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 インフルエンザワクチンを接種しても、インフルエンザを発症することはあります。

 

 インフルエンザワクチンの有効率はざっくり言って50%ぐらいです。ときどき勘違いをする方がいらっしゃいますが、「ワクチンを打った人の50%がインフルエンザにかかってしまう」というわけではありません。「ワクチンを打たなかったらインフルエンザになっていたであろう人のうち、ワクチンを打っていれば50%がインフルエンザにならなくて済む」という意味です。

 

 ワクチンを打たないと100人のうち20人がインフルエンザを発症するとしましょう。その100人に有効率50%のワクチンを接種すると、インフルエンザを発症するはずだった20人のうち10人は発症せず、残りの10人はワクチンを接種していても発症します。この場合、ワクチンを打っていた人の90%がインフルエンザになりません。

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 有効率の数字は、ワクチン接種対象や、ワクチン株、調査方法によってけっこう差がありますので、50%というのは本当にざっくりした数字ですが、大雑把(ざっぱ)な数字を把握しておくことは大事です。インフルエンザワクチンの有効率は10%ほど低くはないし、90%も高くない、ワクチンによってインフルエンザをおおむね半分ぐらいは減らせる、と考えてください。

 

 たまに「インフルエンザワクチンは効かない」という主張が聞かれます。古くて不完全な研究や、「ワクチンを接種したけれどもインフルエンザにかかった」という体験談が根拠です。インフルエンザは罹患者が多いせいか「ワクチンを接種したけど発症した」という体験をした人も多いのです。上記の例ではワクチン接種者100人のうち10人が発症します。

 

 やっかいなのは、ワクチンのおかげでインフルエンザにならなかった人が誰なのかがはっきりしないことです。上記例では、ワクチン接種者100人うち10人がワクチンのおかげで発症を免れたのですが、もともとワクチンを接種しなくても発症しなかった80人のなかに紛れてしまいます。ワクチンの効果は実感しにくいのに対し、ワクチンが効かなかったことは実感しやすい。この非対称が、医学的には間違っているワクチン無効論が出てくる理由の一つでしょう。

 

 「インフルエンザワクチンの有効率が50%程度なら私は接種しなくてもいい」と考える人もいるでしょう。それは個人の選択の自由です。ですが、「インフルエンザワクチンはまったく効かない」という間違った情報に基づいた意思決定は望ましくありません。ワクチンを接種するにせよ、しないにせよ、正しい情報に基づいて判断してください。また、ワクチンを接種した人も、ワクチンの有効率を把握することで、ワクチンさえしてれば安心とは考えず 、手洗いなどの他の感染予防対策の必要性についての理解が得られます。

 

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・ワクチンを考える>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。