世論調査がことごとく外れたことに衝撃が広がった。とりわけ注目されたのが「隠れトランプ票」の存在である。「トランプ憎し」の極端なスタンスで報じ続けたメディア不信の表れとの指摘もあるが、なぜ既存メディアは票読みを誤ったのか。
「世紀の番狂わせ」と言われた米大統領選をめぐり、米大手メディアによる事前の世論調査がことごとく外れたことに衝撃が広がった。とりわけ注目されたのが「隠れトランプ票」の存在である。「トランプ憎し」の極端なスタンスで報じ続けたメディア不信の表れとの指摘もあるが、なぜ既存メディアは票読みを誤ったのか。
既存メディアの敗北
ドナルド・トランプ氏が勝利した米大統領選は、社会科の教科書的に表現するなら、格差や貧困の拡大、白人を中心とした中間層の没落など、グローバル資本主義の行き詰まりと、それに効果的な手を打てない既存の政治への人々の不信を反映した結果と言えるだろう。
こうしたアメリカ社会の深刻な矛盾とともに、今回の米大統領選がもう一つ、明確に示したものがある。それは、新聞やテレビなど米国の既存メディアもまた、トランプ氏に敗北したという冷厳な現実である。
日本のメディア批評誌などによると、トランプ陣営は選挙期間中、ヒラリー・クリントン氏に肩入れするニューヨーク・タイムズなどの有力紙や、CNNなど大手テレビ局を敵視し、トランプ氏の集会を取材する主流メディアの記者やカメラマンらに、何千人もの集会参加者が立ち上がってブーイングを浴びせる光景が恒例行事化していたという。
米国の主要な新聞のうち、共和党寄りの新聞を含め55紙がクリントン氏への支持を表明したのに対し、トランプ氏支持はわずか1紙だったとも言われる。横並び報道は日本だけでなかったようだ。同氏は彼らを「不誠実」と非難し、取材を拒否されたメディアもある。
気になるのは、トランプ氏の支持者の間で高まったメディア不信が選挙後、米国全体のメディア離れを加速させ、新たな言論規制や差別拡大などの空気を醸成しかねないことである。この問題をあまり報じない日本の新聞やテレビも含め、民主主義社会におけるメディアの正念場かもしれない。(フリーランス記者、上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ・上出義樹 メディアゴン 2016年11月13日)
「天才統計学者」も大ハズレ
文化・メディアの植民地
人はウソをつく存在
メディアの主役交代を象徴
トランプを勝たせたのはFacebookだという批判があるようです。Facebookのニュースフィード上に表示された虚偽の情報や偏った投稿が大きく影響したというのです。ザッカーバーグCEOはそれは馬鹿げたことだと反論し、虚偽のニュースが流れるのは一方だけでないだろうと疑問も投げかけていますが、問題はもっと別のところにあったような気がします。
まず、メディア戦略の違いがありました。クリントンは資金力を背景に最初から大量の広告を展開し、トランプ陣営は、最初はインターネットに照準を当て、選挙戦の最後にテレビ広告を投入し、仕留めるという戦略にでたと日経のFT記事が分析しています。しかも、トランプ陣営は無料のSNSを活用による効果は46億ドル相当になるとか。もしその通りだとすると、クリントン陣営の広告支出が4億5000万ドルだったので、ネットの力の凄さを感じさせられます。『日々是マーケティング』さんは、こういったSNSによる情報の拡散を支えたのは、「ティ・パーティー」と呼ばれる若者たちだったのではないかとされていますが、おそらくそうでしょうし、それは自民党がネトウヨを巧みに利用してきたのと近いのかもしれません。
今回の大統領選で、敗れたクリントン氏側に不利な情報がSNSによって拡散した、というのは半分は正しいと思う。その中心になったのは、オバマ大統領になったころ、話題となった「ティ・パーティー」と呼ばれた若者たちだろう。彼らは、SNSを使い自分たちと同じような思考の共感者を集め、分散させてきたからだ。そう考えると、今回の大統領選は情報源の信頼度の変化に影響された部分もあるだろうし、SNSの発達が旧来の情報発信源である新聞やテレビなどのメディアを信用・信頼しなくなりつつある、ということが米国で起きている、と考えるほうがよいのかもしれない。
それもトランプ勝利を導いた要因だったのかもしれませんが、それよりも新聞メディアが「ドナルド・トランプは絶対に大統領にならない」という類の記事のオンパレードを展開し、それがネットにも拡散し、クリントン支持者をわざわざ投票にいかなくとも良いと思わせてしまったことがトランプ勝利を導いたとする見方をGIZMODEが示しています。もしそうだとすると、なんとも皮肉なメディアのメカニズムが働いてしまったことになります。
資金力で圧倒しマス広告に頼ったクリントン陣営が、うまくネットの特性に乗ったトランプ陣営に負けたことは、メディアの主役の交代を象徴する歴史の転換点の選挙だったのかもしれません。それにしても選挙資金でトランプ陣営の2倍近い資金を注いだクリントンが敗れたことは広告業界にとってはさぞかしショッキングな出来事だったのではないでしょうか。(「大西宏のマーケティング・エッセンス」 2016.11.15)
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