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【経済】

<トランプの米国>格差 軌道修正を 国際ジャーナリスト・堤未果さん

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 ドナルド・トランプ氏が次期米国大統領に決まったことに世界中の人びとは驚いた。

 「日本国内でもショックを受けた人が多かった。日米ともにクリントン氏に好意的な報道が多かったからだ。米国の国民が何に怒りを感じているのかは、ほとんど伝わらなかった」

 怒りの根源は。

 「もし、トランプ氏が八年前にオバマ大統領と争っていたら勝てなかった。オバマ氏は上院議員も経験してベテラン、スピーチも感動的だった。国民は格差の拡大で疲弊した社会を変えてくれると期待していたのは確かだ。でも、できなかった。ウォール街や富裕層など豊かさを独占する国民のわずか1%の層から金をもらって取り込まれたからだ。『チェンジ』は幻想で、三十年も続く金権政治は変わらなかった」

 「チェンジへの失望が、トランプ氏を押し上げた。きれいごとを言わない姿が自分たちに近いと。大統領選挙の民主党の候補者選びではサンダース氏も支持を集めたが、二人とも業界からお金をもらっていない。党が違うのに、サンダース支持者がトランプ氏に票を入れた」

 そんなに格差を感じる層が広がっているのですか。

 「親が大卒なのに、国民の三分の一は経済的理由で大学に通えない。お金もないから、十九〜二十四歳の二人に一人は親と同居している。将来不安から高卒以下の中年白人男性の自殺も急増した。トランプ氏は改革に成功するかは分からないが、失敗しても、格差縮小を求める大きなうねりはとまらない。それだけ格差拡大は限界だ」

 『トランプ大統領』は日本にとって吉と出るのでしょうか。

 「環太平洋連携協定(TPP)をやめると言っているが、日本はクリントン氏が勝つという前提で急いでやってきた。もう一回、ゆっくり議論する時間ができた」

 「米軍駐留経費では撤退をちらつかせながら、日本の負担を天井に上げることを求める可能性がある。日本では『それはできない』として、安全保障の議論が急激に進む可能性がある。戦後七十一年にして、米国の考え抜きで自分たちの足で立つチャンスだ」

 日本も格差が広がっています。

 「大統領選では、民衆の側から『チェンジ』を起こした。まだ日本もこの変化に気づいていない人が多い。日本もこの変化の根源に目を向ければ、格差拡大の軌道修正ができることになる」 (聞き手・桐山純平)

<つつみ・みか> 東京都出身。45歳。ニューヨーク市立大学大学院で国際関係論学科修士号を取得。国連、野村証券などを経て国際ジャーナリストに。日米を往復し貧困問題を取材する。著書の「沈みゆく大国アメリカ」(2部作)は計25万部を突破している。

 

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