HOME > 新製品レビュー > 新製品レビュー:話題の高音質コーデックaptX HDの実力を探る
2016年11月23日/木村雅人
昨日のStereo Sound ONLINEの記事にもあったように、クアルコムがaptX HDの技術発表を行なった。
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aptX HDとは、Bluetoothの仕組みを利用して、最大48kHz/24bitで音楽データの伝送を可能にしたクアルコムの圧縮コーデック技術だ。ちなみに前バージョンのaptXではCDクォリティとなる48kHz/16bitまでの対応となる。さすがに96kHz/24bitまでとは行かないが、ワイヤレスでもハイレゾが楽しめるようになるのは朗報と言えるだろう。
今回はそのaptX HDを試すことにした。試聴に使ったのは、aptX HDにいち早く対応した製品である、オーディオテクニカが11月25日に発売するBluetoothヘッドホン「ATH-DSR9BT」(実勢価格¥60,000前後)とアステル&ケルンのハイレゾ対応DAP(デジタル・オーディオ・プレーヤー)「AK70」(直販価格¥69,980、税込)だ。昨今のトレンドを踏まえた組合せで、実際にこのペアで持ち歩くユーザーは少なくないように思う。
ATH-DSR9BTは、音本来の豊かさを再現するというコンセプトのSR(Sound Reality)シリーズのフラッグシップモデル。10月13日のオーディオテクニカ新製品発表会で登場し、aptX HDへの対応がアナウンスされた。まだ対応再生機器が市場にない時期にいち早く対応をうたったことで話題となった。
本機はデジタル入力した信号をそのままドライバーに送り、直接振動版を動かす「ピュア・デジタル・ドライブ」を搭載している。接続インタフェースはBluetooth(aptX HD以外の対応コーデックはaptX 、SBC、AAC)とPCとのUSB接続のみ(USB接続は96kHz/24bitまで対応)。つまり、信号の劣化が極限まで抑えられというのだ。
「トゥルー・モーションD/Aドライバー」と名付けられたドライブユニットは、音を出すユニット部分と、デジタル信号を処理する回路が一体となっている。新開発の振動版はφ45㎜で、剛性を高めるDLC(Diamond Like Carbon)コーティングを施したほか、ボイスコイルには4芯撚り線構造の高純度7N OFCショートボイスコイルを採用し、「微細な音まで明確に描写できる」という。
内蔵している電池はリチウムイオンで最大再生時間は15時間ほど(充電時間は約4時間)になる。他の主だった機能はオーディオテクニカの製品ページを参照頂きたい。実機を手にして、グレーとアルミニウムシルバーの落ち着きのある色使いの本体デザインに目を惹かれた。さりげない高級感を上手に演出している。
アステル&ケルンのAK70は今年の7月に発売されたハイレゾ対応DAPだ。実勢価格で20万円越えの高級機がずらりとそろう同社DAPラインナップのエントリーモデルとなる。DACチップにはシーラス・ロジック製CS4398を採用し、PCMが最大384kHz/32bit、DSDは5.6MHzまでサポートする(ただし、ネイティブで再生できるのは192kHz/24bitまでで、それ以上のハイレゾファイルはダウンコンバートされる)。
Bluetooth 4.0に準拠し、発売時はaptXとSBCコーデックのみの対応だった。これが、11月10日にリリースされた最新ファームウェアでaptX HDに対応した。今回はこの新ファームウェアを搭載したAK70でテストを行なっている。
ではテストを始めるとしよう。試聴はいつも通り筆者の部屋で行った。音質の違いを確かめるためiOSを搭載しAACコーデックに対応したiPad Proも用意した。音源はノラ・ジョーンズのアルバム『Come Away with Me』から「Nightingale」(192kHz/24bit/FLAC)と、新製品レビューでは定番のソフィー・ミルマンのアルバム『Sophie Milman』から「AGUA DE BEBER」(44.1kHz/16bit/WAV、CDリッピング)を使った。
まずはBluetoothペアリングから。aptX HDも手順は他のコーデックと同じだ。ATH-DSR9BTは電源スイッチが右側のハウジングにあり、その他の操作系スイッチは、左側のハウジングの周囲に集約されている。ここにはボリュウムとトラック送りが可能なスライドスイッチ、再生/一時停止等を行なうタップスイッチが配置されている。また、正面(耳と平行になる面)に電池残量や接続中のコーデックを表示する3つのLEDがある。なお、ATH-DSR9BTはマイクも装備しており、ヘッドセットとしても使える。先ほどのタップスィッチを使えば、電話の応答や音声認識システム(iOSやOK Google対応状況は端末による)の起動が可能だ。
ATH-DSR9BTの電源をオンにするとペアリングのスタンバイ状態になる。このとき、AK70側のBluetooth機能をオンにしてATH-DSR9BTが見つかればOK。機器名を選択すればペアリングができる。取材中iPad ProとAK70の切り替え時に「ATH-DSR9BT」と機器名は見えるものの、正しくつながらないことがあった。おそらくは、借用したデモ機が過去に様々な機器とペアリングしていたことが原因していたのだろう。左ハウジング上部にあるリセットボタンを押す事で解決できた。
ATH-DSR9BTのサウンドは帯域バランスがフラットで、いい意味でクセが少ない、聴き疲れしにくいのが印象的だ。ノラ・ジョーンズの声は懐の深さを感じさせる倍音が美しい。「AGUA DE BEBER」ではシンバルやギターのサウンドが安定感のある伸びやかな響きだ。ハウジングの強度があるためか、ボリュウムを大きめにしてもヘッドホンにありがちな鳴きが少ないのが良かった。
本機はaptX HDとaptXを切り替えられるモードがあるので、それぞれのサウンドを確認た。結論から述べるともちろんaptX HDがいい。aptX HDをオフにするとノラ・ジョーンズのヴォーカルが若干スリムに聴こえ、全体の奥行感も一歩後退したように聴こえたからだ。CDリッピングで44.1kHz/16bitの「AGUA DE BEBER」は、あえてモードを切替えて違いが出るのかチェックをしてみた。サウンドの違いは無いかと思っていたが、ソフィー・ミルマンの声の鳴りっぷりの良さがaptX HDの方が一前上手に感じられた。昨日の技術説明会のリポートによると「16bitを24bitに拡張して伝送する」といった話があったそうで、まさにこの効果を実感できた。
Bluetoothヘッドホンはサウンドだけでなく装着感や操作感も大事だと考えている。そのため、aptX HDの音質とは直接関係ないかもしれないが、これらについても触れておきたい。
ATH-DSR9BTは本体質量が315gと軽い部類ではないものの、重量バランスが絶妙で長時間聴いていても苦になることはなかった。イヤーパッドのフィット感も好感触。材質にも高級感があった。左ハウジングに配されているタッチスイッチは、クリック感がないため最初は少し戸惑ったけれど、慣れてくればそんなに使いづらいワケでもない。何よりもポータブルプレーヤーやスマートフォンをカバンから出さなくても、ある程度の操作ができるは至って便利。一度使ってしまったら手放せない機能だ。
ATH-DSR9BTとAK70の組み合わせは、ワイヤレスならではの使いやすさと、aptX HDによる高音質を両立している。ハイレゾ時代を象徴するモバイルオーディオたちだと言えるだろう。aptX HDは対応機器が出始めたばかりだが、競争が激しいスマホ市場で対応機が増えるのには、そんなに時間が掛からないのではないかと思う。「ワイヤレスなんて……」と一昔前のBluetoothの音を知る方は思ってしまうかもしれないが、一度聴いてみて欲しい。その価値感が一変するはずだ。
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