地方における過疎化は進行していくばかり。若者や観光客を引き入れるために、生活環境や観光地を整備して解決法を模索している自治体も多い。なんてことはない場所に人が集まるには、皆が引き寄せられるような「何か」が必要となるのかもしれない。
ここにも、そんな現状を憂えて、過疎化を止めようと考えているひとりの男がいた。
「こっちは田舎だから、過疎化していくじゃん。こんな風に、どうしてここにこんなものがあるのかって、不思議に思った人たちが訪れるようになって、過疎化を食い止められたらと、今は思ってるんだよ」
自身の庭先に「古代エジプト」を作りだした、夏田さん(63)はそう語る。
世の中には、作らずにはいられない人たちがいる。役に立つとか評判になるとかを超越して、“自作”せずにはいられない人たちが。そんな人たち自身と、彼らが作ったものを、ライターの金原みわさんが追いかけます。
珍スポトラベラー。全国の珍しい人・物・場所を巡り、レポートを行う。都築響一氏主催メルマガ『ROADSIDER’s weekly』、関西情報誌『MeetsRegional』、ウェブメディア『ジモコロ』にて連載中。著書『さいはて紀行』(シカク出版)発売中。
宮崎県は美郷町。うねうねとした山道を車で走っていくと、視界が開けて田畑が広がる場所がある。特になにか観光名所があるというわけではない。長閑な田舎の風景然のそこでは、大地の香りがたっぷり詰まった心地よい風が吹きぬけるだけだ。
そこに突然現れるのは、ピラミッド、スフィンクス、ファラオ像……そう、古代エジプトの光景だ。
――作り出したきっかけってあるんですか?
「昔から物を作るのが好きだったんだよ。最初は床を作ってみたんだ。石を敷き詰めて星座を作った。こういう星座ってのは、エジプトが始まりなんだよ」
「ここにあるのは全部自分で作った。あれこれ考えて、自分でやってみるもんだね。作り出してもう30年くらいになるかなあ」
――30年! 長い間続けてらっしゃるんですね。建築の勉強とかされていたんですか?
「全然してない。象形文字とかああいうのは自分で勉強したけど。歴史が好きだったり、英語も好きだったからなるべく忘れないように学校時代から毎日一応勉強しているけれど」
象形文字は掘ったのではなくて、小さな石をはめ込んで作られている。とても芸が細かい。
――独特の色合いの石ですが、この石ってどこで買ってくるのですか?
「いやいや。石はねぇ、ほらあの連なってる山。とどろおち、ってところがあるんだけど。あそこの谷あいに、大雨が降ると必ず落石するところがあるんです。それを、拾ってくる。台風が来ると必ず石が落ちているから、台風が楽しみだったりするんだよ」
――この色合いは自然そのものだったんですね。
「そうだよ。ピラミッドの外側の石は、こっちの田舎で見つけた石だけど、大げさにいったら何億年も野ざらしになっていた石だ。おれはその野ざらしになっていた石を、大切に使っているわけだ。加工して作ってごらん、なんの味もないよ。やっぱり風雪を感じるから、それなりに味があるわけでしょう」
Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.