『週刊プレイボーイ』で短期集中連載中、“現代の魔法使い”落合陽一の「未来教室」。最先端の異才が集う最強講義を独占公開!
今回のゲストは、医師兼サイエンスCGクリエイターという珍しい肩書を持つ瀬尾拡史(せお・ひろふみ)。中学・高校時代からNHK『驚異の小宇宙 人体』シリーズの影響で「人体とCG」に興味を持ち、東京大学医学部へ進学。
CGを使って医療技術の発展に貢献するという目標の下、在学中にはデジタルハリウッドとのダブルスクールでCG制作を学んだ。
最近では木村カエラの楽曲『BOX』のMV(ミュージックビデオ)制作に参加するなど活動の幅を広げているが、CGクリエイターとしてのデビューも劇的だった。東大医学部在学中の2007年9月、裁判員制度の導入に備え、司法解剖の鑑定書をもとにしたCGを制作し、最高検察庁に提出したことがきっかけだった。
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瀬尾 例えば、殺人事件の被害者の方にどんな傷がどれくらいあるか。一般人から選ばれた裁判員の方たちが、医学用語だらけの鑑定書を見てそれがわかるかと言ったら、絶対わからないわけです。
でも、CGにすると、臓器を半透明にできたりとか、実際には血管とか神経とかがいっぱいあるんですが、それを全部消したりできる。ちゃんとした医学の知識がある人がCGをつくれば、一般の方にもわかりやすく、それでいて妥当性も担保されたものになるんですね。
それを最高検察庁の検討会で発表したら、3週間後にいきなりNHKで放送されて注目されてしまいました。
鑑定書には文字で以下のように書かれる。1.右胸鎖乳突筋外側を刃の面を筋肉に沿う方向に向けて浅く切傷2.創洞長7cm程度以下3.右外頸静脈を切断4.右胸鎖乳突筋表層をほぼ筋の走行(斜め前下方)に沿い貫通……。上のようなCGによる補助説明がなければ、シロウトの裁判員にはイメージがわかない。(C)瀬尾拡史
2年後に裁判員制度が始まると、その第一号の殺人事件で東大の先生が司法解剖を担当することになり、僕がCGをつくりました。プレッシャーはものすごかったです。自分のつくるCGが被告人の人生を左右しかねないわけですから。結果的にはこの仕事が評価されて、東大総長賞をいただきました。
ただ、このとき唯一残念だったことは、僕たちの意図が必ずしも報道で正しく伝わらなかったことです。「CGなんかで済ませないで、ちゃんと現実(写真や鑑定書といった従来型の証拠)を直視しろ」という意見も当然ありました。
僕たちはCGですべてを代用しようなんて思っていないんです。専門外の方に、まず最初にどこにどのような傷があるか理解するために、道標としてCGを使ってもらえればそれでいいんです。その後で鑑定書の写真もしっかり見ていただければ、ね。その辺が正しく伝わらなかったのは残念でした。
さて、その同じ年に、以前から憧れていたアメリカのジョンズ・ホプキンス大学に留学してCGと医療がつながる最先端の現場を見てきました。それでわかったのは、医師免許を持つCGクリエイターはアメリカにもほとんどいない、ということです。向こうのプロは、医者から言われたことはすごくきれいに画(CG)にできるけど、今の医療現場で必要とされていることが肌感覚でわかるわけではないんです。
そんな発見があったので、医者として自分で働けば肌感覚でニーズがわかるだろうし、横のつながりもできるだろうと思って、卒業後は東大病院で研修医として働きました。
医師としての感覚がCG制作にどう生かされるかというと、例えば一昨年、理化学研究所からの依頼で「UT‐Heart」という心臓シミュレーションの可視化映像をつくりました。この作品で一番思い入れを持っているのは、心臓の右心系と左心系を青と赤で色分けし、離して見せてからふたつを組み合わせるというやり方です。