試乗を終えて戻ると、広報の女性スタッフが「いかがでしたか?」とにこやかに笑って言った。その表情は自信あり気だ。「良いクルマだったでしょ?」。
今年12月22日、マツダはロードスターに電動金属ルーフを備えた「ロードスターRF」を追加発売する。いろいろな意味でロードスターとしては異端である。異端なのだが、正直なところ本当に良かった。
「社内では、幌のモデルはスポーツカーそのものに向き合うクルマ、RFはスポーツカーのある生活を楽しむクルマだと言っているんです」。
試乗したからこそマツダの言いたいことが分かるのだが、原稿に書くのがとても難しい。どこから書こう。やはり最初にロードスターの基本形とも言える幌のモデルの説明をしないことには、RFの何たるかは語りようがない。
歴代ロードスターとは、そもそも低速コーナー特化型のスポーツカーである。具体的に言えば2速、あるいはせいぜい3速までで楽しむクルマだ。ボトムスピード時速80キロメートル以下がスイートスポットだ。もちろん高速が使えないわけではないが、圧倒的におもしろく、「ロードスターは唯一無二だ」と思わせるスイートスポットは低速だ。
厳しい言い方をすれば、高速での挙動は落ち着かない。短く丸いリヤデッキは、リヤに荷重を掛けるのが難しい。四輪車はその基本特性として、前輪は俊敏性、後輪は安定性をつかさどる。そして、タイヤは垂直荷重に比例して能力を発揮する。前輪への荷重を増やせばよく曲がり、後輪への荷重を増やせば安定する。余談だが、マツダはFF車のGベクタリングコントロールで、わずか2キログラム程度の荷重の増減でハンドリングが変わることを証明してみせた。
つまり高速コーナーを安定して走ろうと思えば、リヤに荷重を掛ける必要がある。フロントミッドシップで、基本荷重を50:50にしてあるのだから……と言いたいところだろうが、それでは足りない。たった数キロでもかまわないから、空力の助けを借りないと十分な安定性が手に入らない。
だが、ロードスターは決然と前後オーバーハングを短く、またその重量を徹底軽減する道を選んできた。リヤは空力形状的にダウンフォースを得にくい上に、着力点とタイヤの距離が近いからテコが効きにくい。だからロードスターは低速コーナーでは唯一無二の痛快さを持つが、高速コーナーはその本領を発揮するステージではないのだ。
その見事な割り切りこそがロードスターの神髄であった。ところが、ロードスターはグローバル車なので、欧州でも北米でも売れる。かの国々では平均移動距離が日本とは比べものにならないほど長く、アベレージが高い。日本よりはるかに高い速度レンジを日常的に使う。だから「高速安定性を何とかしてくれ」という声は長らく開発陣に届けられていたのだ。
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