先週行われたドナルド・トランプ氏の外国首脳との初会談には、驚かされることが多々あった。米国務省の不在、娘イバンカさんの同席、ディズニーとベルサイユ宮殿を融合させたようなトランプ氏の室内装飾家のビジョンといったものだ。だが、それとほぼ同じくらい意外だったのは、会談の相手だ。というのも、人を押し分けて行列の先頭に立ったのは、日本の安倍晋三首相だったからだ。
日本の外交は過去何十年も、最悪の場合は支離滅裂、よくても目に見えないほど控えめだった。安倍氏は違う。基本的にトランプ氏との会談に招かれてもいないのに押し掛けたといえる大胆な行動は、世界を股にかける首相が65カ国を訪問する力になった外交努力と合致している。安倍氏は現在、アルゼンチンにおり、訪問国をまた1つ増やした。
■積極的な外交、国内の安定から
安倍氏がこの積極的な外交政策を遂行できるのは、国内の政治が安定しているからだ。同氏はほぼ4年、首相の座にある。直近5人の前任者は、1人当たり1年ほどしか持たなかった。この政治の安定は、日本国内における経済改革「アベノミクス」の人気を基盤に築かれた。だが安倍時代の矛盾は、首相が国際舞台で大きな成功を収めるほど、国内で政治的リスクを取る熱意が薄れていくように見えることだ。
この1年間で、安倍氏は外交上の成果を上げ、財政、金融政策による景気刺激策を推し進めた。一方、国内では重要な法案をほとんど何も可決させていない。安倍氏は日本を改革した人物としてのレガシー(遺産)を残すよりも、世界における日本の地位を見つけた人物になりたいようだ。
安倍氏は日米同盟の強化に取り組み、インドと有望な絆を築き、凍り付いていた中国との関係を単に冷たい程度まで改善させた。2015年には、日本の自衛隊が米国とともに戦うのを容易にする安全保障関連法案を可決させ、昨年12月には韓国と、戦時中の「慰安婦」問題に決着をつける合意をまとめた。
積み上がった成果には目を見張るものがある。戦時中の歴史をめぐって日本政府にかかる国際社会の圧力は近年のどの時点よりも小さく、日本には自国の利益を守るために同盟国を動揺させることをいとわない自信がある。このことは、中国・杭州での20カ国・地域(G20)首脳会議の直前に、日本が英国に「ソフト(穏健)」な欧州連合(EU)離脱を選ぶよう迫るメモを公表したときに明々白々になった。