2016-11-21
「広島の年」だった今年、あらためて野球ファン漫画「球場ラヴァーズ」(石田敦子)を読む
オバマ来訪。
シリーズ優勝。
そして締めくくるかのように
「この世界の片隅で」公開。
2016年は、日本史の中で「広島の年」として刻まれるだろう(さすがに大げさだ)。
球場ラヴァーズ 私が野球に行く理由 コミック 全6巻完結セット (ヤングキングコミックス)
- 作者: 石田敦子
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2012/10/09
- メディア: コミック
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球場ラヴァーズ ―私が野球に行く理由― (1) (ヤングキングコミックス)
- 作者: 石田敦子
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2014/08/29
- メディア: Kindle版
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自分は昨年、「ファン漫画」というジャンルの歴史を自分なりに整理してみたが、
「ファン漫画」の歴史を年表化してたどってみる【創作系譜論】 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20151004/p2
2010年に初単行本が出た作品なので、年表に照らし合わせてもジャンル全体の初期作品というわけではないが、しかしここまで前面に”ファン話”を打ち出し、専門誌ではない一般誌で連載し続けて6巻を出し、その後も主人公などを変えつつシリーズとしては続くのだから、ジャンルの中での番付をつけるなら横綱、大関級と言っていいでしょう。
そして待てば海路の日和あり、で、ついに今年広島がV(笑)「こいコイ!」から「フルカウント」にシリーズも変わっていった。
こいコイ! ~球場ラヴァーズ~ (1) (ヤングキングコミックス)
- 作者: 石田敦子
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2014/09/30
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こいコイ! ?球場ラヴァーズ? 2巻 (ヤングキングコミックス)
- 作者: 石田敦子
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2015/06/30
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球場ラヴァーズ3―2(フルカウント) (コミック(YKコミックス))
- 作者: 石田敦子
- 出版社/メーカー: 少年画報社
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とは言っても自分、そんなに野球にも広島にも興味はないけえ。広島には、大学時代に一度行ったことがあるだけじゃけえ。
この作品も、「ドリフターズ」連載開始で掲載誌ヤングキングアワーズを読み始めた時、一緒にちょっと目を通してからだったので、最初の設定とかは今回初めて知ったのでしした。
だからそれほど深くは語れないので、
名場面をそのまま、紹介していきたい、けっこう多めに
それでは行ってみよう。
話は、野球にまったく知識も興味もないある女子高校生が、偶然球場に行くことから始まる(理由は後述)。
そこで彼女に、少し年上の「球場仲間」2人ができる。
「19年(※当時)優勝してないのってどうして?」
「こっちが聞きたいわ!」
そんな彼女が、なぜ球場に行ったのか。実は彼女は、極めて悪質ないじめと恐喝を、とあるきっかけでクラスの女子仲間から受けており、お金をそのグループに払うために、援助交際をしなければ…とまで精神的に追い詰められていた。
しかし最初に声をかけた相手の男は、こんなことをしないようにと励ましてくれた。
なのに、いっぱいいっぱいだった彼女は、彼からお金の入った封筒を盗んで逃げてしまう。その封筒には、広島カープのオープン戦のチケットがあった…というわけ。
いじめには「学校の価値観とは別の場所がどこかにある」という感覚や、そこでの仲間を持って貰えれば、それだけでもひとつの武器になる…とは、ガンプラの世界を知っていじめに立ち向かえるようになる今井敏氏の「慎司」にもちょっと繋がる(おとぎばなしかどうかは今は問わぬ)けど、ともあれ、主人公の彼女もそういう「球場友達」や、そして野球の世界に生きる選手たちの生き方を見て勇気をもらい、結果的にはいじめに対決することができた。
もちろん彼女に勇気をくれた球場仲間たちだって、
見るきっかけはやっぱり軽薄だったり、また社会では仕事や人間関係でしんどさを抱えたりしている。
第1話で、主人公は尋ねる。
「他人のこと応援して楽しいですか 応援してどうなるわけじゃないのに 自分に関係ない人がやってる野球に必死になって」
そのこたえは、こうだ。
「人のことだから応援するのよ」「自分のことだったら 自分が頑張るだけじゃない」
このへんに人間ドラマなら細野不二彦が先んじて2000年に書いた野球ファン漫画「ビールとメガホン カクテルライトストーリーズ」でも描かれている。
- 作者: 細野不二彦
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さすが最高実力者だからそれはそれで極上だが、そこは一話完結の短編集。
キャラクター3人でじっくりと描き続けた「球場ラヴァーズ」は、また違った面白みを出すことに成功した。
あ、思い出したけど、ビールとメガホンには広島ファンと巨人ファンを対比させて広島を批判する場面があった(笑)
「野球人逸話集」「言行録」としての同作品
とはいえ、そのドラマもなかなかに興味深いが、やはりこの作品のレベルをさらに一段あげているのが、作者がチョイスして、ドラマに絡めるかたちで紹介する、球団や選手のエピソードだ。
連続して、見てもらおう。作者はこれを「見開き」で語るのがうまく、おかげで一枚の画像できり良く紹介できる。
私もほんとに野球には詳しくないんだけど、上に出てくる逸話や人物は、おぼろげな輪郭は知っている。
だからハビーな野球ファンにはどれも同じみな「定番エピソード」なのだろう。プロレス・格闘技ファン的に言えば前田vsアンドレとか、力道山がかわず掛けでテーズのバックドロップを防いだとか、キンシャサの奇跡や大山の牛殺しの逸話のようなものだ。
この話は、別の作者が長編物語にしてるものな。
- 作者: 中沢啓治
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- メディア: 単行本
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さらには見開き3Pを使った「衣笠のフルスイング」物語まで。このへんまでも紹介するのもちょっとおおくてヤバイが、それでもだ
こういう逸話集は、その面白さが外由来のものといっちゃーそうなので、こういうのを紹介する漫画というのは本道から外れるとあまり評価しない漫画ファンもいるときくが、やっぱりどんな感動秘話があっても、それをどういう語り口で語るか、は腕次第。
「BJ創作秘話」や「プロレススーパースター列伝」「栄光なき天才たち」のように完全な”再現ドラマ”でなく、詳しい野球ファンが初心者ファンに詳しく解説するという形で、絵もあまり、あえて具体的でないようなぼかした描き方をして(肖像権の問題?)、そして数ページで語り切ってしまうこの手法は、ひとつのすぐれたチョイスだと思いました。
ちょっと似ているのが、蛇蔵氏の「決してマネしないでください」の科学者逸話集だと思う。
そして、こういう形で、いろんなジャンルの「逸話集ダイジェスト」を「ファン漫画」形式で描くというジャンル、思えばすでに「最狂 超プロレスファン烈伝」に萌芽があったとはいえ、一周回ってほかのジャンルでもまだまだやり得るポテンシャルがあると思います。こんなスタイルの漫画が、たとえばグルメ漫画なみに一般化し、他の世界でも語られてほしいものだ。
(了)
kitajun
2016/11/21 16:51
カレリン戦を泣きながら観た前田ファンとしては、わかってはいてもこうやってファクトが積み重ねられていくとダメージを受けますね。堀辺師範登場で多少相殺されてしまいましたが。
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