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ブランド米より業務用が熱い!?

ことしも新米がおいしい季節になりました。全国のコメの産地では、ブランド米の競争が激化する一方、国の政策によって、家畜のエサ用のコメの作付けが増加し、主食用米の需給は引き締まっています。新米の値段は2年連続で上昇。こうした中で引き合いが増えているのが、コンビニの弁当、飲食店などで使われる業務用のコメです。そこをターゲットに生産者も動き出しています。(仙台局 鈴木慎一記者)

新米の値段は2年連続で上昇

ことしは、比較的天候に恵まれたことからコメの生育が順調で、農林水産省によると、平年を上回る作柄となっています。ただ全国のコメの産地では、主食用から家畜のエサ用のコメへの転作が進んでいるため、主食用のコメの収穫量は749万8000トンと国内の需要量を下回る見通しとなっています。

このため、ことしのコメの価格は9月の時点で、すべての銘柄の平均で60キロ当たり1万4342円と去年の同じ月と比べて1164円、率にして8.8%値上がりしました。新米の価格の値上がりは2年連続です。

取り引き量が最も多い北海道産の「ななつぼし」は1万4200円と去年に比べて6%の値上がり。また、宮城県産の「ひとめぼれ」が1万3849円、秋田県産の「あきたこまち」が1万4151円と、それぞれ10%値上がりしています。

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相次ぐブランド米の発売

スーパーやデパートのコメの売り場では、全国各地のブランド米が並んでいます。全国のコメの産地では、ここ数年、おいしさを追求したその地域ならではのブランド米を開発し、発売する動きが相次いでいます。

日本穀物検定協会が毎年行っている「コメの食味ランキング」では、最高の「特A」と評価された銘柄が、この5年間で7割以上増え、46銘柄に上っています。去年は「北海道産ふっくりんこ」や「栃木県産とちぎの星」などが、新たに「特A」に選ばれました。ことしも、岩手県が開発した「銀河のしずく」が発売されたほか、新潟県が開発した「新之助」も試験販売が始まっています。

少子高齢化を背景に、国内のコメの消費量が今後も減少していくことが予想されるなか、全国のコメの産地では、価格が高くてもおいしいブランド米で生き残りを図ろうという動きが広がっているのです。

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引き合い増える業務用米

しかし、コメ価格の上昇が続くなか引き合いが増えているのが、スーパーやコンビニの弁当、それに飲食店などで使われる業務用のコメ。業務用のコメは、家庭でコメを炊く人が減っている一方で、中食や外食の需要を取り組み、年々その市場規模は拡大傾向が続いています。全農の推計によれば、業務用のコメの消費量はおよそ320万トンと全体の4割に上ると見られています。

スーパーや外食チェーンなどの間では、消費者の根強い節約志向に対応しようと、より安い米を求めるニーズも高まり、コメの卸売業者の間でも業務用に、より安いコメを多く確保しようという動きが広がっています。ブランド米とはいかないまでも、味がよく価格を抑えた米をどう確保するかが課題となっているのです。

業務用米で勝負!

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こうした需要に応えようと、宮城県北部の栗原市では業務用米の栽培に取り組む動きが広がっています。栽培されているのは「萌えみのり」という品種です。宮城県で一般的な「ひとめぼれ」に比べて10%から20%ほど多く収穫できます。同じ面積で多く収穫できることからコストを抑えられ、価格は「ひとめぼれ」より10%から15%ほど安く取り引きされています。

なぜ高く売れるブランド米ではなく、あえて安い業務用のコメを栽培するのでしょうか。そこには、栗原市の農協の戦略があります。

栗原市の農協は、東京のコメ卸大手と契約し、栽培した業務用のコメを全量買い取ってもらう契約をしています。買い手が決まっているため、価格が安くても安定した収入が見込めるというのです。農協が契約している東京のコメ卸大手の担当者も「業務用のコメは今後も伸びていく可能性が高く、事業を業務用に特化していきたい」としています。

栗原市の業務用のコメの栽培面積は現在340ヘクタールですが、農協では来年には500ヘクタールに、再来年はさらに倍の1000ヘクタールに増やしていく計画です。コメの栽培農家は「多く収穫すればするほど利益につながるので、これからも業務用のコメにシフトしていきたい」と話していました。

さらに安いコメを開発する動きも

より価格が安いコメへのニーズが高まるなか、研究機関でも新たなコメの開発に力を入れています。宮城県の農業試験場では、開発を目指す品種の柱にブランド米とともに、より多く収穫できて価格を抑えられるコメを据えています。

この試験場ではこれまでも、ブランド米よりも多く収穫できて価格が抑えられ、外食産業やお弁当などで使われる業務用のコメの品種を生み出してきました。今後もその重要性は高まり、産地が広がっていくと見て、寒冷地や日照時間の少ない地域などでも育てられる、さまざまな業務用の品種を開発しようと取り組んでいます。

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宮城県の農業試験場の担当者は「ブランド米も研究しているが、消費者全体で見ればブランドを気にしない人たちも多い。業務用に向いたコメの品種の開発も重要な目標として取り組んでいる」と話していました。

TPPや減反政策の廃止など、コメの農家にとっては大きな時代の転換点にさしかかる中、業務用のコメは生き残りの一手となるのか注目が集まっています。

鈴木慎一
仙台放送局
鈴木 慎一 記者
昭和63年NHK入局
名古屋局 国際部 北京支局 国際放送局 青森局などを経て仙台局
農業・水産業を担当