田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
まさかのトランプ大統領の誕生。世界はその衝撃の余波の中にいまもいる。日本の株価と為替レートをみても大荒れだった。当確が出る前後に、東京市場がオープンしていたためもあり、株価は1000円近く下落し、また為替レートも大きく円高にふれた。
しかしトランプ氏の経済政策「トランプノミクス」への期待を表したのか、日が変わると一転して株価が1000円以上の大幅反発、為替レートは円安に進み、執筆の時点では1ドル111円台直前、株価は1万8千円台目前にまでにきている。このような資産市場の乱高下は、日本だけの問題ではなく、全世界的にみられた。
日本についていえば、この急速な円安傾向はまさに「恵みの慈雨」といえるかもしれない。なぜなら円安は輸出を伸ばす効果だけではなく、日本企業のバランスシートの改善(ドル建て資産の価値増加、円建て負債の圧縮など)につながり、それはアベノミクス初期(2013年)にみられたように、やがて消費や投資の増加につながるからだ。この意味で、「トランプショック」は現状の日本経済に対して、リフレ(デフレを脱却しての低インフレをもたらす経済安定化)のためのレジーム転換だったといえるだろう。
日本のマスコミは、米国で起きている反トランプデモやヘイトスピーチの「蔓延」とでもいうべき話題を報じている。私見では、SEALDsの活動や国会前デモ、そして「アベ政治を許さない」系といった日本型リベラルの騒動と、それを過剰に煽ったマスコミを目撃してきただけに、このような反トランプ報道には距離を置いて冷静に見たいところだ。米国でも「ヘイトスピーチは蔓延してない」という発言が出ているだけでなく、むしろトランプ支持者が声を出しにくい状況を懸念する論説もある。
トランプ氏が大統領に正式に就任し、その政策の形が見えるまでは、このような不確実性と予断のカオス的状況は継続するものと思われる。
安倍首相はトランプ氏と世界の首脳の中でいち早く会談をした。1時間半に及ぶ会談の具体的な中味はわからないが、報道では日米の同盟関係やTPPの意義を安倍首相が強調したと伝わっている。TPPの行方、そして日米の安全保障がどうなっていくのか、これも今後注視していく必要がある。ただ現状でひとつわかっていることは、トランプノミクスとアベノミクスの相性はとてもいいのではないか、ということだ。