欧州議会は今週、トルコの欧州連合(EU)加盟交渉の中断について採決する。交渉は10年ほど前に鳴り物入りで始まったが、長期にわたって行き詰まっている。社会主義系の議員がトルコ加盟への支持を撤回しつつあり、交渉停止は可決される公算が大きい。採決は拘束力を持たないが、これはEUと問題を抱えた大国の関係の転換点になりそうだ。
だが欧州はなお、イスラム教徒が多数を占める隣国であり西洋の東、東洋の西にあるトルコに関与しなければならない。8年ほど前までEU加盟への展望は、トルコの完全な民主主義と近代経済への移行という大仕事を支える懸け橋となっていた。5年前でさえ、トルコはイスラムへの嫌悪に行く手を遮られつつも、混乱の中にあるアラブ世界にイスラムと民主主義の融合の可能性を示す実例であると見なされていた。それが今、すべて遠い過去のように思える。
2013年以降、当初は首相だったエルドアン大統領がじわじわと強めてきた独裁主義だけでも、トルコはEU加盟の資格を満たさない。
軍の一部が7月に起こした暴力的なクーデター未遂事件に関して、トルコは首謀者らを一掃し、政府がその黒幕であるとする米国在住のイスラム指導者、ギュレン師の信奉者による国家機関への浸透を断つ権利がある。だが、エルドアン氏はすでに独裁への道を大きく進み、批判勢力を黙らせ投獄している。しかも、エルドアン氏とギュレン派は激しく対立するが元は盟友だった。
エルドアン氏は現在、非常事態宣言の下で政令による統治を行っている。おそらく、議会制からロシアのプーチン流の大統領制への移行を果たすまで現状を維持するのだろう。クーデター未遂後の大粛清に続き、エルドアン氏とその新興イスラム政権は自らの目的を遂げるために法の支配を曲げている。わずかに残っていた独立系メディアを閉鎖させ、大学を乗っ取り、クルド系政党の国民民主主義党を弾圧している。エルドアン氏は、切望する大統領制移行を巡る国民投票の実施が来春に見込まれるのを見据え、支配圏が現在のシリアとイラクの一部にまで広がっていたオスマン帝国時代を国民に思い起こさせ、超国家主義者におもねっている。
■NATO同盟国も不安にさせるトルコ
エルドアン氏がEUを激しく非難する一方で、トルコ政府は北大西洋条約機構(NATO)の同盟国も不安にさせている。すでにNATO各国は、7月のクーデター未遂でトルコ軍の多数の将官がイスラムカルトの信奉者であったことを知り、当惑していた。トルコの旧来の欧米同盟国はすべて、エルドアン政権のトルコは同盟国なのかと疑問に思っている。
正念場は早々に訪れるかもしれない。トルコ政府が適用範囲の広すぎる反テロ法の改正に応じようとしないことで、欧州議会と多くのEU加盟国がトルコ国民のビザなし渡航に同意しない可能性がある。EUはトルコが北へ押し寄せるシリア難民を受け入れるのと引き換えにビザ免除を認める合意を交わしている。
EUは、トルコが行わなければならない法改正に関して譲歩すれば信頼性を失う。難民の流れを食い止めている最大の要因については議論の余地がある。トルコの協力か、それとも欧州北西部へ向かうバルカンルートの部分的閉鎖なのか。だが、ビザなし渡航を認めるための72の条件に議論の余地はない。
エルドアン氏は来年2回の国民投票を行う恐れがある。2つ目は、EU加盟候補国という地位から離脱することを求める国民投票だ。だが、トルコの脆弱な経済はEUへの依存度と一体性が高く、EUとの関税同盟の拡大と更新について協議を進めるべき状況にある。欧州は現在のトルコ指導層に対する影響力をほぼ全て失ったが、まだトルコ国民の大多数に対する影響力は持っている。それは今後のために保持しておくに値する。
(2016年11月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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