かつてアジア最高の大学の名の座に君臨していた東京大学。しかし昨今の国際調査で1位から陥落し、大きな衝撃が走りました。2016年3月に早稲田大学ビジネススクール(WBS)教授を退任した遠藤功氏(著書に『結論を言おう、日本人にMBAはいらない (角川新書)』 )は、その背景に、日本の大学が戦略的にランキングをあげるという世界の潮流についていけていない、と指摘します。
著者がそのすべてを知り尽くしたビジネススクールでも、各種ランキングで中国や韓国の学校がランクインしているにもかかわらず、そこに日本のビジネススクールは一校も見当たらない……。いつの間に、日本の教育はこんなことになってしまったのか? その謎が、本稿で解き明かされます。
海外トップスクールの「ビジネスモデル」
著書『結論を言おう、日本人にMBAはいらない (角川新書)』のなかで、私は海外トップスクールのMBAと日本のビジネスMBAの違いを詳細に語っている。その一部については前回の記事でも指摘した。それはもはや、同じMBAと呼べないほど異なるが、どうして、そのような違いが生まれるのか。それはもちろん、日本と海外のビジネススクールに圧倒的な違いがあるからだ。そしてこの違いを理解することは、日本の大学が世界水準でみたとき、地盤沈下を起こしているのはどうしてか、という問いを解くことにもつながる。
まず、海外のトップスクールは、ビジネススクールを一つの“ビジネス”として捉え、成功に導くためのビジネスモデルを確立している。
米国などの海外トップスクールは、『フィナンシャル・タイムズ』や『エコノミスト』などのメディアが公表するランキングの順位を上げることに、大きな力を入れている。
2016年度の『フィナンシャル・タイムズ』のランキングによると、過去3年連続で1位だったハーバードを抑え、フランスのINSEADが1位になった。ほかにもロンドン・ビジネススクール(3位)、ケンブリッジ(10位)といった欧州勢がトップ10入りしている。上位100校をみると、半数以上の53校は米国以外の学校である。ランキングの上位に入ることによって、世界中から優秀な受験者を集められる。そして、難関を突破した上昇志向の強い選りすぐりの学生たちに、大きな負荷をかけ、徹底的に競争させる。市場価値の高い優秀な学生こそが、トップスクールにとっては「商品」なのだ。
世界のグローバル企業は、将来の幹部候補生として彼らを採用する。学校にとっては著名なグローバル企業に高い報酬で採用される学生が増えることで、学校のブランド力が高まり、入学したい学生がさらに増える。また、ブランド力が高まることによって、世界中から優秀な教員、研究者を招くことが可能となり、彼らが論文などの研究成果を増やすことで、ランキングが高まっていく。
世界のトップスクールはこうしたビジネスモデルをつくり上げることによって、ブランドを確立させ、確固たる地位を築いているのである。
日本のビジネススクールは、そもそもランキング対象外
一方で、日本のビジネススクールはこの成功モデルを構築することができず、完全に蚊帳の外に置かれている。『フィナンシャル・タイムズ』のランキングは、米国のAACSB(The Association to Advance Collegiate Schools of Business)という国際認証を取得したビジネススクールのなかから選定した156校が対象になっている。日本のほとんどのビジネススクールは国際認証を取得していないので、そもそもランキングの対象外である。
蚊帳の外に置かれている日本に対し、日本以外のアジア勢の躍進はめざましい。中国は香港科技大や中欧国際工商学院(CEIBS:China Europe International Business School)、上海交通大学、復旦大学など7校が、100位以内にランクインしている。アジアの他国でも、インド、オーストラリア各3校、シンガポール2校、韓国1校がランクインしている。
評価項目やその軽重はランキングを行なっているメディアによって異なるが、重要な要素のひとつが、修了生の就職状況である。
『フィナンシャル・タイムズ』のランキングでは、「修了後の年収」が評価基準の40%を占めている(修了三年後年収20%、入学前から修了後の年収伸び率20%)。『エコノミスト』においても、就職と年収が50%を占めている(修了後の就職率・就職先業界の多様性35%、修了後年収15%)。
MBAを取得しても経済的なリターンはほとんど期待できない日本において、たとえ日本のビジネススクールがランキングの対象となっても、ランキングの上位に食い込むことはほとんど不可能と言わざるをえない。
世界のトップスクールは学生を「商品」とみなし、高額な報酬で世界の一流企業に採用されることを「売り」にしている。学生に対する就職サポートも、実に手厚い。その結果、たとえ学費が高くても、修了後に高額な報酬が見込めるので、世界中から優秀で野心溢れる学生が集まるのだ。
しかし、MBAであることが報酬面でほとんど考慮されない日本では、学生が「商品」とはならない。報酬の上昇という経済的リターンが見込めないのに、MBAを取得しようとする奇特な学生がいるのは、日本くらいのものである。
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