【米政権交代】メラニア夫人は当分ホワイトハウスに引っ越さず 異例?

  • 2016年11月23日
当選を喜ぶトランプ次期米大統領(左)と息子バロン君、メラニア・トランプ夫人(9日、ニューヨーク) Image copyright AFP
Image caption 当選を喜ぶトランプ次期米大統領(左)と息子バロン君、メラニア・トランプ夫人(9日、ニューヨーク)

ドナルド・トランプ次期米大統領は来年月1月20日に就任するが、メラニア夫人と息子のバロン君はただちにホワイトハウスに住むわけではないと明らかになり、賛否両論を呼んでいる。

トランプ次期大統領は、メラニア夫人とバロン君が「間もなく、学校が終われば」ワシントンに引っ越すと表明しているが、具体的な時期には言及していない。

政権移行チームのジェイソン・ミラー報道担当は、トランプ一家が「国に尽くすと言う新しい役割に向けて、やる気満々」なことに変わりはないと強調。1月から親子でホワイトハウスに暮らさないのは、単にバロン君が学年の途中で転校せずに済むようにするためだと説明した。

ただしソーシャルメディアではこれに批判が相次いでいる。ツイッター・ユーザーのパメラ・ベンボウさんは、「ファースト・ファミリーは国民と世界に対するこの国の象徴として、ホワイトハウスに住むもの。メラニア・トランプの決断はとんでもない」と書いた。

ホワイトハウスの内装がメラニア夫人の趣味に合わないからではないかと、からかう書き込みもあった。また、トランプ夫妻の夫婦関係の何かを物語る動きなのではないかという意見もあった。

大勢が強く反応したのは、ある意味で予想通りと言える。米国の歴史で、夫が大統領として在任中に共にホワイトハウスに暮らさなかったファーストレディは、実に2人しかいない。1人は、初代大統領夫人のマーサ・ワシントン。これは、まだホワイトハウスがなかったからだ。ウィリアム・ハリソン第9代大統領のアナ夫人がホワイトハウスに住まなかったのは、引っ越す前に夫が就任わずか32日間で肺炎のために亡くなったからだった。


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しかし、メラニア夫人の判断を支持する声もある。

「バロンの年齢の子供がいるなら、しっかりした親として当然のこと」と評価するツイートもあった。

バロン君は10歳。メラニア夫人はこれまでも自分にとっての最優先は息子だと繰り返し、選挙戦中もほとんど夫の遊説に同行せず、ニューヨークのトランプ・タワーで息子の面倒を見ていた。

とはいえ、幼い子供を連れてホワイトハウスに移り住んだ母親はこれまでも大勢いる。ほかのファースト・ファミリーはこれまで、どうやって生活の変化に対応してきたのか。

ほかの大統領一家は?

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Image caption ホワイトハウスの庭を歩くクリントン大統領(当時)とヒラリー夫人、娘のチェルシーさん。チェルシーさんは後に、自分は「普通」の子供時代を過ごしたと発言している。

ホワイトハウス歴史協会の研究者で、ホワイトハウスについての著書もあるウィリアム・シールさんは、第22代と第24代の大統領を務めたグローバー・クリーブランドの妻フランシス・フォルソム夫人は、社交界が活動する時期にしかホワイトハウスに住まなかったと指摘する。

連続しない2期を務めた唯一の大統領でもあるクリーブランド大統領は、独身で大統領に就任し、1期目にワシントン市内に自宅を購入。結婚と同時に大統領夫人となった21歳は、「オーク・ビュー」と呼んだこの自宅を、主な住処とした。

「子供の学校が終わるまで自宅に留まるのは、特に珍しいことではない。学年の終わりまで今の学校に通わせたいと思うのは、さほど異例のこととは思わない。意外ではない」とシールさんは言う。

ハリソン大統領が病死した後に就任したジョン・タイラー第10代大統領の子供たちも、すぐにはホワイトハウスに引っ越さなかったという。

またジェイムズ・マディソン第4代大統領の妻ドリー夫人は、最初の夫との息子ペイン・トッドを寄宿学校に入れて、ホワイトハウスでは一緒に暮らさなかった。

直近の30年間で就学年齢の子供がいた大統領は、クリントン大統領とオバマ大統領の2人だ。チェルシー・クリントンさんは父親の就任時に12歳、オバマ夫妻の娘マリアさんとサーシャさんは10歳と7歳だった。

3人とも地元からワシントンまで引っ越して、就任式当日から、ペンシルベニア通り1600番地にあるホワイトハウスで暮らした。

オバマ夫妻は逆に、娘たちが学期中に転校しなくて済むよう、新年にかけてワシントンに引っ越しし、娘たちは就任式の前から新しい学校に通い始めた。

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ファーストレディの役割とは?

メラニア夫人はこれまで、自分にとってはバロン君が最優先で、ほかのことはすべて二の次だと意思表示してきた。行間を読み取るならば、ミシェル・オバマ夫人のようにファーストレディとして活発に活動するつもりはない様子だ。

公式には、ファーストレディの役割はあくまでも儀礼的なものだ。ホワイトハウスの女主人として客人を歓迎し、パートナーと共に、あるいはひとりで、パーティーやイベントに出席することが期待されている。

近年では、独自の政策テーマを掲げて推進するケースが増えている。ミシェル夫人は、世界中の少女に教育を受ける機会を与える活動や、健康のための食育推進などに取り組んできた。

シールさんは、ファーストレディは非常に世間の注目を集める存在だと指摘する。

「ホワイトハウスの人間的な側面を担う役割だ。世間が大統領をどう思うかは、夫人次第とも言える」、「(大統領は)行政担当者であると同時に象徴で、大統領の象徴としての部分にファーストレディの役割は大きく関わっていると思う」とシールさんは言う。

活発に社会活動をした最初のファーストレディは、ハーバート・フーバー第31代大統領のルー・ヘンリー夫人だとシールさんは説明する。また後任のフレデリック・ルーズベルト第32代大統領のエレノア夫人も、政権内でも目立つ存在となり、新聞や雑誌にコラムを書き、労働者や黒人の人権のために活動した。

世間の目にさらされるような表立った活動を特に嫌ったファーストレディといえば、ロナルド・レーガン第40代大統領のナンシー夫人だったとシールさん。実際には政権運営に大きな影響力をもち、後には麻薬対策運動に深くかかわるようになったナンシー夫人は、当初は妻として夫を支えることのみを重視していたという。

表立ったことが嫌いだったナンシー夫人は、「世界で一番、夫のことを気にかけていた」とシールさんは言う。

メラニア夫人がファーストレディとして何に取り組むのかは、まだはっきりしていない。これまで言及したテーマはひとつだけで、ネット上のいじめや暴力に取り組みたいと言明している。

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Image caption トランプ氏の選挙戦では、娘のイバンカさん(右)が大きな役割を果たした

ファーストレディの代わりほかの誰かが?

妻以外の女性がファーストレディの代行を務めたことは過去にはあるが、夫人が存命にもかかわらずというのは前例がない。

トマス・ジェファーソン第3代大統領の娘マーサ・ジェファーソン・ランドルフは1801年、ファーストレディの役割を担った。マーティン・バン・ビューレン第8代大統領のホワイトハウスでは、大統領の息子と結婚したアンジェリカ・バン・ビューレンがファーストレディの役を務めた。いずれの大統領も、約20年前に妻と死別していたからだ。

一方のトランプ次期政権では、米誌バニティ・フェアが選挙戦中に「代理妻」と呼んだ娘のイバンカさんが、義母の役割をいくらか担うことになるのだろうか?

近年の前例はある。クリントン政権末期にヒラリー・クリントン夫人が上院選に出馬することになった後は、娘のチェルシーさんがファーストレディの業務をいくらかこなすようになった。

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Image caption 妻と死別していたトマス・ジェファーソン第3代大統領のホワイトハウスでは、娘マーサ・ジェファーソン・ランドルフがファーストレディの役割を担った

ホワイトハウスは子供に優しい場所?

ホワイトハウスがどういう場所になるかは、住む家族次第だ。

有名な話として、チェルシーさんは時に、オーバルオフィス(大統領執務室)で宿題をすることがあった。友達をホワイトハウスに呼んでお泊まり会をすることもあった。ビル・クリントン大統領はなるべく娘と朝食をとろうとしたので、つまりチェルシーさんの友達も大統領と一緒に朝食をとることもあったわけだ。

ヒラリー・クリントン夫人もミシェル・オバマ夫人も、まずは子供たちの事情を優先してファーストレディの職務をこなした。そしてクリントン家もオバマ家も、娘たちのプライバシーを尊重するようマスコミに要請し、マスコミ側もだいたいのところはその希望を受け入れた。

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Image caption オバマ大統領はホワイトハウスで、毎晩同じ時間に娘たちと夕食をとった。

オバマ夫妻も、娘たちのために確実に時間を作ることに心を砕いてきた。ホワイトハウスでの家族の夕食は毎晩、午後6時半と決まっている。大統領は、家族と夕食をとらないのは、よほどの安全保障上の危機の時だけだと公言してきた。

今年初めに米誌モアとのインタビューで、大統領は「意外なことに、ホワイトハウスにいることで家族としての生活は前よりずっと『普通』になった」と話している。

チェルシー・クリントンさんも、自分の経験を振り返り同様のことを話している。

チェルシーさんはハフィントン・ポストに対して、「自分が歴史の中で生きているという自覚は、いつもとてもありました。その一方で夕食は、両親と毎晩、台所で一緒だった。だから自分の生活には、とても普通の部分もたくさんあったんです」と話している。

(英語記事 Melania Trump's White House snub: Appalling or good parenting?

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