本物の「プロ経営者」になる7つの条件 ミスミグループ本社 取締役会議長 三枝匡氏(上)
500億円だった売上高をわずか4年で1000億円に伸ばし、今では2000億円超のグローバル企業に――。国内外のメーカーにファクトリーオートメーション(FA)用部品や金型用部品、製造現場で使う工具・消耗品などを供給するミスミグループ本社の三枝匡・取締役会議長。商社だったミスミを企業買収で、ものづくりも手がける企業に変貌、大きく成長させた「元祖プロ経営者」だ。広くプロ経営者が注目を集めるようになったが、決してうまくいっているケースばかりではない。三枝議長の考える「強い経営リーダー」とは何か。2回にわたり紹介する。
■「問題の本質」を発見できる力
――著書「ザ・会社改造」で「プロ経営者の定義」として7つの条件を記しています。なかでも最も実践が難しいスキルはなんでしょう。
| 1.短期間で「問題の本質」を発見できる |
| 2.社員に「シンプル」に説明できる |
| 3.社員の心と行動を「束ね」られる |
| 4.最後に「成果」を出せる |
| 5.どこの企業に行っても通じる経営スキル・マインド |
| 6.修羅場を含む豊富な経営経験がある |
| 7.「それなりの高いお金」がついてくる |
「ザ・会社改造」(三枝匡著)18~19ページを元に作成
「一番難しいのは『問題の本質を発見できる』ということです。それができて初めて、幹部や社員に『シンプルに』説明できたり、戦略を実行できたりします。経験を積み、過去の失敗も含めた因果律のデータベースが頭にある前提で、『この課題はあのケースに当てはまるのではないか』と、何度も試行錯誤するのです。そのプロセスは非常に手間がかかります。経営に限らず、自分がこうだと思ったことが実際は違っていた、ということは多々あるのですから」
「そこまでいくには、長い試行錯誤が必要です。私自身、プロ経営者、という言葉は標榜しないように生きてきました。自分の判断の腕が上がり、自分で『プロ』ということはなくても、いわれても否定しない、という領域に達したのは50歳代の半ばです。30歳代で米バクスター社と住友化学の合弁会社の社長になってから、20年以上の時間が必要でした」
――20歳代にはコンサルタントとして活躍されました。その経験は経営にどのように生きていますか。
「みなさん私がコンサルタントだったというけれど、私が純粋にコンサルタントだったのはボストンコンサルティンググループ(BCG)にいた数年しかありません。コンサルタントは、あくまでお客さんがあげてくる問題に対して『戦略論』という分野の知識のなかで答えを出す、というだけです。ある意味、範囲が狭いのです。一方で、経営は様々な問題がからみあっています。そのすべてをカバーするのが経営者です。要求レベルが高いのです」
■異例のメーカー買収 理由は世界展開
――2005年に金型部品メーカーを買収、機械商社だったミスミをものづくりの会社に変えました。社内に抵抗はありませんでしたか。
「『ものづくりに手を出すのか』という驚きはありましたが、抵抗はあまりありませんでした。しかし、私にとっては必然でした」
「私が社長に就任した02年当時、私が掲げたミスミの課題のなかに、生産問題はありませんでした。そもそも、生産という機能がなかったからです。しかし、生産、つまりメーカーとしての機能を補わなければ、ミスミとしての強さは構築できないとわかったのです。海外展開を考え、中国で事業を手掛けるうちに、ミスミと生産会社との体制に課題があると気づきました」
「ミスミでは、部品1つでも通常では3日で出荷する短納期を実現してきました。顧客ニーズのバリエーションは数限りないくらいに多く、その納期を短くしてお客様に届けるというのは難しいのです。現在ミスミでは、標準納期を2日目出荷に短縮していますが、ものづくりの現場では、納期を1日短くする、というだけでも10年はかかります。就任当時、国内では協力メーカーを複数組み合わせることでミスミの強さを築いていました」
「しかし、これを世界で展開しようとするとどうなるでしょうか。国ごとにメーカーとの体制を作ることになります。ところが、日本の体制を各国のメーカーに説明し、同じことを依頼すると『そんな常軌を逸するようなことはとてもできない』という反応が返ってきました」
「日本のメーカーには、必要なものを必要なときに必要なだけつくるというトヨタ自動車の『カンバン方式』の考え方がありました。だからうまくいきました。しかし、海外のメーカーがまねしてできるかというとそんな簡単なものではありません」
「そもそも、日本の協力メーカーも主体的に『カンバン方式』をやっていたわけではありません。『ミスミが要求するから今日きた注文は今日出さなきゃ』ということに必死なだけで、生産性をあげることに意識が向いているわけではなかったのです」
「体系的にやるなら、我々がリーダーシップを取らないと切り替えられないと感じました。だから、メーカーの買収に踏み切ったのです。とはいえ、本質的に課題がわかったところですぐやれるわけじゃない。現場の工程で作り込む、地味な努力を重ねるしかありません」
――自身は技術者ではないのに、なぜ生産管理にメスを入れることができたのですか。
「生産管理の改善では、高度な技術の知識を問われているわけではありません。事務系のほうがいいとはいいませんが、差はないと思います。むしろ技術系のほうが開発に目が向いて、現場の生産改善を見下すような空気がありがちです。私は専門家の技術力はありませんが、何をしなければいけないのか、原理は完全に理解していました」
■経営者人材に必須『論理性』と『熱き心』
――若手の登用にも積極的ですが、経営者となる人材の素質をどう見抜いているのですか。
「私の持論は『論理性』と『熱き心』です。まず、経営者人材にはこの2つの組み合わせが必須だと思っています。『論理性』とは、目の前にある事象を論理的に分解し、本当の問題を突き止める力です。この問題には何がどういうふうに作用しているか、私は『因果律』と呼んでいます。目の前にあるもつれた糸を分解し、悪さをする核の問題を見つけることが最初のステップです。それさえ見つかれば、次のステップで解決法を打ち出すことが可能になります」
「仕事の場面で、部下が上司に『こんな課題があるのですがどうすればいいですか』という質問をするとします。できる上司なら自分の経験や論理性に照らして『それってこういうことじゃないの』というせりふが出る。この言葉をいえるかどうかが重要で、この言葉を誰よりも早くいえる人がリーダーです。リーダーとは、最初に本質を見抜き、物事を『単純化』して『謎解き』できる人のことです。会社のなかでいくら肩書が上だったとしても、このせりふをいえないなら、ただ後についていっているだけですよ」
――実行に移すにはどうすればいいのですか。
「単純化により課題がシンプルになっているので、次のステップではポイントを追いかけていけばその問題が解決してきます。それが戦略であり対策であり、計画なのです。そこに、もう一つ大切なことがあります。『熱く語る』ということです。ただシンプル化するのが、コンサルタントみたいな商売なのです。組織を率いるリーダーはそこに加えて熱さがなければダメなのです。わかりやすい方向を熱い思いで示してくれた、だからこの人についていこう、社員はそうなって初めて動くからです」
「そして最後に『この方向について行くぞ』という集団のエネルギーが束になります。社員が余計なことをせず、そのストーリーに沿って動けば、その計画はうまくいきます。世の中にリーダーシップの本はたくさんありますし、いろいろなことが書いてあります。私は単純に『単純化』『熱く語る』『集団のエネルギーが束になる』この3つのステップを押さえることがリーダーの要諦だと思っていますし、何もこれは経営者に限った話ではありません。経営者は、このステップを経営の問題について要領よくやれることを求められると思います」
三枝匡氏(さえぐさ・ただし)
1967年一橋大学経済学部卒業。米スタンフォード大学ビジネススクール経営学修士(MBA)取得。三井石油化学工業(現三井化学)、ボストンコンサルティンググループなどを経て2001年、ミスミグループ本社取締役、02年に社長、08年会長、14年から現職。著書に「ザ・会社改造」「V字回復の経営」などがある。
(松本千恵 代慶達也)
「リーダーのマネジメント論」は原則火曜日に掲載します。
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