安倍首相とロシアのプーチン大統領の首脳会談が、訪問先のペルーで開かれた。

 北方領土問題を含む平和条約交渉は進展するのか。注目される12月15、16日のプーチン氏来日を前に、両首脳が直接顔をあわせる最後の機会だ。

 経済協力をてこに北方領土の返還を強く望む日本と、領土問題より経済協力を優先させるロシア――。鮮明になったのは、そんなすれ違いだった。

 戦後70年を過ぎ、なお実現しない日ロ間の平和条約。日本の政治指導者として、その締結をめざす姿勢は理解できる。

 同時に、踏みはずしてはならない原則がある。「法の支配」という普遍の価値観を共有する米欧との協調と両立させねばならないということである。

 世界の目下の大きな懸念は、新大統領にトランプ氏を選んだ米国が、国際秩序を主導する立場にとどまるのかどうかだ。

 ロシアはクリミア併合で領土をめぐる「力による現状変更」に踏み込んだ。これに対し、米欧や日本は経済制裁を科し、国際秩序への復帰を促してきた。

 ところが、トランプ氏は大統領選で、米国の利益第一を公言しつつ、プーチン氏を「米国の指導者よりはるかに賢い」と持ち上げた。

 そんななか、日本がいま、優先すべき役割は明らかだ。

 米国とロシアの関係修復は望ましい。だがそれが、米国自身が「法の支配」を守る枠組みから脱落することになってはならない。トランプ氏や周辺に繰り返し、そう説くことだ。

 日本自身が「法の支配」を軽んじるような振る舞いを避けるべきなのは当然だろう。

 首脳会談では、首相が5月にプーチン氏に示した「8項目の経済協力」の具体化に向けた作業計画が説明された。制裁などで経済が低迷するロシアにとって、北方領土などを舞台とする経済協力への期待は高い。

 米国や欧州連合(EU)はロシアの大手銀行などへの融資を禁じている。だが日本はそこまで厳しくしていないため、政府系金融機関の国際協力銀行が、事業に加わるロシアの銀行への融資を検討している。

 北方領土問題は重要だ。ただその進展を急ぐあまり、経済制裁の足並みを乱すような動きと見られてはならない。

 どんな局面であれ、日本は国際法を順守し、民主主義の価値観を守る立場にたつべきだ。

 それが国際社会への責任であり、北方領土をめぐる日本の主張の正当性を強め、説得力をもたせることになる。