誰が犯人なのかわからない、ベッドへのいたずら(というよりはかなり暴力的な行為だが。)が起きてから、何日か経った。
その日、ぼくと靴磨きのがんちゃんがDenny'sから帰ってみると、再び病院の開放病棟で騒ぎが起きていた。
今度はいつもトイレの密室にこもっているときに声高らかに演歌を歌って孤独を楽しんでいるじーちゃんが行方不明だという。
病棟の看護師たちが昨日から探しているのだが、見つからない。警察もやって来て大騒ぎになっていると、
ひょっこりそのじーちゃんが戻ってきた。それもパジャマ姿でだ。
ぼくたちはあっけにとられてしまった。
病院の看護師長が怒り狂ったのは言うまでもない。しかしじーちゃんは悪びれることもなく、
「おーい。みんな~。俺は戻ってきたぞ~!」と高らかに帰還報告をしてくれた。
じーちゃんは当然のことながら、開放病棟から閉鎖病棟への「強制的」引っ越しが決まった。
それから次の日。騒ぎというものはこうも続くのかと思ったのだが、今度は前に書いた「女性部屋のいたずら事件」がとうとう看護師に現行犯で犯人が捕まった。やはり前にぼくと話をした若い女性だった。
しかも驚いたことに、現場を押さえられたにも関わらず、本人は
「そんなことはやってません。」
と平然とした顔で容疑を否認しているとのことだった。
後で聞いた話だが、どうも彼女はBPD(Borderline Personality Disorder 境界型人格障害)という話だ。詳細はよくわからないが・・・。無論、全てのBPDの人がこのような行為をするわけではないと思うが…。
彼女も自傷行為、他傷行為の可能性があるため閉鎖病棟にお引越しした。(この場合は措置入院と言って本人の意思とは関係なく閉鎖病棟行きとなる。)
まだある。それからややしばらくたったある日、僕達がホールでだべっていると、若い女性が、
「K先生(ぼくの主治医だ)が私と結婚してくれなきゃ死んでやる!」
とカッターナイフを振り回している。自分を斬りつけたのか血まみれだ。
男性看護師数人が彼女を取り押さえ、カッターナイフを奪い取った。
当然のことながら、彼女も閉鎖病棟へお引っ越しされた。
開放病棟とは言え、やはりここは精神病院だということを改めて感じた事件だった。