「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」いわゆる「IR法案(カジノ法案)」の審議が(というか審議が見送られて)話題になるたびに、定期的に話題になって何度も何度も説明している内容なので、ブログ記事にしておきます。
いわゆるIR法案(カジノ法案)は日本におけるカジノを合法化・解禁するものですが、ポーカーの合法化には全く関係ありません。
たとえカジノが合法化されたとしても、ポーカーが合法化されるわけではありません。
前提
日本は自由主義国家ですので、法律で禁止されていたり、他人の法律上の権利を侵害しない限り、何をしても法的には問題ありません。
刑法の禁止規定
カジノを経営したり、お金をかけてポーカーをすることは、刑法第185条及び第186条で禁止されています。
(賭博)
第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第186条 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
具体的には、お金を賭ける客側は185条及び第186条第1項の賭博・常習賭博罪、賭博をする場を提供するカジノ・ポーカールーム側は第186条第2項の賭博開帳図利罪が適用されます。
ポーカールーム側が場代(rake)を取っていなくても、客同士でお金を賭けてポーカーをやっていた場合は、少なくとも客には賭博罪が適用されます。
ポーカーは運のみでお金を賭けるギャンブル(いわゆる偶然性のゲーム(game of chance))ではなく、技能で差が出る知的ゲーム(スキルゲーム)なので、お金を賭けても賭博には当たらないのではないか、という意見もたまに見かけますが、日本では関係ありません。
国によってはスキルゲームが適用除外となる国もありますが、少なくとも日本では、完全情報ゲームで運が全く左右しないと思われる囲碁将棋でお金を賭けても賭博に該当するという判決があるので、賭けポーカーは当然のごとく賭博に該当します。マインドスポーツとして認められてもオリンピック競技になっても関係ありません。
特例措置
刑法で禁止をされている賭博を合法的に行うには、①刑法第35条に基づき特別法を作って例外措置を設けるか、②刑法を改正して賭博罪の規定を削除等するしかありません。
刑法を改正して賭博を全面解禁するのはあり得ませんので、基本的には特別法を制定して違法性を阻却するのが主流です。
(正当行為)
第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
具体例としては、競馬法、自転車競技法(競輪)、モーターボート競争法(競艇)のようなものから、金融商品取引法(FX等)、当せん金付証票法(宝くじ)、スポーツ振興投票の実施等に関する法律(toto)、不当景品類及び不当表示防止法(懸賞金)など、賭博行為を合法化する法律は多岐に渡ります。
現金以外を賭ける場合でも、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(パチンコ、射的、輪投げ等)のような特別法が必要となります。
競馬法
第1条 日本中央競馬会又は都道府県は、この法律により、競馬を行なうことができる。
(勝馬投票券)
第6条 日本中央競馬会は、券面金額十円の勝馬投票券を券面金額で発売することができる。
(払戻金)
第8条 日本中央競馬会は、勝馬投票法の種類ごとに、勝馬投票の的中者に対し、その競走についての勝馬投票券の売得金(・・・)の額に百分の七十以上農林水産大臣が定める率以下の範囲内で日本中央競馬会が定める率を乗じて得た額に相当する金額(・・・)を、当該勝馬に対する各勝馬投票券に按分して払戻金として交付する。
そこで、賭博開帳図利に該当するカジノ業を解禁する法律として、いわゆるIR法案・カジノ法案の制定が検討されているわけですが、ここで合法化を目指している対象にポーカー(ポーカールームの経営)が当然の如く入るのかどうかが問題となります。
カジノ法案の法的構成
IR法案に基づく実施法(カジノ事業法)の詳細は明らかになっていませんが、ここで合法化を目指す行為は、一義的には、「①カジノ事業者がカジノを作って、②そこにお客さんを呼んで、③お客さんとカジノがブラックジャック、ルーレット、バカラ等のいわゆるカジノゲームによる賭博をすること」を合法化する形式になると考えられます。
特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案
(カジノ施設関係者に対する規制)
第九条 カジノ施設の設置及び運営をしようとする者(当該カジノ施設の設置及び運営に係る事業に従事しようとする者を含む。)、カジノ関連機器の製造、輸入又は販売をしようとする者並びにカジノ施設において入場者に対する役務の提供を行おうとする者(以下「カジノ施設関係者」という。)は、別に法律で定めるところにより、第十一条のカジノ管理委員会の行う規制に従わなければならない。
(カジノ施設の設置及び運営に関する規制)
第十条 政府は、カジノ施設の設置及び運営に関し、カジノ施設における不正行為の防止並びにカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行う観点から、次に掲げる事項について必要な措置を講ずるものとする。
一 カジノ施設において行われるゲームの公正性の確保のために必要な基準に関する事項
二 カジノ施設において用いられるチップその他の金銭の代替物の適正な利用に関する事項
三 カジノ施設関係者及びカジノ施設の入場者から暴力団員その他カジノ施設に対する関与が不適当な者を排除するために必要な規制に関する事項
四 犯罪の発生の予防及び通報のためのカジノ施設の設置及び運営をする者による監視及び防犯に係る設備、組織その他の体制の整備に関する事項
五 風俗環境の保持等のために必要な規制に関する事項
六 広告及び宣伝の規制に関する事項
七 青少年の保護のために必要な知識の普及その他の青少年の健全育成のために必要な措置に関する事項
八 カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴い悪影響を受けることを防止するために必要な措置に関する事項
2 政府は、前項に定めるもののほか、外国人旅客以外の者に係るカジノ施設の利用による悪影響を防止する観点から、カジノ施設に入場することができる者の範囲の設定その他のカジノ施設への入場に関し必要な措置を講ずるものとする。
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g18901020.htm
要は、カジノが胴元となり客との間で賭博をすることの合法化を目指すことになります。
この場合、ブラックジャック、ルーレット、バカラ、大小、スロットなどは、種目は違いますが、法的に合法化の対象(刑法の適用除外を目指す対象)は同じなので、一般類型として、カジノと客の賭博行為が合法化された場合には、ブラックジャックだけでなくバカラも合法化してほしいとか、ルーレットだけでなく大小もというのは、さほどハードルは高くありません。
ポーカーといっても、同じくカジノ対客の賭博になるビデオポーカーやカジノゲームのテキサスホールデムやパイガオポーカーは、カジノが合法化されれば合法化される可能性は高いと言えます。
ポーカーへの適用
それでは我々が望んでいるようなタイプのポーカー(テキサスホールデムやオマハなどのリングゲームとトーナメント。以下同じ。)についてはどうでしょうか?
ポーカーについては、カジノ業と合法化しなければいけない行為が法的に異なるため、カジノゲームが合法化されても当然には合法化されることはありません。
ポーカーは、客同士が賭博をするものであり、カジノやポーカールームは、場代や手数料を取るだけの主体になります。
この場合、合法化しなければいけない行為は、客同士がポーカーで賭博をすること(とその賭博の場をカジノが提供すること)になります。
現在、カジノ法案で客同士の賭博も併せて合法化しようという動きは一切見当たりません。よって、合法化する動きが特にない以上、カジノ法案が成立しても、客対客の賭博であるポーカーは合法化されることはないと見るのが極めて自然な解釈となります。
おわりに
海外のカジノに行くと当然の如くポーカーがあるので、カジノが解禁されれば、ポーカーも解禁されると考えてらっしゃる方も多かったかもしれません。
それでは、ポーカーと同じように客対客ゲームである賭け麻雀や賭け将棋が、カジノが合法化されれば当然の如く合法化されると思っていますか?
法的構成では、ポーカーが合法化されるのは、賭け将棋・賭け麻雀が合法化されることとほぼ同義です。
むしろ、カジノ法案に伴って合法化される可能性は、(胴元対客の賭博なので)一見遠そうに見えるパチンコの方が法的にはより高いです。
そのような動きはありませんが、こちらは法的構成を変える必要がない(許可する種目を追加するのみで対応可)ので、ポーカーの合法化よりは法的には圧倒的に容易と言えます。
スポーツ振興くじでJリーグだけでなく海外サッカーも対象にするのは難しくなくても、野球や相撲を対象にするのが未だ難しいことを考えると、社会的には決して容易ではありませんが。
したがって、ポーカーを合法化するには、カジノ法案とは別に客対客の賭博行為を合法化する特別法を制定する必要があり、そのような動きがない以上、現時点ではポーカーが合法化される可能性は極めて低いと言わざるを得ないということになります。
以上