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カウンターのある牛丼屋的な店に入ったとき、カウンター席の中のどの席に座るのか、それが問題だ。
店がガラガラだった場合、2割ほどの客がいる場合、4割ほどの客がいる場合、それぞれどの席に座るかについての理由は異なる。
今から、与えられた状況において、どの席に座りたくなるのかということを考察してみたい。その中に、どの席に座るのが正解なのかということへのヒントとなるような内容が含まれているかもしれない。カウンター席に関する考察だが、テーブル席の店についても同様に考えられる箇所が多く存在する。
他の客以外の要素について
店の中に客が誰もいないとき、基本的にはどこに座ってもいいのだが、入り口付近の席は避けたい。特に冬場の冷気にさらされることを考えると、入り口付近は避けて、店の中央、あるいは奥のほうに座りたい。
さらに、最も端の席は店員の作業スペースに接していることが多い。その場合の作業スペースは、丼をトレイに載せるスペースだったり、レジのスペースだったりする。あるいはカウンターから客席側へ出る通路だったりする。それゆえ、カウンターの端の席も避けることになる。
そして例えば吉野家の場合、カウンター席の端ではなく、真ん中あたりにレジが置いてあったりするので、店がガラガラなのであれば、そのレジの前の席は避けたい。
カウンター座席選択シミュレーション
カウンター席が10席ある店を想定してみよう。
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- ◇は空席、◆は客が座っている席
- カウンター左が入口、右が厨房
一人目
客以外の要素の考察を鑑みると、まあ中央から奥に座るだろうか。
ど真ん中というのは、心理的にやや居心地が悪いので避けたい。となると7番目から8番目の席になるだろうか。
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二人目
一人目が7に座ったとする。となると、二人目はおそらく3に座るのが定石だろう。
4だと客数に対して7との距離が近すぎる。2に座るのもいいかもしれないが、入り口と近いことがやや気にかかる。
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三人目
この状況で三人目はどこに座るか。ぱっと見、1か5か9か0の四択となる。
- 1は端席であり、レジと入り口に近く、0もまた端席であり、作業スペースに隣接している。
- しかし9は7に対して中1席であり、0に座れば中2席とれる。
端を避けるか、中2席を確保するか。ここは端席と作業スペースとの距離感次第で変わってくる。
ある程度の距離感が確保されているのであれば、中2席を確保できる端席の0を選択し、店員が間近で作業しているような場合は、端席を避け9を選択する。
5に座ると、3の客と7の客とに、同時に中1席の存在感を与えてしまうことになるため、一方にしか与えないという選択肢があるのであれば、5という選択肢は消える。
つまり、このあたりから、様々な要素の比較において席は決定されることになる。客が0人の場合と同様の、端席の回避、そして3人目の客が入ることによって発生する中2席と中1席の心理的な差異。それらを鑑みて席を決定しなければならない。とりあえず0に座ることにしよう。
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四人目
この状態だと次は1か5しかない。
1は入口が近い。しかも隣にレジがあるとすると、そういう煩わしさも出てくる。
5は先程述べたように3と7に対して中1席の緊張感を与えてしまうが、1の冷気と賑わいのリスクと比較すると、5のほうが気が楽であるように思える。
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五人目
続いて1、その次は既に人が座っている席の隣の席である8か9になってしまうだろう。
ただ、冷気や賑わいのリスクを考えて1に座るのがどうしてもためらわれるのであれば、1という中1席の可能性が残っているにもかかわらず、すでに人が座っている席の隣の席(8か9)に座らなければならない。
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あるいは
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こうなると7の人は、「1が空いているのになぜ?」と思うかもしれないし、8か9の二択で8が選ばれたことを残念に思うだろう。
実践編:コの字型カウンターの天丼屋にて
しかしこのシミュレーションはあくまでも私の価値観によって提出されたものであり、実際にこうなることは珍しいように思われる。
事実、先日行った天丼屋ではこんなふうにはならなかった。奥にテーブル席のある店内は、以下のようなカウンター席のレイアウトで、わたしが店に入ったとき、すでに1と2の席に二人連れの客が座っていた。
プライオリティの判断を誤り、中二人の席を選択する
この状況でどこに座るか。まあ6以降ならどこでもいいような気がするのだが、8からCの列の側にはつねに開放された入口があって、風除室の空気がそのまま入り込んでくるため、5~7の列に座ることにした。
- 6に座ろうと思ったが、コの字型の奥の真ん中ということで、何かお誕生日席のような居心地の悪さがあるような予感があったので、やめることにした。
- 7は曲がり角なので、テーブル席に座る多くの人が出入りする際、やや気になる箇所であると思われる。
というわけで5に座ることにした。店内がガラガラの場合、あえて中2席の位置に座る必要はないはずで、いつものわたしなら避けていたはずなのだが、コの字型レイアウトと入口の位置との関連に気を取られ、不覚にも5を選んでしまったのだ。
中1席を通り越して、突然隣の席に男が座る
5に座ってスマホいじったりしていると、突然、わたしの目の前の4の席に男が腰掛けた。
店内を見回すと以下のような状況。
つまり、4の男が来るまでに、8と0とBには客が座っていたのだ。
男がわたしの目の前の席に座った理由
4の男が来る前の座席状況は以下である。
そうなると、次に入ってきた客は、3、4、6、7のいずれかに座るしかない。その男はおそらく横並びになるのを避けたのだろう。つまり、3と6を避けたのだ。
そして4を選んだ。しかし実のところ、角で接するほうが横に接するよりも、その距離感は近い。ともかく男は4に座ったのだ。
突然の出来事に身動きが取れなかったことへの後悔
この場合、5に座っているわたしはどうすればよいのだろうか。
おそらく正解は、「すぐに6に移動する」だったのではないかと今になれば思える。しかしわたしは5に留まった。
そして店員がわたしの元に注文したものを運んできた。このことによってわたしは6に移動するタイミングを失ってしまった。
咄嗟の判断が要求されるタイミングというのは、このようなタイミングのことを言う。日頃から頭がぼんやりしているとこうなってしまう。
4に男が座ったとき、わたしは「ええぇぇ~~」という残念の感情に満たされてしまって、この状況を改善する行動に結びつけることができなかった。
そしてわたしは店を出るまで、男が隣にいるという緊張感よりも、自分が移動できなかったという後悔に苛まれる時間を過ごした。
注文したものが運ばれてきて間もなく、1と2の二人連れが帰り、ついでBの客が帰った。男とわたしは、広い店内で身を寄せ合いながら腰掛けている。
「気」を「行動」に移す「意志」
わたしはもう完全に6に移動する機会を逸し、4の男もまた、まだ注文が来ていないのに、3へ移動する気配がまるでない。
彼もまた3へ移動するタイミングを逃したのではないだろうか。そのタイミングとは1と2の二人連れが席を立ったその時である。
二人連れが席を立ったその瞬間、おそらく「あっ」と思って3に席を移動しようという気にはなったのかもしれないが、この「気」を実際の「行動」に移すためには、ある種の「意志」が必要になってくる。
ぼんやりした頭では、意志は働かない。なぜなら人はいつでも現在の状態に依拠して生きているからだ。意志が働かないとき、人は現在の状況を保つ。
そのようにして、わたしも4番の席の男も、ぼんやりした頭で、行動に失敗し、後悔に苛まれながら海老天丼を食したのである。