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中国が「トランプ新時代」に最も危惧していること
あるベテラン外交筋との一問一答

先週、一週間にわたって北京と上海を訪れた。11月9日に、ドナルド・トランプ候補が次期アメリカ大統領に確定してから、安倍晋三政権の動きは慌ただしいが、中国政府の動きは、ほとんど伝わってこない。

そこで、トランプ新時代の中国がアジアで何を目指し、どのような米中関係、及び日中関係を築いていくつもりなのかを、見定めようとしたのだ。

思えば先週は、安倍首相とトランプ次期アメリカ大統領の「トランプタワー会談」、北方領土問題を巡る安倍首相とプーチン大統領の15回目の日ロ首脳会談、そしてペルーでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会合など、日本にとって重要外交が目白押しだった。中国は、こうした安倍首相の一挙手一投足を注視していた。

以下、北京のあるベテランの外交関係者と私との、トランプ新政権をめぐる一問一答をお伝えしよう。

 

新政権のメリット・デメリット

近藤: まず最初に、今回のアメリカ大統領選の結果を、中国政府はどう捉えているのか?

中国人: 「百年不遇的大機会」(百年に一度の絶好のチャンス)と捉えている。アメリカ人の選択に万歳だ。

近藤: なぜ万歳なのか、具体的に教えてほしい。

中国人: われわれは、「希拉里」(ヒラリー)と「特朗普」(トランプ)の双方が勝利するケースを想定し、それぞれ中国にとってのメリットとデメリットを計算していた。

もし「希拉里」が勝利した場合、中国のメリットは、良くも悪くも彼女の考え、スタイルなどをすでに熟知していることだった。そしてデメリットは、わが国に対する「上から目線」(強硬路線)だ。

「希拉里」が最初に中国を訪問したのは、1995年9月に北京で開いた第4回世界婦人大会の席だった。その時、「希拉里」はアメリカの「第一夫人」(ファースト・レディ)で、われわれは彼女に対し、最高のもてなしをした。

一例を挙げれば、彼女がアメリカ代表として訪中して演説するメンツのために、北京最大の目抜き通り「長安街」に、中華全国婦連ビルを建てたようなものだった。おかげで彼女は後に、「あのときの訪中が、自分の政治家としての原点だった」と述懐している。

その時の「美しい思い出」が遠因となって、「克林頓」(クリントン)大統領夫妻は、1998年6月から7月にかけて、9日間も訪中した。アメリカを代表する企業の経営者ら1200人もの随行者を引き連れて、西安、北京、上海、桂林、香港を回ったのだ。われわれもアメリカを敵に回さないために、中国ビジネスとチャイナ・マネーという「蜜の味」を存分に捧げた。

1998年、江沢民主席とクリントン夫妻 〔PHOTO〕gettyimages

彼女が今回、いわゆる「メール問題」で多額の裏金を受け取っていたという疑惑報道を見ていると、あの頃と変わっていないなという印象だ。彼女はとにかく、カネが大好きな「成金娘」だった。

だが、金の切れ目が縁の切れ目とでも言うべきか、2009年1月にオバマ政権下で国務長官に就くと、世界中からカネ集めができるようになったせいか、とたんに中国に冷たくなった。そして2010年7月、ハノイで開かれたARF(ASEAN地域フォーラム)で、南シナ海の領有権問題に関与していくと宣言したのだ。

以後は、わが国の友好国であるベトナムとミャンマーを引き剥がしていった。

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「希拉里」政権が誕生したら、目指すのは「奥巴馬」(オバマ)政権の継続ではなくて、強化だったろう。日本と組んで、新たな中国包囲網を目指したに違いない。

それに対して、「特朗普」はどうだろう。選挙演説を聞いていると、在日アメリカ軍を撤退させるとか、経済的中国包囲網であるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を大統領に就任した日に破棄するとか、頼もしいことを言ってくれるではないか。

大統領選の影に霞んでしまったが、今回の選挙によって、上下両院を共和党が制したことも大きい。過去の中米関係を振り返ると、共和党政権の時の方が民主党政権の時よりも、おおむね良好だったからだ。

もう一つ、「特朗普」政権が、日本に対して経済的及び軍事的に、これまでの政権とは比較にならないほど厳しい態度に出ることが見込まれることも、中国にとってメリットの一つだ。

だが実際には、いまのところあまりに「特朗普」に対する情報が少ない。行動や政策がまったくの未知数というのが、デメリットだ。

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