「再開が望ましい」は3割
接種後に広範な疼痛や運動障害などが報告され、「積極的な接種勧奨の差し控え」措置がとられている子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)。2013年6月の差し控え決定から間もなく3年が経過しようとしています。そこで今年2月にMedPeer会員に調査したところ、「安全性が確認されるまで再開は待った方がよい」との回答が4割、「再開が望ましい」が3割となりました。診療科別では、産婦人科医の6割、小児科医の5割が「再開が望ましい」と回答しました。
産婦人科医では「再開」が多数、小児科医は?
調査は会員からの投稿をもとに2月3日から9日まで、MedPeerサイト上で行いました。3819件の回答が寄せられました。
結果は、「安全性が確認されるまで再開は待った方がよい」が42.6%で、「再開が望ましい」が31.0%、分からないが20.2%などとなりました(図1)。この傾向は、勤務医(n=3128)と開業医(n=691)で大きな差はありませんでした(図2、3)。
一方、産婦人科(n=133)に限って解析すると、「再開が望ましい」が66.2%となり、およそ3分の2が再開を望む結果となりました(図4)。「待った方がよい」は24.8%、「再開すべきではない」は1.5%でした。
小児科・小児外科(n=232)では、49.1%が「再開が望ましい」と回答しました。「待った方がよい」は31.9%、「再開すべきではない」は3.4%で、「分からない」が12.9%ありました(図5)。
日本だけが子宮頸がん高リスクに
「再開」を選んだ医師の根拠は次のコメントに代表されます。
- 毎年2500人以上の女性が子宮頸がんで亡くなっているのに予防ワクチンを打たないのは理解できません。子宮頸がんは子宮体がんより若い人に多いのも問題で、未婚者や、幼い子どもがいる人たちが大勢亡くなっているのです。(勤務医、小児科)
- このまま行くと、日本人女性だけが子宮頸がんのハイリスクグループになってしまう。(開業医、産婦人科)
- WHOからも早期再開を勧奨されている。(勤務医、小児科)
- 「安全性が確認されるまで」という(回答の)表現自体が、すでに出ているデータを無視している。リスク/ベネフィットは確立していると言ってよい。(開業医、神経内科)
- ワクチン自体に起因しない反応を「副反応」と捉えてしまうことが大きな問題。さらに、ワクチン自体に起因する副反応があっても、ベネフィットがそれを上回っていれば、社会全体としてはワクチンを接種すべきです。(勤務医、その他)
副作用対策を確認してから
一方、「再開は待った方がよい」を選んだ医師からは次のような意見が寄せられました。
- 多くはないとはいえ、副作用と思われる症状で、日常生活、社会生活が困難になっている患者が存在するので、積極的に接種すべきではない。子宮頸がんは定期的に婦人科で検診を受けていれば早期発見・縮小手術が可能なので、現状では、それを優先すべきだと思う。(勤務医、一般外科)
- 麻疹、風疹のような急性感染症のワクチンと、数年後の発がん予防のためのワクチンとでは、かなり意味合いが違う。(勤務医、病理)
- 副作用、副反応がどの程度のものでどのくらいの頻度なのか、出現した際にはどのような治療法や救済方法があるのか、きちんと確認できるまではすべきではないと思います。(勤務医、小児科)
- 再開後に同様のことが生じれば、(それ以降)再開不能になる恐れがある。(勤務医、産婦人科)
- 新しいワクチンを作り直すことは、考えられないのか。(勤務医、救急医療科)
「親としては安全性を望む」
そして、5人に1人が「分からない」と答えました。
- テレビで見た接種者の神経障害は重大なものがある。どうしていいのか全く分からない。(勤務医、一般内科)
- 医師としては、再開が望ましいと考えるが、適応年齢の娘をもつ親としては、もっと安全性を確立してほしいと思います。(勤務医、一般内科)
エビデンスと社会との折り合いは?
コメントを通覧すると、「再開すべきでしょうが、社会の容認がまだ難しいでしょう」(勤務医、小児科)との書き込みがありました。
確かに、エビデンスベースではワクチンの必要性は確立していると言えるでしょう。ただ今回は、思春期女子への大規模な接種、筋注という投与経路、副反応とされる事例が映像で紹介されたこと、対照的に予防効果は目に見えにくいことなどの要素が絡み合い、既存のエビデンスだけでは解決できない状況にあることが伺えます。