環太平洋経済連携協定(TPP)は、依然として先行きが見えない。中心国である米国のトランプ次期大統領は選挙戦で「撤退」を唱え、当選後は沈黙を守ったままだ。

 状況が不透明な中で、どんなメッセージを発するのか。注目されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)が終わった。

 首脳宣言とその付属文書は、世界で高まる保護主義に対抗すると明確にうたった。21のすべての加盟国・地域が参加するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を目指すことを再確認し、TPPと、経済規模で中国が中心の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の両方を実現すると改めて示した。

 注目したいのは、宣言に「自由貿易に対する懐疑的な見方」という文言が盛り込まれ、「自由化が不平等と格差を広げている」との反発に向き合おうとする意識がうかがわれることだ。

 さらに歩を進め、協調して対策を講じていくことにこそ、保護主義の広がりを防ぎ、世界経済の低迷を脱するカギがある。

 国と国との間の、あるいは国内の不平等の拡大と、それが持続可能な発展を妨げる恐れについては、これまでも繰り返し指摘されてきた。今回わざわざ「懐疑論」に触れたのは、英国の欧州連合(EU)からの離脱決定や、米大統領選でトランプ氏の予想外の勝利に直面し、かつてないほど危機感が強まったことが背景にある。

 不平等・格差への不安や怒りを解消していくことは、短期間では難しい。グローバル化や既得権益への反発の急速な広がりを考えれば、時間を浪費している余裕はない。

 首脳宣言は「貿易および開かれた市場の恩恵がより効果的に幅広く一般の人に伝えられることが必要」と指摘した。首脳会議に先立つ担当閣僚会議では「説明だけでなく、具体的に恩恵が広く行き渡るようにすべきだ」との発言が相次いだ。問われているのは実行である。

 教育、女性、健康と福祉。失業、中小零細企業、都市と農村。環境と気候変動……。今回のAPECで決まった各種の文書には、こんな言葉がちりばめられている。不平等・格差の原因となり、それを克服するための課題を示すキーワードだ。

 先進国か途上国かをはじめ、国や地域ごとに異なる問題と経験を持ち寄り、解決を図っていく。それを、国連や世界貿易機関(WTO)という地球規模に広げ、加速していく。

 今回のAPECを、その出発点としなければならない。