最悪の事態に至る前に、なぜ手を打てなかったのか。悲劇を繰り返さないために、関係当局は徹底した検証が必要だ。

 大阪府南部の山中で、3年前から行方不明の男児(4)とみられる遺体がみつかった。父親は「死んだのは私の暴力が原因」と供述した。府警は父親を傷害致死、母親も保護責任者遺棄致死容疑で逮捕した。

 男児は12年4月、両親が詐欺容疑で逮捕された際に児童相談所に保護され、翌年末に親元へ戻っていた。以来、所在が分からなくなっていた。

 男児の消息を知る手がかりはあったのに、守れなかった自治体の責任は大きい。

 一家が暮らしていた大阪府松原市は、昨年2月、男児の妹(2)がやけどを負ったことを、医師の通告で知った。市は「育児放棄の疑いがある」として複数回、家庭訪問していた。ところが男児については直接会って確認はしなかった。

 昨年夏には、3歳児健診の案内を市地域保健課が通知した。両親は「日程を変更したい」と6回にわたって延期してきた。結局、受診することなく、12月末に堺市へ転居した。

 健診の未受診は虐待の兆候でもある。大阪府の指針では、保健師らが子どもに会って確認するよう求めている。市は「親から延期の連絡があったので疑わなかった」というが、認識が甘かったと言わざるを得ない。

 自治体と児童相談所の連携も不十分だった。

 両親は13年夏、おいにあたる男児の死体遺棄容疑で、書類送検されていた。公訴時効で不起訴になったが、「遺体は河川敷に埋めた」との供述もあった。おいの行方はいまも不明だ。

 この事件のことを児相は松原市に伝えていなかった。子どもの命にかかわる情報で、注意を促すべきではなかったか。

 大阪府は児相や市の対応について、近く検証を始めるという。連携不足の背景や警察との情報共有のあり方など、課題をあぶり出す必要がある。

 保護すべきだったが、踏み切れなかった。児童虐待ではしばしばそんな話を聞く。様々な事情が絡み、結果論で安易に語れぬ面はある。だが子どもの命を守るのは大人の責任だ。個々の事件を大切な教訓とし、今後に生かさねばならない。

 厚生労働省によると、住民票はあるのに乳幼児健診を受けていないなど、居住実態が不明な18歳未満の子が、7月現在で少なくとも25人いるという。

 体制に不備がないか、各自治体はいま一度点検してほしい。