パナソニックとテスラが仕掛ける電力・交通革命
パナソニックが米テスラモーターズとタッグを組んで太陽電池とリチウムイオン電池の大量生産に乗り出すようです。太陽電池については、旧サンヨー電機が開発した最高水準の技術を持っているにもかかわらず、安い普及品を売る中国・韓国勢に煽られて二色の浜工場(大阪府貝塚市)を休止していたのですが、再稼働する見通しです。リチウムイオン電池については、12月に稼働予定のテスラの新電池工場「ギガファクトリー」(ネバダ州)で、約1700億円を投じて電池セルの生産を始めます。
グローバリズムが席巻するなかで先進国企業は安い労賃を求めて自国の工場を閉めて、途上国に移転してきたのですが、トランプ大統領選出と時を同じくして、先進国回帰が実現した格好です。これから、日本や米国への製造拠点の回帰が始まるでしょう。
テスラは今週中にも、太陽光発電ベンチャーのSolarCityの買収を完了する予定で、電気自動車のモデル3、家庭用リチウムイオン電池Power Wall2(14kWhで60万円)、屋根置き太陽電池の3点セットをパッケージで販売します。家の太陽光で発電して、家庭の電気製品を使い、さらに余った分を一旦電池に貯めて、それで夜電気自動車に充電する。電気も自動車の燃料も100%再生可能エネルギーで賄うCO2ゼロの夢の世界の実現への条件が整いました。
でも、皆さんは、「そんな上手い話はない。相当高くつくんだろう。」と疑われるでしょう。ところが、リチウムイオン電池と太陽電池の価格がこの10年でつるべ落としに下がっていて、あながち夢物語ではなくなっているのです。
以下のグラフはドイツ政府が出している統計です。黒が電力会社の電気料金(2016年1kWhあたり30円)で、深緑が家庭用太陽電池の発電コスト(1kWhあたり15円)、薄い緑が家庭用太陽電池とリチウムイオン電池を併用した時の発電コストです(1kWhあたり30円)(レポートの日本語解説はこちら)。何と何と、この家庭用自家発電のほうが来年電気料金よりも安くなってしまうという見通しです。
これは、大変衝撃的なデータです。巨大な発電所を地方に建てて、遠く離れた都会まで高圧送電線で送り、電柱を張り巡らせて家庭に引き込む。その方が効率的だと信じられていたのに、技術革新が「分散型電力システム」の採算性をもたらしてしまったのです。ちょうど、固定電話網が無用の長物と化して、携帯電話に移行したように。
さらに、カリフォルニア州政府はこうしたイノベーションを後押ししています。同州では自営発電助成制度(Self-Generation Incentive Program)を導入していて、テスラのPower Wall2 を買うと約20万円の補助金が貰えます。パナソニックの最新型蓄電池が40万円を切る価格で買えるのです。雪崩を打って電力の分散化が進むかもしれません。ちなみに、日本政府も同様の蓄電池補助金制度を整えていたのですが、何故か2015年をもって廃止されてしまいました。
こうした破壊的イノベーションに対して、電力会社も当然危機感を持っているのですが、既存の自動車会社もテスラにシェアを奪われてしまうのではないかと戦々恐々としていて対抗せざるをえません。メルセデスベンツはテスラと同様のソーラー蓄電池スステムを北米で販売することになりました。ベンツのロゴが付いたリチウムイオン電池は見応えがあります。
日本の自動車会社も負けてはいません。日産はイギリスで100台の電気自動車リーフを使って、電池と電力網との接続事業(V2G)を試験的に開始すると発表しました。出遅れていたトヨタ自動車も、最近になってようやく電気自動車開発に乗り出し、12月にもE社内ベンチャー発足、豊田自動織機などグループ企業も参加するということで猛追をはかります。マツダも3年後に電気自動車の量産体制の整備を発表しました。
KDDIとソフトバンク(Vodafone)が国内電話の世界に携帯電話で殴り込んで、固定電話を陳腐化させたように、自動車会社が「携帯電力」で、電力会社のアンシャンレジームもぶち壊しにくるでしょう。
余談ですが、「電気自動車はスマホと同じ、我々が天下を取る」と豪語していた、中国の野心的なテック系企業のLeEcoの電気自動車開発は頓挫している様子。韓国現代自動車も電気自動車では出遅れています。やはり、IoTのポストグローバル時代に、汎用品を売りまくった中国・韓国の立ち位置は厳しくなっているようです。
しかし、本当に電力と自動車の燃料が全て太陽光発電で賄われる世界がくると、日本の貿易支出の大宗を占める原油やガスを輸入しなくてよくなるので、経済状況は圧倒的に有利になります。自動運転やシェアエコノミーと並んで、少子高齢化に直面する日本に福音をもたらします。パナソニックとテスラには大いに期待しましょう。
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