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「プログラミングの能力が僕を救ってくれた」―セゾン情報システムズ 小野和俊さん

2016/11/22 06:00

ペインポイントとホワイトスペースを考え、解決策を提供する

 2000年10月、日本に戻り起業したのがアプレッソだった。何もビジネス経験はなかった。

 「まさにリスクをとって、しかもちゃんとそれをエンジョイしました。シリコンバレーでのダイナミックなマネジメントを経験し、一方で日本の品質の高さ、完成度の高さも分かっていたので、それらを併せ持ったようなエンジニアの楽園を作りたいと考えました」(小野さん)

 作るものは何でも良かった。事業として成り立ち、きちんと利益を上げられるものが必要だった。その上で、これが自分たちの作品だと違和感なく言えるものを作ろうと考えた。この思いは今も変わっていない。そして生まれたのが、異なるシステムのデータやアプリケーションをノンプログラミングでつなぐ「DataSpider」だった。

 DataSpiderは、野村総研で作っていたアナリスト向けのツールがヒントになった。アナリスト向けのツールは、キーワードに基づきさまざまな情報を集めクリッピングする。さらにアナリストの検索の仕方をパターン認識し、次に検索するであろう情報を推奨する機能も構築していた。これは今ならECサイトのリコメンドなどで使われる「協調フィルタリング」と呼ばれるようなものだ。

 この仕組みを実現するには、さまざまなデータソースをクローリングしてデータ取得する必要がある。さらにデータのエンコーディングやフォーマットの違いなども吸収する必要があった。「これらは、まさにデータ連携に必要なものでした」という。さらに小野さんは、SunでJavaとXMLの開発も行っていた。それらを使ったデータ連携は、まだまだスマートではないことも分かっていた。

 「データ連携は、まさに世の中のペインポイントだと思いました。解決策を提供できれば事業になる。きちんと痛みを解決できるものを作れば、オンリーワンの存在になれると思ったのです」(小野さん)

 このペインポイントは、クラウド時代となった今も変わらない。クラウドの普及が進めば、オンプレミスとの連携が必ず発生するからだ。そのため、DataSpiderは市場で評価され続けている。

 アプレッソは、2013年3月にセゾン情報システムズと資本、業務の提携を行った。小野さんはセゾン情報システムズのファイル転送・データ連携ツール「HULFTシリーズ」のCTOとなる。その後、HULFT以外の事業についても取締役CTOとして担当し、現在は常務取締役としてアプレッソとの「二足のわらじ」になっている。

 当初メインフレームとUNIXをつないでいたHULFTは、クラウドが台頭するとクラウドに殺される製品だと思われていた。小野さんは、それは逆だと思った。「きちんとポジションチェンジをすれば、HULFTの強みはクラウド時代にも生きる」と。HULFTはもともと日本の銀行で100%使われており、安全、安心の通信を担保してくれる仕組みとして大きな実績がある。この実績は、まさにクラウド時代のペインポイントを解決する。ポジションチェンジをした結果、HULFTはAWS Leadership Awardで「Think Big賞」を獲得。クラウド時代に世界に通用するデータ連携の仕組みとして、高い評価を得るに至っているのだ。

 「ペインポイントとホワイトスペースの話はよくします。身近の困ったことをリストにすると100個くらいはすぐ挙がりますが、それを解決するだけではダメです。解決策に事業性、市場性がなければなりません。お金を払ってでも解決するほどの痛みの強さなのか。その上で解決策を出している人がすでにいるのか、いなくても方法を転換するだけで解決できるかなども考える必要があります。空きスペースがあるかは大事なポイントです」(小野さん)

 小野さんが今、もう1つ大きなテーマとしているのがSIの仕組みをどう変えるかだ。リーマンショック以降、人月単価は落ち込みSIビジネスは難しい状況に陥っている。このことには危機意識があり、SIをうまく変革した事例を作りたいと考えている。

 「HULFTをモダンにし、世界で成功したエンタープライズソフトウェアにする。同じようなことがSIでもできるはずです。SIにもノウハウがあり、それを人に依存するのではなくスケールする形にするのです」(小野さん)

 ここでもペインポイントとホワイトスペースだ。たとえばSAPが買収した出張、経費精算ツールのConcurがある。この仕組みは、人事給与のシステムと連携させて使われるケースが多い。「SAPとの連携はありますが、たとえば日本の奉行シリーズやWorksのERPなどとのつなぎ部分をSAPが作るとは思えません。ここにペインポイントがあるのです」と小野さん。今はこのつなぎ部分を、SIでシステムごとに苦労し手組で構築している。ここに他のERPとつなぐブリッジがあれば、SIの手間は大きく減る。そこで「Connector for Concur & DataBridge」を作った。

 「自社以外のConcurの連携案件でも使われるケースが増えてくると考えています。人月単価で作っていたところを製品化することで、SIの収益構造を変えられるのです。セゾン情報システムズではそういった仕組みをすでにいくつか作っています。手間の部分を簡単にするのがソフトウェアです。SIでもペインポイントとホワイトスペースを見つけ解決策を提供できれば、強みを見せていけるのです」(小野さん)

 こういった取り組みで難しいのは、先行投資が必要になることだ。方針を明示し先行投資で開発する部分は、旧来のSIとは違うベンチャー企業的アプローチになる。ここであまりROIなどを追求してしまうと、なかなか前に進めず時間ばかりが経ちチャンスを逸することもある。


著者プロフィール

  • 谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

    EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーター ブレインハーツ取締役。AI、エキスパートシステムが流行っていたころに開発エンジニアに、その後雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダの製品マーケティング、広告、広報などを経験。現在は、オープンシステム開発を主なターゲットにし...

  • DB Online編集部(ディービーオンライン ヘンシュウブ)

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