USB Power Deliveryの規格について調べてみた
USB Power Deliveryという規格がイマイチよくわからなかったので調べてみました。
目次
はじめに
USBの新しい形状であるType-Cは規格が複雑になっており、その影響で”規格外のケーブル”が存在していることはご存じの方も多いのではないでしょうか。
収束してきたかのように思えた規格外Type-Cケーブル問題ですが、今度はUSB PDの方で悪質な製品が登場してきているようです。
そういった製品を購入してしまわないために、今一度USB Power Deliveryという規格について調べてみました。
USB Power Deliveryとは
USB Power DeliveryとはUSBでの電源供給に関する規格で、最大5A/20V=100Wの給電が可能となっているのが特徴です。
従来のUSB規格を大幅に上回る100Wまで流せるということで、MacBookシリーズなどの電源の規格として採用されています。
USB PDの給電能力について
記事執筆時点でUSB PDはRev 3.0まで策定されており、詳細は以下の通りとなっています。
Rev 2.0 / 3.0 | ||||
5V | 9V | 15V | 20V | |
0~15W |
最大3A
|
なし |
なし
|
なし
|
15~27W |
最大3A
|
|||
27~45W |
最大3A
|
|||
45~60W | 最大3A | |||
60~100W | 最大5A |
所定の電圧で3Aまで出力し、それで足りなくなったら次の電圧に移る、という仕様のようです。
Rev 1.0は?
USB PDには1番最初に策定されたRev 1.0というものも存在しているのですが、実質的には存在しないものとなっています。
というのもRev 1.0が策定されたのは2012年で、Type-Cが策定された2014年よりも前でした。しかしながら2012年の時点で既にType-Cの策定が始まっており、メーカー各社はType-Cの策定完了を待ってからUSB PD対応製品を開発することにしたそうです。(ソース:4Gamer)
そんな事情により、結局USB PD対応製品は2015年のMacBookまで登場しませんでした。そのMacBookですらRev 2.0準拠であるため、実質的にRev 1.0は存在しないものとなっています。
USB PDを利用するには
USB PDを利用する場合、端末・ケーブル・電源(ACアダプタなど)の3つ全てがUSB PDに対応している必要があります。
端末やACアダプタは”USB PD対応”など謳われて販売されているのでわかりやすいのですが、問題はケーブルです。
“3A対応”などと謳われて販売されているC to Cケーブルも多いのですが、同じ3A対応のC to CケーブルでもUSB PDに対応しているものとしていないものがあるので注意する必要があります。
USB PD対応ケーブルについて
USB PD対応かどうか紛らわしいC to Cケーブルですが、さらにUSB PDに対応しているC to Cケーブルの中でもグレードが2種類存在しています。それは“3A対応のケーブル”と、“5A対応のケーブル”です。
ELECOMのケーブルを例にしてみます。まずはUSB3-CCP05NBKというケーブル。HPには以下のように書かれています。
次はUSB3-CC5P05NBKというケーブル。HPにはこのように書かれています。
この2つを比べると、前者は20V/3A、後者は20V/5Aとなっているのがわかるかと思います。
このように同じUSB PD対応ケーブルであっても3A対応のものと5A対応のものがありますので、使用する機器に応じて正しいケーブルを選ぶ必要があります。(面倒だったら5A対応のケーブルを使っておけばOK)
粗悪品が存在している
うまく使えれば便利なUSB PDですが、一部の製品では設計不良により予期せぬ動作を引き起こすようです。
ACアダプタ
一部のACアダプタは30W出力で設計しているにも関わらず「45Wまで出力できます」と端末側へ信号を送る設計になってしまっているようです。(MacBook対応を目標に設計したもののミスっているパターン)
それらはMacBookと組み合わせて使う分には(恐らく)問題ありませんが、MacBook以外の”30W以上を消費する製品”と組み合わせて使用した場合、設計以上の負荷がかかって機器が破損する恐れがあります。
ケーブル
現状ではJ5 createのJUCX03しか確認されていませんので、JUCX03について説明します。
GTrustedによると、JUCX03を使ってMacBookを充電しようとしてもうまくネゴシエーション(認証)されず、USB PDでの充電が行えなかったそうです。
せっかく買っても充電できないのでは意味がありませんので、JUCX03を買うのは避けましょう。
USB PD製品まとめ
粗悪品を意図せず購入してしまわないよう、USB PD対応製品の規格適合・不適合をまとめました。
ACアダプタ
規格適合 | メーカー/ブランド | 製品名/型番 | USB PDでの出力 (最大値) | Amazon.co.jpリンク | メーカー製品ページ | ソース | 備考 |
○ |
Apple
|
29W USB-C電源アダプタ (MJ262J/A) | 14.5V / 2.0A | Apple | Nathan.K氏 | ||
61W USB-C電源アダプタ (MNF72J/A) | 20V / 3.0A | Apple | |||||
87W USB-C電源アダプタ (MNF82J/A) | 20V / 4.3A | Apple | |||||
△
|
Anker
|
PowerPort+ 5 USB-C Power Delivery (ブラック) |
20V / 2.25A
|
Amazon.co.jp | Anker |
Split PDO, 30W対応として売られているが、実際の設計は45W対応
|
|
PowerPort+ 5 USB-C Power Delivery (ホワイト) | Amazon.co.jp | Anker | |||||
△ | dodocool | DA66WUS | 15V / 2A | dodocool | Nathan.K氏 | Split PDO | |
Google
|
18W USB-C 電源アダプター | 9V / 2.0A | |||||
ユニバーサル Type-C 充電器 | 20V / 3.0A | ||||||
LVSUN | LVSUN 45W Type-C急速充電 AC充電器 | 20V / 2.25A | Amazon.co.jp | ||||
Lumsing | 48W 2ポート ACチャージャー | 14.5V / 2.0A | Amazon.co.jp | ||||
✕ |
RAVPower
|
RP-PC017K | Amazon.co.jp | RAVPower | Nathan.K氏 | 30W出力で設計されているが、端末側には45Wまで出力できると伝えている | |
✕ | RP-PC017B | Amazon.co.jp | RAVPower | Nathan.K氏 | 同上 | ||
✕ | RP-PC018 | RAVPower | Nathan.K氏 | 同上 | |||
✕ | Tenswall | 39W USB-C PD チャージャー | Amazon.co.jp | Benson氏 | 30W出力で設計されているが、端末側には45Wまで出力できると伝えている | ||
Tronsmart | W2DT | 15V / 2.0A | Tronsmart |
ケーブル
品質 | メーカー/ブランド | 製品名/型番 | 最大電流値 | データ転送 | 長さ | Amazon.co.jpリンク | メーカー製品ページ | ソース |
○ | Apple | MLL82AM/A | 20V / 5A | USB 2.0 | 2m | Apple | Nathan.K氏 | |
○ |
Apple (Belkin)
|
HKK12ZM/A | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 0.5m | Apple | Nathan.K氏 | |
△ | HKK22ZM/A | 20V / 3A | USB 2.0 | 2m | Apple | Nathan.K氏 | ||
○ |
Belkin
|
USB認証品 F2CU030 | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 1m | Amazon.co.jp | Belkin | |
○ | F2CD081 | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 1m | Amazon.co.jp | Belkin | ||
Cable Matters
|
USB認証品 107002-0.5m | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 0.5m | Amazon.co.jp | Cable Matters | ||
USB認証品 107012 | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 1m | Amazon.co.jp | Cable Matters | |||
USB認証品 107002 | 20V / 3A | USB 3.1 Gen1 | 2m | Amazon.co.jp | Cable Matters | |||
ELECOM
|
USB認証品 USB3-CC5Pシリーズ | 20V / 5A | USB 3.1 Gen2 | 0.5m / 1.0m | Amazon.co.jp | ELECOM | ||
USB認証品 USB3-CCPシリーズ | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 0.5m / 1.0m | Amazon.co.jp | ELECOM | |||
USB認証品 U2C-CC5Pシリーズ | 20V / 5A | USB 2.0 | 0.5~4.0m | Amazon.co.jp | ELECOM | |||
○ |
J5 create
|
USB認証品 JUCX01 | 20V / 5A | USB 3.1 Gen2 | 0.7m | Amazon.co.jp | J5 create | Nathan.K氏 |
✕ | JUCX03J |
20V / 5A
|
USB 3.1 Gen1
|
0.9m
|
Amazon.co.jp | |||
✕ | JUCX03 | Amazon.co.jp | ||||||
○ |
Plugable
|
USB認証品 USBC-C100 | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 1m | Amazon.co.jp | Plugable | Nathan.K氏 |
TBT3-40G50CM | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 0.5m | Amazon.co.jp | Plugable | |||
TBT3-20G1M | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 1m | Amazon.co.jp | Plugable | |||
TBT3-20G2M | 20V / 3A | USB 3.1 Gen1 | 2m | Amazon.co.jp | Plugable | |||
StarTech
|
USB認証品 USB31CC1M | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 1m | Amazon.co.jp | StarTech | ||
○ | TBLT34MM50CM | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 0.5m | Amazon.co.jp | StarTech | Nathan.K氏 | |
TBLT3MM1M | 20V / 3A | USB 3.1 Gen2 | 1m | Amazon.co.jp | StarTech | |||
TBLT3MM2M | 20V / 3A | USB 3.1 Gen1 | 2m | Amazon.co.jp | StarTech |
Apple製USB PD対応ケーブルについて
MacBook (2015)に同梱されていたUSB PD対応ケーブルは設計上の欠陥により、Appleによる自主交換が発表されています。
欠陥品は型番が「MJWT2AM/A」で正方形の箱に入っており、改善品は型番が「MLL82AM/A」で長方形の箱に変わっています。Appleストア以外の小売店では未だに欠陥品の在庫が残っている可能性もありますので、購入する際は注意してください。
Split PDOとは
AnkerやdodocoolのACアダプタはSplit PDOであると報告されています。(PDO=Power Delivery Object)
Split PDOというのは「充電開始直後としばらく経過した後で、端末に伝わっているUSB PDのプロファイルが異なっている状態」のことらしいです。
例えばAnkerのACアダプタは、充電開始直後は5V/3A、9V/3A、15V/3Aの3つの出力系を端末側へ伝達しているものの、しばらくすると5V/3A、9V/3A、15V/3A、20V/2.25Aの4つに増えているそうです。(ソース:GTrusted)
このSplit PDOは安全性には問題ないものの、USB PDの規格からは外れた挙動なので、相性問題などが発生する可能性があるそうです。
20V/1.5A出力の謎
※個人の勝手な考察です。
一部では20V/1.5A出力対応と称して販売されている製品がありますが、私は「20V/1.5A出力って本当に存在するの?」と疑問に思っています。
上にも載せましたが、USB PDの出力は以下の通りです。
Rev 2.0 / 3.0 | ||||
5V | 9V | 15V | 20V | |
0~15W |
最大3A
|
なし |
なし
|
なし
|
15~27W |
最大3A
|
|||
27~45W |
最大3A
|
|||
45~60W | 最大3A | |||
60~100W | 最大5A |
また、USB PDの仕様書であるUSB Power Delivery Specification Rev2.0 V1.2には以下のグラフが掲載されています。
この表とグラフによると、出力が20Vに移行するのは45W以上の場合のみです。つまり、20V出力の時は最低でも電流値が2.25Aは超えている(はずである)という事になります。
しかしながら、市場にはいくつか20V/1.5A出力と称して販売されている製品が存在していますので、それらの製品について調べました。
Anker PowerPort+ 5 USB-C Power Deliveryの場合
Nathan.K氏やGTrustedによると、Anker PowerPort+ 5 USB-C Power Deliveryは実際には20V/2.25A=45WまでのUSB PD出力に対応しているようです。
20V/1.5A出力対応と称しつつ、実際にはオーバースペックで設計されているパターンです。
dodocool DA66WUSの場合
Nathan.K氏やGTrustedによると、dodocool DA66WUSは20V/1.5A=30Wのプロファイルを端末側へ送っているようです。
GTrustedでは「XPS 15を充電できなかった」と書いてあるものの、かと思えばNathan氏の投稿内に「Benson氏がDell laptopとChromebook Pixelで20Vでの充電を確認した」と書いてあったり、どれが正しいのかわかりませんでした。
RAVPower RP-PC017の場合
Nathan.K氏によると、RAVPower RP-PC017は30W対応で設計されているにも関わらず、端末側には「45W(20V/2.25A)まで出力できる」と伝達されているようです。
30W以上を要求する端末を接続した場合、過負荷が掛かって機器の破損を招く恐れがあります。論外です。
結論
正直良くわかりませんでした。が、Appleの29W ACアダプタの出力が5V/2.4A or 14.5V/2Aであることも考慮すると、やはり20V/1.5Aという出力は存在しないように思えます。
所感
どちらもUSB PD対応であるはずのDELL XPS 12とApple 29W ACアダプタを組み合わせても充電できなかったりと、「まだまだ実用レベルの互換性はないな」という印象です。
また、サードパーティ製では設計ミスな製品がチラホラあるようなので、早いところUSB IFの認証がスタートしてほしいです。
関連記事
参考
・USB IF – USB Type-C Specification Rev 1.2
http://www.usb.org/developers/docs/
・USB IF – USB Power Delivery Specification Rev. 2.0, Version 1.2
http://www.usb.org/developers/docs/
・Google+ – Nathan.K
https://plus.google.com/102612254593917101378
・Google+ – Benson Leung
https://plus.google.com/+BensonLeung
・GTrusted
http://gtrusted.com/